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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-02 "INVISIBLE DAMAGE"
83/93

CHAPTER-83


 ホール内に大勢のRRCAエージェント達が集まり、事後処理作業が行われていた。

 昏倒したRRCAエージェント達全員が1人ずつ検査され、担架によって運び出されていく。裕介はそんな様子をベンチに腰かけて見守っていた。

 1人の少女がふと、裕介に目を留めて歩み寄ってきた。頭の両端で少しだけ縛られた銀髪が揺れているのが、裕介にも見えた。


「大丈夫?」


 声の届く範囲に入ると、彼女はすかさず裕介に問うた。

 裕介は頷き、


「ああ、オレはどこも負傷してないよ」


 彼女――RRCAの医療チームに属するエージェント、エンニ・セデルストロームに応じた。

 裕介より1学年下の後輩で、15歳という年齢にして医療・救護の知識と技術に秀でており、既にグレードBの権限を与えられているエンニ。既に現場に出て活動し、特に負傷者の手当てにおいて数多くの功績を挙げているという。

 性格はどこかぶっきらぼうで素っ気なく、それでいて気が強くて負けず嫌い。扱いづらいという評判をしばしば耳にするが、それでも裕介はエンニを信用していた。彼女にも良さはある、それをよく知っているのだ。


「そう……それじゃ私、負傷者の救護をしなくちゃならないから」


 裕介などどうでもいいと思った訳ではなく、昏倒したRRCAエージェントを助けなければならないという使命感から出た言葉だった。

 踵を返すエンニ、忙しい中申し訳ないと思いつつも、裕介は彼女を引き留めた。


「エンニ!」


 長い銀髪がふわりと空を泳ぎ、エンニが振り返る。

 

「何?」


 裕介は彼女に、


「なあ、他のエージェント達は大丈夫なのか? もしもの事とか……!」


 今ここで倒れているRRCAエージェント達と、裕介は面識がある訳ではない。しかしそれでも、彼らが裕介の仲間である事に変わりはなかったのだ。

 確かに彼らはRRCAエージェントとしての活動と勉学の両立に限界を感じ、あのアプリに手を出してしまった。それを愚かな行為だと断じる事は、裕介には出来ない。裕介自身も、これまでRRCAの手帳を棄ててしまいたいと思った事は幾度もある。

 もしかしたら、裕介もあのエージェント達の1人になっていたかも知れない。断じて、彼らには何の非もないのだ。

 エンニは再度裕介に歩み寄ってきて、質問に答えた。


「全員の検査をしている最中だけど、いずれも命に別状はなし。詳しい検査は病院の専門スタッフに委ねるけど、現時点ではそこまで心配する必要はないと思うわよ」


「本当か……? 本当だよな……!?」 


 特にエンニを疑った訳ではなく、裕介は純粋に仲間達の身を案じて言ったつもりだった。

 けれど、フィンランド出身の少女はむっとした顔をする。


「何、私の事が信用出来ないって事?」


 咄嗟に、裕介はエンニの言葉を否定出来なかった。仲間達の事で頭が一杯になっていたのだ。

 すると彼女は裕介と視線を重ね、語り始める。


「アンタは犯罪者を捕まえ、一般市民に危害が及ぶのを防ぐのが仕事、そして私の仕事は要救助者の命を守り、その生存を確実にする事。内容は違えども人を助けるという事は何も変わらないの。分かるでしょ、アンタが命懸けで戦ってるのと同じように、私達も命懸けで人を助けているのよ」


「あ……」


 真意の籠ったエンニの言葉に、裕介はまともに返事も出来なかった。

 エンニはポケットを探り、革製の手帳を取り出した。それは彼女のRRCAのIDカードが収められている物だった。

 裕介に、その中身を見せてくる。


 RRCA-ID:0901-2703-9508

 ENNI CEDERSTROM


 GRADE-B


 エンニのグレードは、裕介の有する最上位のSから2段階下のBだ。肩書上の役職としては『LEADING AGENT』であり、現場に出て実際の任務に携わる事が許可されるグレードである。

 グレードSやAと比べればその権限には制限が掛かっている(所属支部を飛び越えての活動が許可されない、国家規模に相当すると判断されるミッションに携わる事が出来ないなど)ものの、研修生という段階からは卒業し、警察官とほぼ同等の責任を負うと言っても間違いではないグレードである。


「目の前で倒れてる仲間がいるのなら、助けるために最善を尽くす。今までもこれからも私達はそう、半端な気持ちでこの手帳を持ってるわけじゃないのよ」


 確固たる意志の籠ったエンニの言葉。例えグレードがCでも、それより下のDであったとしても、彼女は同じ事を言うに違いなかった。

 裕介は、彼女を信用しきれなかった事を悔やみ、謝る。


「エンニ、悪かった。助けてくれ……皆を」


 エンニはRRCAの手帳をポケットにしまうと、そう応じた。


「当たり前でしょ」


 一見するとトゲがある言葉だが、そこには彼女の強い意志が垣間見えた。ぶっきらぼうで素っ気ない性分のエンニだが、人を救うためならば手を抜いたりはしない。RRCAもそんな彼女の良さを見出したからこそ、グレードBの権限を与えたのだと裕介は思っていた。

 エンニなら、昏倒したRRCAエージェント達を救ってくれる……裕介はそう信じる事に決めた。

 と、玲奈から通信が入る。


『エンニちゃん、良い子だよね』


 玲奈はヘッドセット越しに、今のやり取りを全て聞いていたのだ。

 裕介は応じる。


「何だかんだで優しいんだよな、あいつ」


 エンニもまた、RRCAエージェントとして共に苦楽を分かち合った仲間だと裕介は思っていた。さっき彼女が口にした言葉は、昔の彼女からは想像もつかない言葉だ。

 そして、玲奈からさらに通信が入る。


『お疲れ様裕介、犯人も拘束されたし……今回のミッションは一先ずこれで終了よ。後始末は他のエージェントに任せて、引き上げて』


 その時だった、事件の首謀者として連行されていくエディと、裕介の視線が重なった。

 それは一瞬だった、しかし裕介には『このままじゃ済まさない、俺は戻ってくる』というエディの意思が感じ取れた気がした。


『裕介、聞こえてる?』


 返事がない事を怪訝に思った玲奈に言われて、裕介は我に返った。


「ああ悪い玲奈、すぐに引き上げるよ」


 




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