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GLORIOUS DELTA  作者: 虹色レポートブック
EPISODE-01 "RETRIBUTION OF SADNESS"
21/93

CHAPTER-21

 

 裕介の前に立ったネイトは、衣服の袖を捲った。

 その右腕には銀色の装飾品が着けられている。否、それは単なる装飾品では無く、人に力を与える機器、デバイスだ。

 しかし、裕介が用いていた物とは違う。その形状も、そして装着者へ与えられる能力も。


(全出力を出すまでも無い)


 ネイトは心中で発した。

 途端、彼が腕に装着しているデバイスが鮮やかなエメラルドグリーンの光を発する。一度目を閉じ、すぐに開く。それまで水色だったネイトの瞳もまた、エメラルドグリーンに変じていた。

 神経を通じ、デバイスが自身の脳と接続された感覚。それをネイトは確かに感じ取る。

 

「じゃ、任せたぜ」


 後ろからの裕介の声に、ネイトは無言で頷いた。

 直後に、倉庫内を飛翔していたオオスズメバチ型IMWが向かって来る。ネイトや裕介達の居場所を感知したのだろう。

 

『IMW、来るわ!』


 玲奈に言われるまでも無かった。オオスズメバチ型IMWが迫っているにも関わらず、ネイトは僅かも冷静な面持ちを崩さない。

 狼狽えようとも、逃げ出そうともせず、彼はデバイスを装着したその右腕を肩の高さへと上げる。直後、見えない何かを掴み取るように、斜め下へと振り下ろした。

 

 同時に、ネイトの前方一帯が『陥没』した。


 地震でも起きたかのような振動、そして耳を貫くような轟音と共に合金製のコンテナが潰され、倉庫の床に大穴が空く。同時に、ネイトに向かっていたオオスズメバチ型IMWの大群も残らず叩き落とされる。叩き落とされたIMWは全機残らず半壊、或いは全壊し、腹部分を失った個体がまるで本物のオオスズメバチが瀕死に陥ったように手足を動かしているのが目に入る。

 片腕を振るう――ネイトのそれだけの行為で、人を簡単に殺せる兵器が一蹴されてしまったのだ。


「……」


 土埃が巻き起こる中。ネイトは何事も無かったような面持ちを浮かべ、足元に転がって来た半壊状態のオオスズメバチ型IMWを踏み潰した。

 既にネイトのデバイスから光は消え、彼の瞳は元の水色に戻っている。



 ◇ ◇ ◇



「今のは……」


「そう、能力追加型デバイスよ」


 秀文が抱いた考えを察し、メイシーは肯定するように言った。


「禾坂君、デバイスは大きく2種類に分類される事は知ってるわよね?」


「ええ。『I(Increase)タイプ』と『A(Additional)タイプ』、でしょう」


 メイシーは頷き、後輩の言葉を補足する。


「そう。裕介君が使っていたのが『Iタイプ』、能力増強型。これは人が元々持ってる能力……例えば腕力や走力を増強するタイプ。そしてネイト君が使っているのが『Aタイプ』、能力追加型。こっちは人が持っていない能力を装着者に備わらせるデバイスね」


 禾坂に言った後、メイシーはモニターに視線を向ける。そこには裕介と、Aタイプのデバイスの力でオオスズメバチ型IMWを蹴散らしたネイトの姿が映し出されていた。

 

「身体能力増強デバイスの力を極限まで引き出す力を持つ裕介君、反対にネイト君はAタイプのデバイスを使いこなす事に長けた天才よ」


 IタイプとAタイプ、2種類に分類されるデバイスは『人の能力を強化する』という点においては共通している。しかしながら、その点を除けば双方共全くの別物なのだ。

 生来人が有している能力を増強するIタイプは、装着者によって能力の上り幅に明確な個人差が存在するものの、寡少たりとも能力は増強される。しかしAタイプは異なり、適合者以外の者が装着しても効果は得られない。何故ならば、Aタイプのデバイスは特定の脳波パターンを持つ者にしか効果を発揮しないよう設計されている為だ。

 Aタイプのデバイスは強力な能力を齎す物が多いが、その分装着者の脳と密接に繋がるというリスクもある。非適合者が無理に使用すれば、最悪脳を破壊されて死に至るケースもあるのだ。故にAタイプのデバイスは、持ち主以外には使用出来ないよう個人識別機能を搭載する事が原則である。


「Aタイプに適合するには特定の脳波を持っていなくてはならない。その脳波を持つ割合は確か、30人に1人」


「そう。さらにその中で、全てのAタイプのデバイスに対して完全に適合する事が可能な人……正式にはアブソリュートユーザー(ABSOLUTE USER)と呼ばれる人が極稀に存在する」


 何かを察した様子で、秀文は顔を上げて来る。


「そう、ネイト君はアブソリュートユーザーなの。いつもは重力操作デバイスを使ってるけどね」


 メイシーは髪をかき上げつつ、


「さらに彼、それだけじゃないのよ」


「というと?」


「……ここから先は、日を改めて」


 少しの間を空け、メイシーはモニターに映るネイトを見つめつつ、意味深長な様子で発した。



 ◇ ◇ ◇



「どうなってる、奴ら何でIMWなんか持ってんだ?」


『現状では不明だわ、入手経路も、如何なる目的で所持していたのかも……』


 ネイトのデバイスの力によって叩き落とされたIMW、その残骸が発する静かな物音が響く中、裕介は玲奈に問う。

 

「ランドンを捕まえて聞き出すしか無いか」


 結論を出した裕介は、倉庫内のその扉に歩み寄る。ランドンが潜伏している部屋と、裕介達を隔てているその扉に。

 玲奈がロックを解除するのは、もうじきの筈だ。


『その通りね、私も彼の差し金と考えて間違いないと思うわ』


 玲奈からの返事を受けた瞬間、裕介の耳に聞き覚えのある音が入ってくる。


「!」


 忘れる筈など無かった、僅か数分前にも聞いた音なのだから。


「次が来る」


 ネイトが発する、彼も裕介と同じ予感を抱いているようだ。

 直後、再びオオスズメバチ型IMWが出現した。今度は窓からではなく、倉庫内の換気扇を突き破って。


(まだ持ってやがったな……!)


 裕介は想定していた。先程ネイトが蹴散らしたIMWが、ランドンが所持している全ての個体ではないという事を。

 飛翔音と共にIMWが空中から迫り来る。裕介が身構えた時、


『解除完了!』


 ヘッドセットからの玲奈の声と同時に、後ろから電子音が聞こえる。振り返ると、ドアのロック装置のランプが緑色になっていた。


「ネイト!」


 新手のIMWを迎え撃つ事を放棄し、裕介はネイトを呼ぶ。

 ネイトが頷くのを確認すると、裕介は玲奈が解除した扉へと走り寄った。扉は自動的に開いて裕介とネイトを通す、その間にも飛翔音が近付いており、裕介は自身の背中にIMWが迫っているのが分かる。


『扉を閉めるわ!』


 裕介とネイトが扉を潜った瞬間、扉が勢いよく閉まる。

 玲奈の操作によって閉じられた扉はIMWの行く手を阻み、裕介とネイトを救う。その気になれば、IMWを蹴散らす事は彼らにとって造作も無かった。しかし、避けられる戦闘は避けるに越した事は無いだろう。

 ミッションの最重要ターゲットとの戦闘に、備えるためにも。


「ガキ共が、まさかここまでやるとはな」


 そこには、写真でしか見た事の無い男が居た。

 鋭い目付きに、エラが張った顎。いかにも柄の悪そうなその男の声が、何も置かれていない――あえて目に付く物を挙げるならば壁に掛けられたモニター、そして男の後方に置かれた巨大な金属製ケース程度の、無駄な広さを感じさせる部屋に響き渡る。


『ランドン・グティレス……間違いないわ』


 その男――ランドンを物怖じもせず見やりながら、裕介は玲奈の声を聞いた。






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