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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
PROLOGUE "THE YEAR 2054"
3/93

CHAPTER-03(LAST CHAPTER OF PROLOGUE)

 地下駐車場にて、裕介はその背中を壁に寄り掛からせていた。

 側にあるエレベーターの階数表示が、B1に点灯する。ドアが開いてモヒカン男が姿を現す、その片手には拳銃、もう片方の腕には彼が人質にした少女が抱えられている。


「オラ、さっさと歩け!」


 モヒカン男は焦燥する様子で少女に命じつつ、彼女を引き摺るように駐車場内に踏み入った。

 腕の中で少女がもがく。すると男は腕に力を込め、強引に彼女を押さえ込んだ。

 

「女に向かってその扱いはねえだろ?」


「!」


 男の背中に声を掛けると、モヒカン男はビクリと身を震わせて裕介を向く。


「お、お前どうやってここに!? エレベーターより速く来るなんて……」


「簡単さ、吹き抜けを飛び下りて1階に降りて、あとは普通に駐車場へ向かったんだよ。全然余裕だったぜ?」


 裕介はしれっと答える。

 が、モヒカン男は「嘘を吐くんじゃねえっ!」と叫び、銃口を裕介に向けた。


「んなことしたって無駄さ、分かってんだろ? オレに銃を向けたって意味ないって事」


 裕介は動じる様子も無く、言った。

 そう、モヒカン男の行為は無駄なのだ。裕介に発砲しても、彼は銃弾を避けてしまうのだから。


「畜生……!」


「これが最後の警告だ、銃を捨てて投降しな。あの車に乗ってるお前の仲間と一緒に」


 駐車場に停まっている車の一つを指して裕介が言うと、モヒカン男は驚愕に表情を染め上げた。


「な、何だと……!」


「オレの仲間が……まあさっき一緒に居た玲奈って子だけど。お前の携帯電話をハッキングして、通話記録を調べさせてもらったんだよ。そしたらビンゴ、逃亡の段取りを確認する為の仲間との通話記録がバッチリ残ってた。通話時間1分54秒、電話掛けたのは13時15分だろ?」


 モヒカン男が銃を向けたまま携帯を操作する、そして「ば、バカな……!」と声を上げた。裕介が指摘した時間と一致していたのだと、顔全体に書いている。


「で、お前の通話の相手とそいつが契約してる車の事も調べた……そういうわけさ」


「ふ、ふざけんな! ただのガキがこんな短時間にそんな真似、出来る筈が……!」


 当然と言えば、当然の反応だ。

 モヒカン男がエレベーターで駐車場に降りるまでの間に、玲奈は彼の携帯電話にハッキングし、通話記録を調べ、通話の相手の事も、そしてその者が所持する車も突き止めたという事になる。普通に考えれば、一般人に成せる事では無いだろう。

 裕介は述べた。その疑問を解決する、明確で簡潔な答えを。

 

「ただのガキじゃねえって事だよ。オレも、玲奈もな」


 つまりは、ただそれだけの事である。裕介は、視線を人質の少女へ向けた。


「そういった『ただのガキじゃないガキ』、今の世の中には沢山居るからな。本当に……」


「何……!?」


 裕介は溜息を吐く。このヒントを与えれば、モヒカン男は気付く物だろうと思っていたのだ。しかし、モヒカン男は彼の言葉の意味を理解出来ない様子である。

 やれやれ、という面持ちを浮かべ――裕介は言った。


「リサ、そうだろ?」


 突如、男の腕の中でもがいていた少女が大人しくなった。


「……20分並んで買ったミセス・ドーナツの新作、ホワイトフォートレス」


 それまで、一言も発しなかった少女が呟く。ぼそりと発せられた言葉には、怒りとも怨みとも受け取れる雰囲気が滲み出ていた。

 モヒカン男が、「ああ?」と返したその瞬間。


「全部……ダメになっちゃったじゃない!」


 声を張り上げつつ、少女がモヒカン男の腕を振りほどき、それまで抱え込まれていた頭を上げる。

 高い位置でポニーテールにされ、ふわりとカールした金髪が空を舞い、そして彼女の顔が見えた。まつ毛の両端を吊り上げた怒り顔が、とても可愛らしい。

 もっとも、彼女の怒りの対象であるモヒカン男には、そうは見えなかったかもしれないが。

 彼女――リサは右足を思い切り上げる。次の瞬間、サンダルの踵部分が、モヒカン男の靴越しに足の甲へ深々と食い込んだ。


「いっ……いぎゃあああああああああッ!?」


 全体重が掛かったストンプを喰らったモヒカン男は、冗談のような悲鳴を上げた。思わず、裕介は目を背ける。

 リサは追い打ちを掛けた。足を払ってモヒカン男を転倒させ、彼の両腕を掴んで後ろからその背中にサンダルの踵を押し付ける。


「いっ、いででででででで! や、やめ、やめてくれ!」


「このやろっ! このやろっ!」


 既に立場が逆転していた。モヒカン男が可哀想に思え始めた裕介は、リサに歩み寄り諭す。


「リサ、もう許してやれよ……」


 リサは「むーっ!」と頬を膨らませると、嫌々モヒカン男を解放した。

 

「感謝しなさいよね、本当ならこんなんじゃ済まさないんだから!」


 ぶすっとした表情を浮かべて腕を組み、リサはモヒカン男の背中に言葉をぶつけた。

 直後、階段から数人の少年少女達が駐車場へと駆けこんで来る。先程、裕介と共にモヒカン男と対峙していた者達だった。

 裕介は構わず、うつ伏せになっているモヒカン男の腕を後方へ引き、両手首に手錠を掛ける。二つの金属輪が鎖で繋がれた物ではなく、囚人が嵌めるような手枷を思わせる形状をした手錠を。


「これで分かっただろ」


 モヒカン男を後ろ手に拘束しつつ、裕介は言った。


「2054年の今。悪い事をしでかそうってんなら、オレ達みたいなガキも敵として見た方がいいぜ?」


「っ……ぐっ……」


 モヒカン男は抵抗する様子も無い。リサの攻撃が効いたのか、或いは年若い少女に無様に返り討ちにされ、返す言葉も無かったのか。

 

「それともう一つ」


 裕介はモヒカン男の肩を掴んで、手荒に自身の方を向かせた。

 そして、彼は言う。


「あんな小さい子を、蹴るんじゃねえよ」


 幼い少女を容赦なく蹴り飛ばすクソ野郎への言葉は、裕介自身が思った以上に威圧的なものだった。

 少年少女達と共に玲奈が駆け寄ってくる事に気付き、裕介は彼女の方へ向く。


「裕介、リサちゃん」


「やっほーレイ、びっくりしたよ。まさかこんな事件が起こってるなんてね」


 モヒカン男の拘束に一役買ったリサは、何事も無かったように陽気な様子である。

 恐らく彼女は人質にされた時点で状況を察し、わざと抵抗せずに人質であり続けていたのだろう。理由は言わずもがな、周囲の一般市民が人質にされる事を防ぐために。


「この男はこっちで連行する。仲間の方は?」


「あの車さ」


 少年からの質問を受け、裕介は駐車場内に停車されている1台を指した。モヒカン男の共犯で、逃亡を手助けする役割を持つ男が乗っている車である。

 裕介が視線を向けた途端、運転席に乗っている男がハンドルを握り締める。


「!」


 直後、車は急発進し、裕介達が居る場所とは別の方向に走り始めた。

 様子を伺っていたのか、それとも状況を理解していなかったのか。とにかく、車に乗っている男は相棒のモヒカン男を見捨て、逃げ出すという選択肢を決したようである。


「逃がすかよ……!」


 裕介は足裏で軽く地面を叩く。すると彼の足元から、モーター音を思わせる音と共に水色の閃光が発せられ始める。


「ん?」


 が、それらは裕介の一言と共に跡形も無く消え去った。

 裕介は視界に、1人の少年の姿を捉えていたのだ。暴走する車の進行ラインに悠然と立つ、パーマのかけられた長めの金髪と青く憂いを帯びた瞳を持ち、その面持ちには幼さが垣間見えるアメリカ人の少年である。

 

「……ネイト」


 裕介は彼――『ネイト・エヴァンズ(NATE EVANS)』の名を小さく発した。

 クラクションがけたたましく鳴らされる、車は猛スピードでネイトに向けて走っていく。


「危ない!」


 ネイトに向けて、少年が『無意味』な言葉を叫んだ。

 彼は裕介と違って何も知らないのだ、ネイトが持っている強さを。自身に向けて暴走車が突っ込んで来る、そんな状況の中でも毅然とした面持ちを崩さずに居られるだけの、ネイトの力を。


「……」


 何も言わず、一歩も動かず、表情を微かも変えないネイト。車のフロントが彼に触れようとしたその時、直進していた車が突如、弾かれるように斜め前方へと進行する。直後に車は駐車場の壁に激突し、フロントの右半分が凹んだ。

 車が走破するはずだった位置にはネイトが動じる様子も無く立っており、まるで誰かを制するように、彼の右腕が車が激突した方向へと上げられている。その手を降ろす最中、ネイトの瞳はエメラルドグリーン色に変じていたが、直後に元の空色に戻った。

 たった1人の少年が、片手で、暴走する車の進行方向を捻じ曲げたのだ。


「うぐっ……クソ……!」


 車のドアが開き、モヒカン男の共犯――金髪をオールバックにした男が現れる。

 少年少女達が即座に駆け寄り、彼を包囲した。その内の1人の少女がIDカードを掲げながら、勇ましく言う。


「RRCAよ、動かないで!」


 幾つもの銃口を突きつけられたオールバック男には、指示に従う他無かったようだ。



 ◇ ◇ ◇



 モヒカン男とその共犯のオールバック男が拘束され、事件は終結した。

 駐車場には沢山の少年少女達、更には20代前半と思しき若者も集まり、騒然とした様子に包まれていた。

 ある少年少女達はモヒカン男、そしてオールバック男を連行していき、壁に激突した車の側に居る数人、事件現場の施設内に向かっていく者達も居る。

 事件の後処理を行っている若者達は年齢も国籍も万別で、あえて共通点を挙げるならば、その左腕に『RRCA』の文字が描かれた腕章を巻いている事だろう。


「協力してくれてありがとう、君達のお蔭だよ」


「や、別に大したことしてないし」


 少年の言葉に、裕介は謙遜する。

 側には玲奈とネイトが居た。リサは数分前に事情聴取を済ませ、『お菓子を買ってくる』と言い残して駐車場から出て行った。


「ねえサム、この子達って……」


 1人の少女が、少年に問う。

 すると少年(どうやらサムという名前のようだ)は、裕介達3人に要求した。


「君達のID、彼女に見せてあげてくれないか?」


 裕介は頷き、本革の手帳を取り出して少女に見せる。側で玲奈、それからネイトも同じようにしていた。報告書の作成には当事者の身分証明は必須だ、断る理由も無いだろう。

 裕介の本革には、


 RRCA-ID:1765-0986-6402

 YUSUKE AIHARA


 裕介のID番号や氏名、顔写真、そして生年月日等のパーソナルデータが記載されたカードが納められた上部分。

 それよりも重要なのは、下部分の方だろう。


 GRADE-S


 グレード『S』、その文字が大きく刻まれていた。

 続いて玲奈。


 RRCA-ID:1766-0291-6077

 REINA MISAWA


 そして、ネイト。


 RRCA-ID:5330-0052-6696

 NATE EVANS


 玲奈とネイトの手帳にも、グレード『S』の文字が刻まれている。

 我が目を疑ったのか、少女はカードの顔写真と裕介達の顔を何度も見比べた。


「グレードS……やっぱり貴方達って……!」


 少女が、驚愕に表情を染めた。


「それでは、僕達はもう宜しいでしょうか?」


 本革を仕舞いつつ、ネイトが言う。


「ああ、後はこっちで始末する。繰り返すが、本当に協力してくれてありがとう」


「それじゃ」


 裕介は少年に手を振りつつ、玲奈とネイトと共に駐車場の出口へと歩を進め始める。



 ◇ ◇ ◇



「見覚えのある顔だと思ったけど、まさか本当に……!」


「ああ、あの3人……『グロリアスデルタ(GLORIOUS DELTA)』だよ」


 去っていく裕介達の後姿を見つめつつ、少年と少女は言葉を交わしていた。


「全世界に約30人、内アクアティックシティには3人しか居ない、10代の若さでグレードSの権限を与えられたRRCAエージェント……」


 少年の言葉を補足するように少女が言うと、少年は頷いた。

 

「それが、彼らの事なんだ」


 後ろから、「そこの2人、ちょっと手を貸してくれ」という声が聞こえた。

 偶然にも『GLORIOUS DELTA』と顔を合わせることになった少年と少女は、その呼びかけに応じ、駐車場内の捜査へと加わる。



 ◇ ◇ ◇



 ――2054年。様々な部門の科学技術が飛躍的な発展を遂げた、そう遠くない未来。VR技術が実用化の段階へと進み、運転が全てオートで行われる車が道路を走る時代。全世界は、91億の人口――実にその68%を15~34歳の若者が占めるという、未曽有の『低年齢・若年化社会』を迎えていた。

 何故、何時、これ程の若年層人口割合の急増が起こったのか。専門家達の間では『出生率の急激な上昇』等の様々な推測が飛び交っている物の、明確な理由は未だに明らかにされていない。

 若年層人口割合が異例の増加を辿る中、警察官などの公務職員が減少して、世界の治安維持が困難になる事を強く危惧した各国の政府は、解決策の一環としてある『組織』を設立した。

 この組織は現在、アジアやヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ――ほぼ世界中にその支部が存在している。

 組織名は、『RRCA(Rapid Response to Criminal Activity)』。

 特別且つ厳しい研修カリキュラムをクリアーしたエージェント達によって構成された、国際規模の『対犯罪組織』だ。

 RRCAは組織名の通り、主に犯罪行為に対してエージェントを送り、その解決に導く組織である。

 この組織の最大の特徴は、例え10代の若者であっても在籍する学校にて『RRCA研修学科』を専攻していればエージェントとして認められる点。RRCA研修学科は小中高問わずに、今や世界中のあらゆる教育機関に取り入れられている。

 そして、世界中のRRCAエージェント達の中でごく僅か――10代の若者にして大人以上の能力を発揮し、数々の凶悪犯罪を解決に導いている少年少女達が居た。






     PROLOGUE END

 





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