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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-02 "INVISIBLE DAMAGE"
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CHAPTER-72


 夜7時頃、裕介はアクアティックシティのある商業施設の屋上にいた。

 その日は何やらイベントが開催されているらしく、この場所から見える花火を目当てに多くの人々が集まっている。

 勿論、裕介がこの場所を訪れた目的は花火の観賞ではない。

 一連の事件の決着をつける為だ。

 程なくして、裕介は目当ての人物の後ろ姿を視界に捉えた。

 躊躇なくショルダーホルスターからTH2033――RRCAエージェントに支給されている拳銃を抜き、銃口を夜空に向ける。

 そして裕介が引き金を引くと、夜空に『EVACUATION ORDER』――『避難命令』という文字が浮かび上がった。途端に周囲が慌ただしくなる。


「避難命令だ!」


「ここを離れるぞ!」


 屋上に集まっていた人々が、蜘蛛の子を散らすように立ち去っていく。

 裕介が撃ったのは、RRCAで使用されている信号弾だ。一般市民に対し、この場からの退避を命じる際に用いる物である。

 RRCAエージェントがこの弾丸を撃った際は、速やかにその場を離れなければならない。信号が赤の際は横断歩道を渡らないのと同様、一般市民には『常識』として広く知れ渡っている事である。

 しかし逃げ惑う人々の中で1人だけ、その少年は微動だにしていなかった。

 屋上から裕介と彼以外の誰もいなくなった時、彼はゆっくりと振り返った。 


「よお」


 TH2033を下ろしつつ、裕介は彼に――エディ・アルダーソンにそう声を掛けた。

 友達と話すような気軽な声、しかしエディを見つめる裕介の瞳には険阻な色が浮かんでいる。エディに対して、これまで1度も向けた事の無い瞳だ。

 エディは全く動じる事もなく、涼しさすら浮かんだ様子で応じた。


「ああ裕介君、奇遇だね。こんな所で会うなんて」


 裕介は片手にTH2033を握ったまま、


「奇遇な訳ねえだろ、もう全部分かってる。だから下手な芝居は止めようぜ」


「え? 一体何の事かな」


 エディはキョトンとした表情を浮かべた。

 とても演技には見えない。

 しかし、裕介にはそれが演技だと分かっている。だから、エディの化けの皮を剥ぐ証拠を提示する。


「今回の事件の真相が分かったんだよ。例のアプリで昏倒した人間の脳波には、その全てからある1人の人間の脳波が検出された。それから犯人がこのアプリを広める為に作ったLIMEのページ……その製作者も突き止めたのさ」


 エディは何も言わなかった。言わなかったが、その口元に笑みが浮かんだように見えた。

 裕介は、重々しく言い放つ。


「まさかお前だったとはな、エディ」


 エディは沈黙した。

 少しの間を置いて、彼はふっと笑みをこぼす。


「流石RRCA、思ってたより早く真相を突き止めたね」


 エディは、裕介の言葉を否定しなかった。

 裕介にこの事件の捜査を依頼し、更に有力な情報提供もした自分が犯人である、そう認めたのだ。

 沸き上がる感情を抑え込み、裕介は出来得る限り平静を装って応じる。


「自分が犯人だとすぐバレる、それを覚悟していたような口ぶりだな?」


「その通りさ、別にバレたところで本来の目的を達せれば何の問題もない。そう思った」


 何の言い訳もせず、すらすらと答えるエディ。

 証拠を突き付けられ、追い詰められている状況だというのに、妙な余裕を感じさせた。


「本来の目的だと、こんな事をして一体何になるってんだ?」


 次第に、裕介の言葉に怒りが浮かび始める。エディの返事を待とうともせず、続ける。


「お前がばら撒いたアプリの所為で何人の人間が傷ついたと思ってんだ、自分が何をしでかしたのか分かってんのか!」


 エディは表情を変える事も無く、


「君に……いいや、『君達』にそんな事を言われる筋合いはないね」


 そう反論した。

 彼が口にした『君達』という言葉が何を意味しているのか、裕介にはすぐに理解出来た。

 裕介は、確信を突く質問をする。 


「お前の目的ってのは、復讐か? 俺達RRCAへの」


 エディは、鼻で笑みをこぼした。

 両手をズボンのポケットに突っ込み、彼は冷たい眼差しで裕介を見据える。


「こっちの事も全部調査済みって訳か、ああその通りさ。俺の目的は復讐だ」


 エディが瞳を閉じる。


「お前達への……彼女を見殺しにした、お前達RRCAへのな!」


 そう叫んだ時のエディは、まるで鬼にでも変貌したかのような形相を浮かべていた。

 彼はズボンに入れていた両手を出す、その右手には銀色の筒状の物体が握られている。身を振りかぶったと思った次の瞬間、エディはそれを裕介に向かって投げつけてきた。

 自分の足元に転がり落ちたそれが何なのか、裕介は即座に理解する。


(閃光手榴弾!)


 スタングレネードやフラッシュバンとも呼ばれる特殊手榴弾。

 炸裂時に強烈な爆音と閃光を放出し、付近の人間を一時的に難聴・失明状態に陥らせる武器である。直接的な殺傷能力は持たないものの、相手を無力化するには十分だ。

 裕介はデバイスを起動して、すぐさま後方の物陰に身を潜めて固く目を閉じ、耳を塞ぐ。

 瞬間、後方から凄まじい閃光と爆音が発せられる。

 

「っ!」


 咄嗟の行動が功を成し、閃光手榴弾を防ぐ事に成功した。閃光と爆音が止んだのを確認し、裕介は物陰から飛び出した。

 ――そこに、エディはいなかった。

 閃光手榴弾を投擲し、その隙に乗じて逃走したのだろう。

 裕介はTH2033に別の弾倉を装填した、今度は信号弾ではなく、ショックウェーブ弾だ。

 そしてポケットからイヤークリップヘッドセットを取り出し、装着する。


「玲奈に電話!」


 たった1度だけの着信音を経て、電話は繋がった。

 

『裕介?』


 裕介は応じる。


「悪い玲奈、エディに逃げられちまった。これから追うからバックアップを頼む」


 まさか閃光手榴弾を持っていたとは、予想外だった。だが、今追えば捕まえられる。

 それが甘い考えだと裕介が思い知らされるのは、すぐの事だったのだ。

 裕介に立ちはだかるように、ビル上の噴水やベンチの陰から独特の駆動音と共に数体のIMWが現れた。駆け出そうとした裕介は、ブレーキをかけるように立ち止まる。


「IMWだと……?」


 出現したのは、大型犬型IMW(IMW-TYPE:IRISH WOLFHOUND)。

 RRCAアクアティックシティ支部などに配備されているビーグル犬型IMWと同様、犬を模したIMWだ。しかしその体高(地面から背中までの高さ)は1メートルにも達し、立ち上がれば2メートルを超える。

 警備用のビーグル犬型IMWとは異なり、完全に対人戦闘用に作られたIMWだ。


『アイリッシュウルフハウンド型IMW……裕介、注意して!』


 裕介は再度デバイスを起動し、戦闘に備える。






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