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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-02 "INVISIBLE DAMAGE"
70/93

CHAPTER-70


 第23オペレーティングルームで、玲奈は画面に視線を釘付けにしながらキーボードを叩いていた。

 彼女が行っているのは、裕介を襲った3人が所持していた携帯電話の解析だ。

 手掛かりが掴めるかなど分からない、しかし調べられる事があるなら、当たるのが筋だろう。


(よし……解除!)


 エンターキーを叩くと同時に、本来暗証番号を入力しなければ表示されないホーム画面が映る。

 玲奈が無理矢理ロックを外したのだ。

 携帯電話を手に取って、玲奈は画面をスワイプしてみる。そしてすぐに、件のアプリが見つかった。

 眉間に皺を寄せつつ、玲奈は呟く。


「やっぱり、あの3人も……!」


 知性を高める代わりに、その者を昏倒させるという悪魔の手紙。

 この事件の鍵を握っているであろうアプリ、『ΠΑΝΔΩΡΑ』がインストールされていた。他の2人の携帯電話も調べてみたが、やはり同様にインストールされていたのだ。


「玲奈、やっぱりあったの?」


 玲奈は椅子をくるりと回転させ、後ろを振り返る。

 声の主のメイシーは、分厚い紙束を抱えて部屋の中を歩いていた。きっと何かの重要書類だろう。


「はい、メイ先輩……やっぱり怪しいですよこのアプリ」


 メイシーは紙束を机の上に置くと、


「そのアプリの配信は停止させたわ。とりあえず、これでもうダウンロードは出来なくなってる……でも、解決には至ってないわね」


 ダウンロードは出来なくとも、既に入手していた者は無数に存在する。その者達の携帯電話にこのアプリが存在している以上、これから新たな被害者が出る可能性は大いに考えられる。

 

「そうですね、既にダウンロードされてしまったこのアプリを起動出来ないようにしないと、被害者は出続ける……!」


 配信を止めるのは比較的容易だが、個人の携帯電話にインストールされたアプリを起動不可能にするのは、難易度が大きく跳ね上がる。

 不可能だとは思わないが、玲奈はそんな事をした事がないし試みた事もない。恐らく携帯会社との交渉なども必要になってくるだろう。

 それに今、玲奈が優先しなくてはならなかったのは別の事だった。


「サイバー犯罪対策部の仲間に掛け合って、その方面の知識がある人がいないか探してみるわ。玲奈は調査を続けてて」


「すみませんメイ先輩、お願いします!」


 メイシーが第23オペレーティングルームから出ていき、玲奈1人だけが残る。

 玲奈は改めて、例のアプリを使用して昏睡状態に陥った少年少女達のリストをモニター上に表示した。年齢も国籍もバラバラで、共通点は全員が学生であるという事くらいだ。

 やはりここからは、犯人に繋がる手掛かりは得られそうにない。

 と思った時、玲奈の頭に何かが引っ掛かった。


「ん? そういえば……」


 ふと思い至って、玲奈は別のモニターを操作し、そこにRRCAのデータベースを表示した。氏名とRRCA-ID、さらに20桁にも及ぶパスワードを入力する。

 認証に成功し、玲奈はRRCAエージェントの名簿リストにアクセスする。本来ならば上層部の許可を得なければ閲覧できない極秘ファイルだが、グレードSである玲奈にはその制限は適用されない。

 検索エンジンに、裕介を襲ったサム以外2人の名前を入力し、エンターキーを押す。すると2人の顔写真や出身地などの個人情報、それにグレードも表示された。


(あの2人も、RRCAエージェントだったんだ……!)


 サムとは面識があったため、彼がRRCAエージェントである事は知っていた。

 しかし他の2人もRRCAエージェントだったという事は、今の時点で初めて分かったのだ。

 例のアプリで昏倒した少年少女達は、全員がRRCAエージェントである訳ではない。しかし、洗脳されて利用された者は、どうなのだろうか? 

 玲奈は、そこに事件の鍵があるように感じた。

 詳しく調べよう。そう思った時、玲奈のポケットから着信音が鳴り渡る。

 画面には、エンニからの着信を知らせるメッセージが表示されていた。

 玲奈は応答する。


「美澤です」


 電話越しに、サイレンの音が聞こえた。


『もしもし、こちらエンニ。さっきRRCAエージェントが武装した学生十数人に襲撃されて、その事後処理の現場にいるの。それで、襲われたエージェントから貴方に伝えるよう頼まれていた事があって』


 年上への敬意を感じない言葉遣いだった。

 エンニとは、玲奈は顔見知り程度の間柄だった。玲奈より下の学年で、彼女は確かRRCAの医療チームに所属している。協調性やコミュニケーション能力に難があるそうだが、救護の知識や技能に秀で、グレードBでありながら数々の現場にて活躍し、期待されているRRCAエージェントだ。

 彼女が玲奈に電話を掛けてくるのは、初めての出来事だった。


「頼まれていた事……? 襲われたエージェントって!?」


 裕介の他に誰かが襲われた。その事実を悟り、玲奈は慌てて問い返す。


『ネイト・エヴァンズ。心配しないで、彼は負傷していないわ。むしろ襲った側十数人の救護に手間取ってるくらいよ』


「ネイト君まで……?」


 裕介に続き、ネイトも襲われた。

 たった今知った事実に、玲奈はただ驚くのみだった。


『彼からの伝言を伝えるわね、自分を襲った者達の名前をRRCAのエージェントリストで検索して欲しいって』


 ネイトも、気付いていたのかも知れない。

 玲奈が先程掴んだ事実、洗脳され利用されている少年少女は皆、RRCAエージェントだという事に。

 

「分かった、名前を言ってくれる?」


 玲奈はキーボードに手を添えて、入力する体制に入る。


『ネイトを襲撃したのは全部で14人、まず1人目は……セドリック・ジュブワ。国籍はフランス』


 情報を入力し、検索する。

 エンニは襲撃者の身元確認が出来る物を見つけ出し、そこに記載された情報を伝えているのだ。


「該当者あり……RRCAエージェントだわ」


 セドリック・ジュブワという少年の顔写真や、出身地などの個人情報が表示された。

 グレードはBだった。


『次……サミュエル・ドゥアラ。国籍はカメルーン』


 同じように検索すると、やはり該当人物が存在した。

 その後も、玲奈はエンニが読み上げていく名前をRRCAのエージェントリストで照合し続けた。

 14人全員が、RRCAエージェントだった。

 9人がグレードB、5人はグレードAだった。


『報告は以上よ』


「ありがとうエンニちゃん、それじゃ……」


 平静を保つよう努めつつ、玲奈は電話を置いた。

 抱いていた仮説が、確信に変わった。


「この事件の犯人の狙いは、私達RRCAエージェントだって事……?」






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