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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-02 "INVISIBLE DAMAGE"
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CHAPTER-82


 広場に鳴り渡った銃声が、ミッション失敗を告げるサイレンのように感じられた。

 犯人が消えれば事件は解決する、裕介にはそんな思考は存在しない。犯人を殺害する事なく拘束し、罪を償わせる事。それこそが常道だと裕介は考えていた。

 エディの自殺を防げなかった。その事実に直面した裕介は、絶望感に苛まれる――しかし、それは一瞬だった。

 様子がおかしい、と裕介は思った。自らの頭を撃ったエディが、倒れていない。彼はよろけたまま、数歩後退したのみだ。

 そして、裕介は気付いた。先程の銃声は、エディが持つ銃から発せられた物ではない。


「っ!」


 後ろから気配を感じて、裕介は振り返った。

 1人の少女が、ゆっくりと歩み寄ってくる。その片手には、銃口から硝煙を上げる拳銃が握られている。

 

「リサ……!」


 外で待機していると思っていたはずのリサが、そこにいた。

 先程の銃声の源は、彼女が持つTH2033だったのだ。リサがエディの持つ銃を撃ち、彼の自殺を止めたのだった。エディのデバイスを正確に打ち抜き、今度は彼の手から拳銃を打ち払った。流石だと感心せざるを得なかった、リサはグレードAだが、銃の腕ならばグレードSにも匹敵する。

 銃口をエディに向けたまま、リサは裕介を向いた。


「ごめんユースケ、外で待ってろっていう指示破っちゃった」


 後方から別の足音が聞こえた、振り返るともう一人の仲間が、裕介に歩み寄ってきていた。

 彼は言う。


「裕介が戦ってんのをただ指をくわえて見ているだなんて事、やっぱ俺らには出来ねーからよ」


 耀だった。裕介とは幼馴染で、彼もまたリサ同様にグレードAのRRCAエージェントだ。

 安堵と嬉しさに、裕介は思わず頬を緩める。


「耀、リサ……」


 裕介は確かに、この2人には手を出さないよう指示した。エディとの因縁に決着をつけるのはあくまで自分の役割であると感じていたからだ。

 しかし、こんな嬉しい助けはない。2人の仲間に、裕介は心からの感謝を贈る。


「ありがとな2人とも、助かったよ」


 ネイトがここに居ない理由を、裕介はあえて尋ねなかった。彼の事だから、何か考えがあるに違いない。

 2人の友人は小さく頷く、するとリサが前に歩み出つつ、言った。


「それに……」


 その時、リサは見た事のない形相を浮かべていた。

 それは怒りに満ちた、険阻で威圧感のある表情だった。いつもの陽気で明るく、溌溂としていて可愛らしいリサからは想像もつかないような顔だ。

 裕介は思わず息を呑んだ、普段のリサとはギャップがあり過ぎて、恐怖すら覚えてしまう。

 そして、


「仲間を大勢傷つけられて赦せないのは、あたし達も同じだから」


 周りには、エディが頒布したアプリの所為で昏倒した少年少女達。彼らは全て裕介達と同じRRCAエージェントであり、仲間だ。

 エディのした事は、到底赦される事ではない。

 その気持ちは十分に理解出来たが、裕介は今にもエディに掴みかからんとしているリサを片手で制した。


「悪いリサ、ここはオレに任せてくれないか。あいつがこんな事をしでかした責任の一端を、オレは担っているからな」


 リサは裕介の言葉の意味を訊こうとはせずに、


「分かった、きっちりお願いねユースケ」


 全ての決着を託してくれた。

 自分でまいた種を残らず回収する許可を得、裕介はエディへと歩み寄った。先程のリサにも負けない険阻な眼差しが、犯人には向けられていた。

 デバイスを破壊され、銃も叩き落されたエディには、最早裕介に対抗する手段は存在しなかった。そもそも、洗脳したRRCAエージェント達をけしかけてさえこなければ、裕介は彼を一瞬で鎮圧し、拘束する事が可能だったのだ。


「ぐっ、う……!?」


 腕の痛みに悶えていたエディが、裕介を向いた。

 万策尽き果てて、事件の首謀者はただ後ずさるだけだった。しかしそんな行為は所詮無意味に等しい。

 もう抵抗する手段も、逃げ道も存在しない。この状況ならば流石に観念するかと思ったが、エディは視線を外して口元に笑みを浮かべた。


「はっ、お手上げだな……流石RRCA、卑怯な手を使いやがる」


「卑怯だと?」


 エディが再び、凶変する。


「そうだ、口では人を守るのが仕事と言っておきながら女の子の1人も助けてくれず、挙句俺1人相手にこんな人数寄こしやがって……お前らは卑怯者だ、卑怯者の偽善者集団だ!」


 ……裕介は、ただ黙ってエディを睨みつけた。言葉は最早、必要ないと感じた。

 刃物のごとき視線でエディを射抜いたまま、裕介は足早にエディへ歩み寄る。身の危険を感じたのだろう、エディが後ずさる。


「なっ、何だよ、何か言えよ……!」

 

 だじろぐエディ、裕介は黙って彼に向かって距離を詰めていく。

 ふてぶてしかった態度が一変して、情けない声がエディの口から発せられる。


「く、来るな……来るな!」


 エディの背中が、壁に当たった。もう後ろに下がる事は出来ない。

 裕介はその顔面に向けて拳を振り上げる。デバイスは起動されていた、今の裕介の一撃の威力は銃を軽く超える。


「ひっ!」


 次の瞬間、裕介は全身の力を込めてパンチを放った。

 だが、当ててはいなかった。凄まじい轟音を鳴り渡らせ、彼の拳がエディの顔すれすれに壁にめり込んだ。もしも当たっていれば、エディは顔面を砕かれていただろう。

 本当ならば当ててやりたかった、だがそうするわけにはいかない。

 しかしどうしても、裕介はこのクソ野郎を赦す事は出来なかった。胸倉を鷲掴みにして、裕介はエディの体を手荒く左へ引く。

 

『裕介!』


 ヘッドセット越しに玲奈の声が聞こえた気がした。しかし、裕介は気にも掛けない。

 

「卑怯者がどっちだか、よく考えやがれこの馬鹿野郎!」


 再び、右手の拳をギリッと握りしめる。

 そして今度は外さずに、裕介はその拳をエディの顔面へと突き立てた。鈍い音が響き渡り、エディが微かに声にならない声を上げた。彼は地面に倒れ伏し、やがてガクリと動かなくなった。

 我に返った時、裕介は自身の呼吸が荒くなっている事に気付く。


『裕介、もうやめて!』


 目の前に横たわるエディを見つめたまま、裕介は玲奈に応答する。


「はあ、はあ……大丈夫だ玲奈、デバイスは切ってる」


 デバイスを起動していなくとも、鍛え上げられた裕介の力から放たれたパンチ。意識を奪い取るには十分な威力を備えていたのだ。

 エディの鼻から、だくだくと鼻血が流れ出ているのが見えた。だが決してやり過ぎたとは思わない、この程度のパンチ1発で赦されて、むしろ感謝して欲しいくらいだ。

 やっと呼吸が落ち着いてきた、裕介は玲奈に言う。


「このクソ野郎をぶん殴ってやらねえと……どうしても気が済まなかった」






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