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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
33/93

CHAPTER-33

(街から出来るだけ離れて……!)


 コガネムシ型IMWが放たれた以上、裕介には止める手立ては思い付かなかった。

 しかし手立てなら思い付く。標的に接近した時点で爆発を起こすIMWだ、それなら裕介が市街地から離れれば良い。コガネムシ型IMWは裕介を追い、市街地から離れる。市街地から離れた場所で爆発すれば、被害は発生しないだろう。

 裕介はデバイスを起動し、


「ふっ!」


 上空と大きく飛び退く、カプセルが炸裂したのはその直後だった。裕介の予想に反し、放たれたのはコガネムシ型IMWでは無かった。


(違うタイプか?)


 少女がこれまで裕介に繰り出して来たのは、コガネムシ型のIMWだった。しかし今度は違ったのだ。


『別のタイプのIMWだわ。彼女、複数の種類を所持していたのね……』


 少女が繰り出したのはオオスズメバチ型IMWだった。大群で標的に迫り、毒針で攻撃するIMWだ。起動した直後、オオスズメバチ型IMW達は一斉に裕介に向けて迫って来る。

 裕介は、手近にあったビルの屋上へと着地した。オオスズメバチ型IMW達が裕介に視認出来る位置まで飛翔してくるまでは、さほどの時間を要しなかった。

 デバイスを起動し、逆の方向へと飛び退く。


『駄目裕介、罠よ!』


(!)


 裕介が逃げた先に、コガネムシ型IMWが待ち構えていた。

 迂闊だった、少女はオオスズメバチ型IMWを差し向け、裕介が向かうであろう方向にコガネムシ型IMWを忍ばせていたのだ。

 裕介の超感覚が発動する。前方には、既に爆発を起こそうとしているコガネムシ型IMW、後ろや上には、退路を塞ぐようにオオスズメバチ型達が飛んでいる。前に進む、或いはその場に留まればコガネムシ型IMWの爆発に巻き込まれる、かと言って後ろに下がればオオスズメバチ型IMWの毒針の餌食だ。

 逃げ道など、存在しない。


(……仕方ねえな)


 絶体絶命としか言いようの無い状況の中、裕介は運命を受け入れるように心中で漏らした。



 ◇ ◇ ◇



 フェイスマスク越しに、水琴はビルの上で起きた爆発を見つめていた。

 抜かりはない。2種類のIMWによる罠で、標的――裕介を確実に仕留めた筈だ。

 

「さようなら、裕介くん」


 ワシ型IMWの上で、水琴は別れの言葉を呟く。藍色の戦闘スーツが、陽の光を反射する。

 裕介を殺害した。これで、全て終わりだった。誰にも受け取られないであろう言葉の後、彼女はその場から去ろうとする。


「何でオレの名前知ってんだ?」


 自身の背中に向けられた言葉に、水琴は振り返った。


(! どうして……!?)


 目を疑う。だが、水琴の瞳は間違い無く真実を映していた。殺害したと思っていた少年が、歩道の上で水琴を見上げていたのだ。



 ◇ ◇ ◇


 

 ワシ型IMWの上で、少女が身構えたのが分かる。恐らくは、先程の罠で自分を殺害したと信じて疑っていなかったらしい。


「大したもんだな、少しばかり焦ったよ」


 オオスズメバチ型IMWが放たれた時、裕介は少女がオオスズメバチ型IMWによる攻撃を仕掛けるつもりだと思った。しかし違った、オオスズメバチ型IMWは言わば『囮』、事前に放ったコガネムシ型IMWの元へ裕介を誘導する為の小道具に過ぎなかったのだ。

 正しく脱出不可能な罠だった。

 そう、相手が裕介で無ければ。


「お陰でデバイスの出力上げちまったわ。上げ過ぎると体に負担が掛かるんだけどな」


 やれやれ、と言わんばかりに裕介は足首を捻る。そこには裕介の身体能力増強デバイスが装着されており、水色の閃光が迸った。

 罠に嵌って絶体絶命の危機に陥った裕介、確かに脱出は不能に等しかった。だから彼は、デバイスの出力を上げたのだ。よって彼の身体能力はさらに向上し、超感覚が切れない内に逃げ道を遮断するオオスズメバチ型IMWの何体かを叩き潰し、突破した。

 逃げ道を得た彼は、コガネムシ型IMWの爆発を回避出来た訳である。


「さて、お前が本気でオレを殺そうとしてる事は分かった。だからオレも、少しばかり本気で相手してやるよ」


 裕介は、ゴキリと拳を鳴らした。

 デバイスの出力はこれまでは50%、しかし今は70%まで上げている。20%の差でも、身体能力の上がり幅は非常に大きい。

 少女が再び、IMW運搬カプセルを取り出す。オオスズメバチ型かコガネムシ型かは分からないが、裕介はこれ以上出させる気は無かった。


(させるかっての)


 裕介のデバイスが水色の閃光を放つ。

 直後、彼はビルに向かって駆け出し、その壁に向かって一直線に跳ぶ。ビルの壁を蹴って勢いを付けると同時に方向を変え、上空の少女へと一気に距離を詰める。

 裕介の拳が届く距離まで接近するのに要した時間、僅か1秒。


「はっ……!?」


 裕介の動きを目で追う事が出来なかったのだろう、少女が驚くような声を発する。

 彼女が構えを取る前に、裕介はパンチを繰り出した。相手が女の子でも手加減はしていない、彼女は危険なのだ、手を抜けば間違い無く、殺されるのは裕介の方だ。

 少女は裕介のパンチを避けるが、完全には回避出来なかった。彼女のフェイスマスクに裕介の拳が接触し、破損する。


「ぐっ……あっ!?」


 怯んだ後、少女は焦るような声を漏らした。彼女の視線は裕介から、別の物に向いている。

 一体何なのか――恐らく今の衝撃で弾け飛んだ、銀色の物体だ。それは空を舞い、重力に従って地面に落下する。


(……何だ?)


 反撃してくると思っていた少女が、裕介には目もくれずに、今の銀色の何かに気を注いでいる。

 理由は分からないが、裕介にはチャンスだった。


「よそ見してる場合かよ?」


 少女が再び裕介に視線を向ける。

 直後、裕介は追撃を繰り出した。2度目のパンチは間一髪で防がれたものの、少女の細い体をワシ型IMWから叩き落とすには十分だった。

 少女が着地し、裕介はその前方に同じように着地する。

 裕介に破損させられた部分を腕で覆いつつ、少女はゆらりと立ち上がる。


「勝ち目は無いぜ?」


 少女が後方へ大きく飛び退く、直後、彼女の戦闘スーツの腕部分から白色の煙が発生した。


『催涙ガス!』


(! マジかよ)


 玲奈の言葉に、裕介は反応する。

 少女は戦闘スーツの腕部分に付けられた発射装置から、催涙弾を撃ち出したのだ。催涙弾は発射直後に炸裂し、前方――つまり裕介の方向に催涙ガスを充満させた。

 発射された催涙弾が炸裂するのは人間の目で追える速さでは無い為、あたかも少女の腕から直接催涙ガスが発せられたようにも見えるだろう。


『後退して裕介、ガスが届かない位置まで』


 玲奈の言う通り、後ろに下がる以外の手立ては思い付かなかった。

 対ガス用の装備でもあれば話は別だが、今の裕介にそのような備えは無い。超感覚でも、デバイスの力でも、ガスを防ぐ事は出来ないのだ。


(ちっ……)


 後方へ飛び退き、充満するガスから遠ざかる。

 裕介は警戒を怠らない。ガスに紛れて、少女が追撃してくる可能性が高いからだ。


「玲奈、奴の位置は?」


『……レーダーでは感知不可能。あの戦闘スーツ、ステルス機能が備わっていたのね』


 やはり、自分の目に頼るしかない。そう答えを出した裕介は、一層に周囲に気を配る。

 と、意外な人物の声が彼の耳に入った。


「遅かったか」


 振り向かなくても声の主が誰かは分かった、しかし裕介は振り返り、彼と視線を合わせる。

 そこにはネイトが居た。恐らく、玲奈からの増援要請でこの場に来たのだろう。


「もっと早く来てくれて良かったぜ」


 皮肉を込めるように裕介が言うと、ネイトの瞳がエメラルドグリーンに変じた。デバイスを起動したのだ。

 彼が片手を前方にかざす。すると重力操作デバイスの力によって、市街に充満した催涙ガスが地面に落ちて行く。

 視界が晴れると同時に、裕介は上空の彼方に飛び去っていく少女の姿を捉えた。彼女のフェイスマスクにはガスを防ぐ機能が備わっていたのだろう。ガスで裕介の視界と自由を奪っている隙に、逃げ支度を整えていたようだ。


「逃がしたな」


 呟いた直後、裕介は地面に落ちているそれを見つけた。先程少女が気を取られていた、銀色の物体だ。

 歩み寄って拾い上げる。何なのかは分からないが、銀色のアクセサリーのような物だ。水滴を象ったような形状をしており、綺麗な光沢を帯びている。


(ん? これ、どこかで見たような……)


 裕介は、そのアクセサリーに既視感を覚えた。






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