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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
45/93

CHAPTER-45

 ネイトはディンゴに向けてTH2033を発砲しながら、工場の壁際までディンゴを追い詰めていく。

 一見すれば、ネイトが優位に立っていると思えるだろう。しかし、


「へっ、いいねいいねェ。流石はRRCAって所か、中々の腕前だな」


 何発撃っても、銃弾は全て避けられてしまう。

 ディンゴの表情には、余裕以外の何も無い。それ所か笑みすら浮かんでいて、戦いを楽しんでいるのが一目瞭然だ。まるで、自分に歯向かう弱き生き物を弄ぶ、肉食動物のようだった。

 このままでは埓があかない。ネイトは銃を撃つのを中断し、右腕のデバイスを起動した。


(これを避けられるか?)


 ネイトの頭には、既に次の手が浮かんでいた。

 銃を撃っても避けられる、ならば銃以上に範囲が広く、到底避けきれないであろう攻撃を繰り出すまでだ。


「何だ、デバイスかァ?」


 その通り、とネイトは心中で応じる。

 ネイトの空色の瞳がエメラルドグリーンに変じた。それはネイトのデバイスが起動した事の証であり、攻撃の準備が完了した合図でもある。

 今のネイトは、片手で暴走する車を止めたり、地面を陥没させる事も可能だ。

 依然として余裕を浮かべるディンゴに向かって、ネイトは右腕を振るった。

 瞬間、轟音を伴って工場の壁や床が大破する。デバイスによって放たれた重力が、まるで見えない巨大な岩を投げたように周囲を破壊したのだ。

 巻き上がる砂煙で、ディンゴの姿は見えなくなる。ネイトは手加減をしていなかった、普通に考えれば、今の攻撃をまともに受ければ戦闘不能だろう。

 さらに、広範囲に渡る攻撃である以上、避ける事もまず不可能な筈である。


「……!」


 エメラルドグリーンに変じたままの瞳で、ネイトは砂煙の中に人影が浮かんだのを目視した。

 その人影はゆっくりと前に歩み出て、次第にその姿が見え始める。


「結構やるモンだな、これまで俺に突っかかって来た馬鹿なRRCA連中とは違う、って事は認めてやんよ」


 ネイトは身構える。

 彼が放った重力による攻撃は、ディンゴには全く効いていなかった。何らかの方法で避けたか、或いは防いだのだろう。


「ま、何にせよお前はもう……ゲームオーバー決定だ」


 前髪の隙間から、狂気を孕んだ瞳がネイトに向けられる。

 次の瞬間、ディンゴが弾丸のような速度で一直線に突っ込んで来た。


「!」


 ネイトが反応した時には既に、ディンゴは蹴りを繰り出す体制に入っていた。

 避ける猶予は無い、ネイトは瞬時にそう判断して、攻撃を防ぐ用意に入る。重力による壁を自分とディンゴの間に作り、蹴りを受ける。


「ハッ、こんなモンで俺の攻撃を受けられると思ったかァ!?」


 ディンゴが足を引き、再び蹴りを繰り出した。

 再び重力の壁に衝撃が走る、次の瞬間、不可視の盾が弾かれた事をネイトは感じ取った。重力の壁は目に見えないが、感触で分かるのだ。

 

「!?」


 いつも冷静沈着で、如何なる時も殆ど表情を変化させないネイト。だがこの瞬間、彼の面持ちに驚愕の色が浮かぶ。


(まさか……壁を破られた?)


 突進する車の進路をも捻じ曲げる強度を誇る重力の壁を破られるという、異常な状況。しかし、ネイトには考えている暇は無かった。

 敵はまだ目の前におり、追撃を繰り出そうとしているのだから。


「オラどうしたァ!? 表情から余裕が消えてんぞォ!」


 吐き捨てるような言葉と共に、回し蹴りが放たれる。

 重力の壁は意味を成さない、だがディンゴの蹴りは避け切れる速さでは無い。ネイトは再び、重力壁を作り出す。

 完全に止められなくとも、避ける時間を稼げれば十分だった。

 ディンゴの足が、重力壁に打ち付けられる。同時に、それが弾き飛ばされる感触がネイトに伝わる。ほんの数秒だったが、ネイトにはディンゴの攻撃から逃れる猶予が与えられた。

 その時を見逃さず、ネイトは後方へ飛び退く――金属の壁をも破るディンゴの蹴りが、眼前を掠めるのを感じる。


(これはデバイスによる力では無い、ならば一体……?)


 ディンゴの異常なスピードと、攻撃力。明らかに人間業では無い、かと言って、ディンゴがデバイスを使った様子は無かった。

 何が、あの男にこれ程の強さを齎しているのだろうか。

 後方へ飛び退き、ネイトはディンゴとの距離を取る。数メートル離れたその時、ネイトの耳に火花が飛ぶような音が入る。


(! デバイスが……)


 腕に装着していた重力操作デバイスが損傷し、火花を飛ばしている。

 先程のディンゴの蹴りによって破壊されたのだろう。咄嗟にデバイスを終了させて正解だった、もしも起動した状態で破壊されれば、脳にダメージが及ぶ危険があった。


「邪魔くせえ盾も、もう終わりか?」


 破壊された以上、重力操作デバイスはもう使えない。

 火花を飛ばし続けるデバイスを腕から取り外し、ネイトはそれを無造作に投げ捨てた。


「武器を投げ捨てるとは観念したか、なら望み通り……次で終わらせてやるよ」


 ネイトの空色の瞳が、追い迫って来るディンゴの姿を映し出していた。

 


 ◇ ◇ ◇



「待って、くれ……!」


 蹴られた腹部の痛みを堪えながら、裕介は水琴に言う。


「確かに、オレは結果的にジーノを死なせた……だけど、理由があったんだ」


 言い訳などするつもりは無かった。ただ裕介は、水琴に本当の事を知って欲しかったのだ。


「分かってるよ! もう、全部聞いてるから……!」


 彼女は、叫ぶように言う。

 その表情には怒りと悲しみが綯い交ぜになっていて、辛そうだった。


「あなたとパパは、テロ組織を壊滅させる為の作戦に臨んでた……最終的にあなたとパパは組織の幹部を追い詰めたけれど、敵の罠に掛かって、大量のIMWがこのアクアティックシティに放たれてしまいそうになった」


「ああ、その通りだよ」


 水琴は、数年前裕介とジーノがゾンネを壊滅させる作戦に挑んだ時の事を、ほぼ知っている様子だった。

 後を引き継ぐように、裕介は説明する。 


「それを止めるには、敵が持ってたIMWの制御装置を破壊する以外の方法は無かった。けど、そいつはジーノを盾にしていた……敵の持つ制御装置を撃てば、貫通してジーノも撃っちまう状態だったんだ」


 その時の様子を、裕介は頭の中で映像として復元する。

 ゾンネのボスは既に、裕介とジーノによって倒されていた。構成員達も殆どがショックウェーブ弾によって気絶されられ、残りは組織の幹部のみだったのだ。

 しかし、ゾンネは最後の隠し球を繰り出した。大量のIMWを起動させてアクアティックシティに放ち、一般市民に対して無差別に攻撃を仕掛けようとしたのだ。

 阻止するため、ジーノと裕介は幹部の男が持つIMW制御装置を破壊しようとした。ジーノが幹部の男に襲い掛かり、制御装置を持つ手を抑える。その時裕介は装置を破壊しようと、離れた位置から銃を構えていた。

 

「一刻の猶予も無かった……急がねえと、十数秒後にはIMWが放たれてしまいそうだった」


 あの時の焦燥感を、裕介は今もなお忘れられない。

 タイムリミットが迫り来る中、ジーノが装置を持つ幹部の男の手を掴み、前方に突き出した。同時に幹部の男は、装置を持った手でジーノを抑えた。

 装置を持つ手と、ジーノの胸部。裕介から見て、それらが一直線に並ぶ状態になっていたのだ。


「ジーノはオレに言った、『撃て裕介、俺に構うな』ってな」


 まだ幼かった裕介でも、理解出来た。

 ジーノは、自らを犠牲にしようとしている。このまま制御装置を撃てば、弾は貫通し、ジーノの心臓を打ち抜いてしまうと。

 その時、裕介は敵から奪い取った改造銃を構えていた。自分の銃は、既に弾を使い切っていたのだ。


「オレは、何も出来なかった。撃てばジーノが死んでしまうかもしれない。かと言って撃たなければ、大勢の一般市民が危険に晒される……どうしたら良いのか分からなかったんだ」






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