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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
7/93

CHAPTER-07

 

 ウエストサイドハイスクール2階、VRMS室。

 壁にはめ込まれるように設置された巨大モニターに、幾つものコンピュータ。さらに、医療に用いるMRI装置のような機械が何十台も整列する、まるで体育館のように広い部屋。

 けれどその雰囲気は、体育館などとはまるで似つかない。どこかの手術室――ないしは生体実験室を思わせる機械だらけの部屋に、沢山の少年少女達が集まっていた。

 皆、各々の友人と会話をしている。

 

「悪い耀、昨日事件の所為で約束守れなくなっちまって」


 壁際に設置された長椅子に座る裕介は、自身の右隣に腰かけている少年に弁明していた。裕介の左隣には玲奈が座っており、2人の少年のやり取りを見守っている。


「いやいや俺は別にいいって、けどベンさん残念がってたぞ? 裕介に特価で服売ってやるって言ってたのに」


 裕介の隣に座っている彼――長い髪型をしており、黒髪に数か所、茶色のメッシュを入れた日本人の少年は答える。彼の容姿は17歳としては大人びており、20歳前後と言われても何ら違和感を感じない。加えてその背は高く、180センチ前半程もあった。

 座っている状態でも、側に座る裕介と玲奈との座高の差は極めて大きい。


「ま、緊急だったんだろ? それなら仕方ねーよな」


 彼――『長瀬耀ながせよう』が言うと、裕介は数度頷いた。耀の口調は穏やかで、誠実な性格を押し出すかのようである。彼はアクアティックシティのあるブティックでアルバイトをしており、裕介は昨日耀のバイト先に行こうとしていたのだ。

 耀が口にした『ベンさん』とは、そのブティックの店長の愛称である。


『データ認証に成功、入室を許可します』


 という女性の電子音声と共に、自動ドアが開く音。入室したのはリサだ。


「……あいつ、今日もシュークリーム買って来たのか」


 少女が片手に抱えている紙袋を視認したのだろう、耀が呟く。

 リサは紙袋を抱えつつ、もう片方の手でシュークリームを歩き食いしていた。彼女は裕介達3人の側に歩み寄る。


「やっほー皆、ネイトはまだ来てないんだね」


 かじりかけのシュークリームを片手に、リサは裕介達に紡ぐ。長椅子に座ったまま、溜め息交じりに耀が応じた。


「お前、よく朝からそんな食う気になるよな」


「いいじゃんいいじゃん、何か甘い物欲しくなっちゃってね」


 リサは大きく口を開けると、シュークリームを丸ごと口の中に入れた。そして紙袋から新しいシュークリームを取出し、耀に差し出す。


「耀、1個食べるー?」


 リサが問うと、耀は首を小さく横に振りつつ「いや、朝飯で腹いっぱいだし……」と答えた。

 

「ふーん。おいしいのに~」


 どこか残念気な表情と共に、リサは呟く。彼女は耀に差し出したシュークリームを一口。数秒前までの残念そうな表情が一変し、幸せ満開の可愛らしい面持ちになる。


「ん~、あまーいっ」


 ハートマークでも付きそうなリサの口調。

 頬に手を当ててシュークリームを味わう彼女を見つめ、裕介が呟く。


「よく太んねえよなリサ、いつも甘い物ばっか食いまくってんのに」


「本当……ちょっと羨ましい」


 しょぼん、とした面持ちで玲奈が続ける。

 リサの偏食的な甘味好きは、校内でも有名だった。彼女はよく洋菓子等を口にしており、1日の糖分摂取量は他人からすれば計り知れない。

 糖尿病になってもおかしくないと噂されるものの、リサは一切体調に異常を来したことは無かった。それどころか、モデルのような抜群のプロポーションを僅かも崩すことなく、維持し続けているのだ。

 最早、一種の才能である。


「菓子ばっか食いまくってると、体に毒だぞ?」


 耀がリサに忠告する。

 リサは既に2個目のシュークリームも平らげ、3個目を袋から取り出していた。


「ダイジョブだよーっ、いくらお菓子食べたって太らない体質だし」


 天真爛漫な笑顔と共に、リサは耀の忠告を一蹴する。

 再び『データ認証に成功、入室を許可します』と女性の電子音声がする。入室したのは、ネイトだった。


「あ、ネイトだ。ネイトおっはよーっ!」


 リサがネイトに手を振る。


「……」


 ネイトは、憂いを帯びた空色の瞳に裕介達を視認する……と思うと、特に返事もせずに、彼は部屋の奥の方へ歩いて行ってしまった。

 リサは「む、無視……!?」と憤慨気味に漏らした。


「いつもの事だけど、素っ気ねえなあいつ」


 裕介が呟く。続いて耀が、


「まあ、一匹狼な性分だもんな、ネイト」


 リサは3個目のシュークリームを撃破すると、両腕を腰に当てた。

 そして、ぶすりとした面持ちで言う。


「ちっちゃい頃から知ってるあたしにまで挨拶も無いなんて……! ふんだ、ネイトのバーカバーカっ」


「ネイトは馬鹿じゃねーよ。少なくともリサ、お前よりは」


「ちょ……何それ耀! あたしがバカだって言ってんの!?」


 リサは耀に歩み寄り、まるでシャンプーでもかけるような仕草で彼の長い黒髪をわしゃわしゃとかき回し始めた。

 耀は驚く。


「わ!? んなこと言ってねーだろ止めろ馬鹿、つかクリーム付いてんぞ口拭け!」


「あっ!? 今バカって言ったーっ!」


 裕介と玲奈は、リサと耀の様子に笑みを浮かべていた。

 

「仲良いよね、耀君とリサちゃん」


 玲奈に言われ、裕介は頷いた。


「耀が女子と仲良くしてんのって……あんま見た記憶無いんだよな」


「昔からの知り合いなんだよね? 裕介と耀君」


 裕介は頷く。裕介と耀は幼なじみの間柄だった。

 互いに同じ小学校、中学校と進み、現在は互いに米国へ渡り、アクアティックシティに住んでいる。



  ◇ ◇ ◇



 ネイトはVRMS室に設置されたスーパーコンピューターに背中を寄り掛からせ、裕介達に視線を向けていた。彼のどこか寂しげで、憂いを帯びた瞳の先には――耀の髪を掴んで引っ張り続ける、リサがいる。

 

「バカを取り消せっ! 取り消しなさーいっ!」


 部屋の奥まで響く声を耀に放つリサ。

 怒った顔も可愛らしく、活き活きと――そして、溌剌としていた。


(どうして君は……そんな風に……)


 自身と同じくアメリカ出身で、同じ金髪を持ち、同じ空色の瞳を持つリサを見つめ――ネイトは心中で呟く。

 再び女性の電子音声と共に、扉が開く音がする。入室して来たのは生徒では無く、金髪を短く刈った髪型をしたアメリカ人の男性だ。


「おーい、全員集合。そろそろ授業始めるぞ」


 

  ◇ ◇ ◇



 彼の名は『ジェームズ・パーカー(JAMES PARKER)』。

 ウエストサイドハイスクールに属する教師であり、裕介や玲奈達のクラスを受け持っている。大柄な体格と、筋肉質な体付きが印象深い男性だった。

 VRMS室内の生徒達は皆、ジェームズの側へと集まって行く。

 裕介達も同様だ。


「さて、授業に入る前に君達に紹介したい者が居る」


 ジェームズは、自身が担当する生徒達に告げる。裕介や玲奈、リサに耀、そしてネイト。彼らを含む少年少女達は、ジェームズの話に耳を傾けていた。

 生徒の数人が発する。


「何だろう?」


「誰かな?」


 ジェームズは入り口を振り返り、「入ってくれ」と発する。その声を受け、VRMS室に1人の少年が入室した。

 短い髪型に銀淵の眼鏡、知的な雰囲気を持つ日本人少年である。


「ひょっとして……支部異動の転入生?」


 玲奈が言う。

 少年は自身に視線を向ける少年少女達を軽く一瞥し、眼鏡に触れる。そして彼は毅然とした面持ちで、


「サウスサイドハイスクールから転入して来ました。グレードB、『禾坂秀文のぎさかひでふみ』です。よろしくお願いします」


 知的少年は、ポケットから本革を取出す。

 内側に納められたRRCAのIDカードを、少年少女達へと掲げた。


 RRCA-ID:0211-3194-0078

 HIDEHUMI NOGISAKA


 GRADE-B

 

 ――グレード『B』。

 予期せず、そして事前予告なしの転校生に少年少女達はざわめく。

 

「わー、何か頭良さそう」


「眼鏡すごい似合ってるね」


「しかもグレードB……中々じゃん」


 新しく迎えたクラスメートに関して、皆思い思いの言葉を紡いでいた。少年は動じず、冷静な面持ちを崩さない。


「禾坂、だっけ? 何かネイトと似た感じがすんな……」


 呟いたのは裕介。

 側に立っていたネイトが反応したが、彼は何も言葉を返さず、視線を戻した。


「見た目的にがり勉タイプの真面目君かな? ユースケとは正反対だよねっ」

 

「うるせえよリサ」


 ジェームズが手を叩き、生徒達を注目させる。大柄な男性教師は、玲奈の方を向いた。


「彼の所属はサイバー犯罪対策部だ。レイナ、彼が何か分からない事があるようだったら、君が教えてあげて欲しい」


「分かりました、ジェームズ先生」


 玲奈は頷きつつ、応じた。






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