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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-02 "INVISIBLE DAMAGE"
67/93

CHAPTER-67


 ガスマスクで顔を覆い、タクティカルベストを着用し、得物は大型のマシンガン。そんな、重武装という言葉をそのまま形にしたような大男達でも現れるのかと思っていた。

 しかし輸送車両から現れたのは、どこにでも居そうな3人の少年少女達だった。具体的には少年2人に少女1人、裕介と同い歳か或いはそう変わらない若者だ。

 パーカー姿の少年、スカート姿の可愛らしい少女……普通に見ただけでは、街を歩く若者達と何ら変わらないように見える。しかし皆、裕介に明確な敵意を向けていた。3人に共通している点、それは彼らの瞳が固定されるように裕介を捉えていて、決して逸らそうとしない事だ。


(何だこいつら、様子がおかしい……)


 瞬きすらもせずに裕介を凝視する少年少女達、まるで意識を奪われているようにも見える。

 駄目もとで、裕介は呼び掛けてみた。


「誰だお前ら、オレに何か用でもあるってのか?」


 予期していた事ではあれど、誰も返事をしなかった。皆変わらず裕介を凝視しながら、ゆっくりと歩み寄って来るだけだ。

 裕介は視線を巡らせ、少年少女達の顔を流し見てみた。裕介は会った事も無い者達だった――しかし1人だけ、裕介と関わった事のある少年が居た。


「っ……! あんた、あの時の……?」


 数か月前、裕介はアクアティックシティの複合娯楽施設であるアクアティックワールドで、友人達と待ち合わせていた。その時、裕介は偶然RRCAの少年少女達による指名手配犯の追跡作戦に居合わせ、協力し、犯人確保に大きく貢献した。

 あの時、RRCAの少年少女達の中でリーダーシップを執っていた少年の姿が、襲撃者達の中にあったのだ。

 名前は確か、『サム』。

 裕介は彼に、サムに今一度呼び掛けた。


「なあ、あんたRRCAだろ。これって何の……」

 

 サムは答えなかった。

 答えずに、裕介と同じRRCAエージェント……つまり仲間であるはずの彼は、ショルダーホルスターから拳銃を抜く。裕介の物と同モデルの、TH2033だ。

 

(問答無用って訳かよ……!)


 裕介に向けられた銃口は、すぐさま火を吹いた。

 発砲とほぼ同時に裕介はデバイスを起動して後方に飛び退き、側に停まっていた乗用車の陰に身を潜める。弾丸によって車の強化ガラスが砕け散り、高威力の弾丸を用いている事が伺えた。

 彼らは、自分を殺す事を目的としている。裕介は、それを思い知らされた。

 サムは銃を撃ち続けているらしく、乗用車に弾丸が着弾する音が、嫌でも耳に入ってくる。裕介は隠れたまま、考えを巡らせた。


(見る限り、全員が洗脳でもされてるように見える。仕方ない、なるべくケガをさせない程度に……)


 次の瞬間だった、裕介の目の前に突如銀色の物体が飛来したのだ。

 ――コガネムシ型IMW。裕介は即座に思考を止め、飛び退く。このIMWがどんな機能を持っているのかは、嫌という程に知っている。

 数センチ程度の大きさの兵器は、乗用車を大破させる程の爆発を起こした。

 標的に接近して自爆する、それがコガネムシ型IMWの機能。小型で狭い隙間からも侵入可能な上、執拗に相手を追跡するようプログラムされている。ミサイルよりも始末が悪い。

 

「ちっ!」


 爆風に押し出される形で、裕介は歩道の傍らに着地する。

 すぐさま体制を立て直し、彼は襲撃者の3人へと視線を向けた。

 パーカーを着た少年がその右手でIMW運搬カプセルを弄んでいるのが見え、先程のIMWを繰り出したのは彼だと分かる。あの少年もRRCAなのかも知れない。特別な許可を受ければ、RRCAエージェントがIMWを武器として扱う事も許可される。

 そして残りは、その少女だった。

 少女が衣服の袖を捲ると、腕に装着された彼女の得物が姿を見せる。銀色のブレスレットのようにも見えるそれは、ナイフや銃以上に脅威となりえる武器だった。

 ――デバイスだ。

 人間の有する能力を増強する作用を持つIタイプか、人間が本来持ち合わせない能力を装着者に与えるAタイプかは分からない。

 だが、あの少女が裕介にとって最も警戒すべき相手である事は恐らく間違いない。デバイスの種類や適合率によっては、彼女は単独で軍隊を壊滅させる力を有しているのかも知れないのだから。

 裕介がパーカーの少年が繰り出すコガネムシ型IMWを避けている間に、少女はデバイスを起動させた。黒かった彼女の瞳がエメラルドグリーンに変じる。彼女の脳神経が、デバイスと接続された事の証だ。

 爆発を避けながら、裕介は彼女を注視する。


(何が来る……?)


 その疑問に応じるように、少女はデバイスによって与えられた力を行使する。

 少女が手の平を小さく広げると、その間に青い電光が瞬き始め、次第に大きさを増していく。


(発電デバイスか……!)


 電気を発生させて操る能力、それが彼女がデバイスによって得た力なのだ。

 裕介を睨み付けながら、少女は電気を纏った右手を振り下ろした。青い電撃が放たれ、意思を持つかのように裕介へと迫る。

 人間ならばまず避ける事など不可能な攻撃だった。だが裕介はデバイスの他にもう一つ、武器がある。

 彼に危険が迫った時自動で発動する超感覚、これがあればどんな攻撃も見切り、回避する事が出来るのだ。


「っと!」


 電気を回避し、裕介は三人に向き直った。

 サムはただその場に立っているだけ、パーカーの少年はIMW運搬カプセルをその手で弄び、発電デバイスの少女は追撃を繰り出してくる様子は無い。

 

(何だ、これだけか?)


 内心、裕介は拍子抜けした気持ちになった。

 彼ら三人は恐らく、何者かに洗脳されて裕介を襲う為に仕向けられた筈だ。しかし、もしもそうだと言うならば裕介の強さを過小評価し過ぎている。

 裕介がグレードSのRRCAエージェントで、多くの犯罪者を刑務所に押し込めてきた実績を持っているという事は多くの人間が知っている。だとするならば、もっと大きな戦力を投入してしかるべきなのだ。

 この程度の戦力では、裕介の前では容易く蹴散らされてしまう。


(よし、だったら今度はこっちから……!)


 相手の戦力を見定める為、逃げに徹していた裕介。

 しかしもうその必要は無いと判断し、攻めに転じる事にした。意識を奪われている状態でも、一発殴って気を失わせれば沈黙させられる。

 IMWの攻撃も、電撃も見切れる。近づく事はそう難しくはなかった。

 接近しようと、裕介はデバイスを再度起動させた。次の瞬間、ずっと戦闘を傍観するように立ったままだった少年が、再び動いた。


(ん……?)


 起動しようとしていたデバイスを止めて、裕介は再度様子を見る。

 動いたのは三人の中で唯一裕介と面識があり、名前も知っている彼、サムだ。

 サムが持つ銃口が、向けられる。


 仲間である筈の、パーカーの少年へと。


「なっ……!?」


 戸惑いの声を上げる裕介をよそに、何の躊躇いもなく引き金は引かれた。

 弾丸は少年の右肩を撃ち抜き、鮮血がそのパーカーを真っ赤に染め上げていく。だが少年は痛みに悲鳴を上げる事も、自分を撃った仲間に抗議する事も無い。

 ただ、食い入るように裕介を見つめているだけだ。


「何だよ、何でこんな事……!」


 何が何だか分からなかった。

 何故、突如仲間を撃ったりするのか。

 だが撃たれた当人である少年は、何事も無かったかのようにIMW運搬カプセルを裕介に投げつけてきた。コガネムシ型IMWが出現し、裕介に迫る。

 考えるよりも、逃げる事が先決だ。


「くそっ!」


 デバイスを起動し、裕介は後方へ大きく飛び退いた。

 

(一体何考えてんだ、この3人をオレに差し向けた奴は……!)

 





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