CHAPTER-73
ネイトは耀、そしてリサと共に車で商業施設へと赴いていた。
その目的は一連の事件の犯人、エディ・アルダーソンの確保。一足先に確保に向かった裕介の後方支援、それがネイト達の任務だった。
ハンドルを握っていたのは耀だった、彼は商業施設の側の道路に停車した、ネイトはイヤークリップヘッドセットを通じ、玲奈と通信する。
星空に浮かぶように立つ商業施設を見上げながら、ネイトは問うた。
「今到着した。玲奈、状況は?」
返事を待つ間に、ネイトは車から降りた。
『裕介がエディ・アルダーソンと接触したわ、彼が差し向けたIMWと交戦中!』
思わぬ返事に、ネイトは微かに表情を曇らせる。
「何?」
側にいたリサが、「どうしたの?」と尋ねてくる。ネイトは彼女に視線を移して応じた。
「犯人がIMWを所持していたらしい、裕介が交戦している」
「嘘っ、IMWを持ってるなんて聞いてないよ……!?」
IMWを差し向けてくるとは、今戦っている裕介も予想外だったに違いない。
この任務に向かう前、ネイトは裕介からエディ・アルダーソンについて説明を受けていた。それによると彼は普通の高校生との事だったが、どこかからIMWを入手したらしい。
耀が提案してくる。
「こうしちゃいられねーよ、急いで裕介を助けに行かないと!」
どんなタイプのIMWを繰り出されたかは分からないが、裕介が簡単に負ける筈がない事は耀は十分承知の筈だ。それでも仲間が襲われていると知って、ただ手をこまねいている事など出来ないのだろう。
気持ちは確かに分かる、しかしネイトは間髪入れず、それを否定した。
「いや、裕介からは下手に手を出さないように言われている。それに犯人が更なる隠し玉を持っている可能性も高い……こっちが大人数だと知れば、破れかぶれの行動に出る危険もあるかも知れない。今は様子を見よう」
耀は何か言いたげだったが、納得するように頷いた。
リサが、心配したような面持ちで耀に言う。
「大丈夫だよね、ユースケ」
リサの言葉を受けた耀は、再びネイトに向き直って、
「ネイト、今はお前の意見に従うが……もしも万が一、裕介の身が危うくなったら直ぐに助けに向かう。その時は異論は聞かねーぜ、それでいいな?」
耀は裕介の強さを甘く見ている訳ではない、ただ、彼の身を案じているだけなのだ。
数か月前の事件の時、裕介はIMWによるアクアティックシティへの無差別攻撃を食い止めるために捨て身の手段に打って出た。結果彼は一時、足を切断する事も考慮する必要がある程の重傷を負った。
その時は耀も、裕介の事を心配したのだ。
リサも同じ考えを抱いているらしく、彼女はネイトと視線を合わせて頷いた。
「ああ、分かっている」
いつも通り僅かも表情を変えず、ネイトは答えた。
◇ ◇ ◇
裕介に差し向けられた大型犬型IMWは全部で8機。
内数機の口部分が開き、中から武骨な銃身が姿を見せる。その銃口が向けられたと思った刹那、裕介に向かって機銃が発射された。
2連装マシンガン、それが大型犬型IMWに与えられた武装だった。
知能搭載式・4足歩行砲台。大型犬型IMWを別の言葉で表現するならば、そんな所だろう。
「っと!」
裕介はすぐに物陰に身を潜め、大型犬型IMWの射線上から退避する。
銃声と共に、弾丸が壁や地面を抉る音が鼓膜を揺らした。
明らかに不利な状況だった。並みの者であれば、この状況の最中では反撃はおろか、物陰から出る事すら出来ない。少しでも体を出そうものなら、大型犬型IMWの集中砲火を浴びて蜂の巣にされてしまう。
しかし、裕介は冷静だった。表情を変える事もなく、彼は策を巡らせる。
その時だった。
『裕介、上から来る!』
玲奈の言葉に導かれたように、裕介は視線を上に向ける。
大型犬型IMWが数機、上空から裕介に迫っていた。
その口から覗いているのは機銃の銃身ではなく、別の武器だ。
(レーザーカッター!)
緑色のプラズマの光刃が、大型犬型IMWの口を中心に展開されていた。まるで骨をくわえる犬のようにも見えるが、恐ろしさは比ではない。
少しでもあの光刃に触れようものなら、放出されている膨大な熱エネルギーの餌食になる。鋼鉄をも切断する威力を備えているのだ、裕介の体など容易く溶断されてしまうだろう。
裕介は思い違いをしていた。
大型犬型IMWは、8機全てが機銃を装備したタイプではなく、機銃を装備した物とレーザーカッターで武装した物、二つのタイプが存在したのだ。
機銃を装備したタイプのみならば、攻撃を掻い潜りながら反撃するだけで済んだ。しかし近距離攻撃を仕掛けてくるタイプもいるとなると、対処の方法も複雑になる。
「ちっ!」
裕介はショルダーホルスターからTH2033を抜き、迫ってくる大型犬型IMWに向けた。
狙いを定めて引き金を引く、発射された弾丸は2機の大型犬型IMWを打ち抜き、物言わぬ鉄屑へと変じさせた。
しかし2機の大型犬型IMWが残り、光刃を展開させたまま上空から裕介に襲い掛かる。
――間に合わない。そう判断した裕介はその場から飛び退いた。
直後、裕介が立っていた場所を光刃が直撃する。轟音と共に地面が抉り取られ、隕石でも落ちたように小さく燃えていた。
(装甲はそうでもなさそうだが、1度でも喰らえば終わりか……!)
大型犬型IMWの装甲は、拳銃で撃ち抜ける程度に薄い。つまり、銃弾を1発命中させれば倒す事が出来る。
防御面は確かに脆弱と言えるだろう、しかし問題なのはその攻撃力だ。
先程倒した個体を除いても、大型犬型IMWはあと6機残っている。機銃で遠距離攻撃を仕掛けてくるタイプが4機、そしてレーザーカッターで襲ってくるタイプが2機だ。
裕介の超感覚を持ってしても、その波状攻撃を見切るのは容易ではないだろう。
それでも、裕介は活路を見出した。
イヤークリップヘッドセットを耳に押し込んで、彼は玲奈に言う。
「玲奈、今からこいつらを倒す。協力してくれ」




