文化祭2日目 前編
「起きなさい」
「・・・・・・・・・・・」
「ふんっ」
「ギイィィヤアアアァァァァァ」
「朝からうるさいわねぇ。響かせるんならどうでもいい脇役が殺される時にこれ見よがしに出す、内臓ひねくり回されて絞り出されたみたいな声じゃなくて、綺麗な声を響かせなさいよ」
「・・・ハァ・・ハァ、ふぬっあっ痛ぅっ」
「ちょっと朝一番からそんな気持ち悪い声出さないでよ。気持ち悪すぎて鳥肌立ったわ」
何が起きたんだ。突如強烈な痛みを腹部に感じたと思ったら今度は罵倒の嵐。僕は朝からなぜこんなにひどい目に遭わなければならないのだ?
「さて陽くん、コンビニに朝ご飯買ってきて。眠気覚ましにもちょうどいいでしょう。今日は文化祭2日目で生徒会としても舞踏会の進行とか仕事があるからちゃんと頭を起こしといで」
と、とりあえず腹痛が収まるまで動けそうにありません!
「はやく?」
あ、はい
「この格好で外出しろと?」
「うん、内の宣伝になるし」
うふっと笑顔でそう告げる小曾根さん
この格好とは女装のこと。
外出とは麗華さんの劇を見にいくこと。
「でも、恥ずかしいじゃん」
「何を今更、つべこべ言わず早く行ってらっしゃい」
「・・・分かったよ」
「おいあの娘見ろよ」
「あぁ1年D組の確か陸井君」
「え、男?」
「そうよ超かわいいよな」
「陸井君やっぱり可愛いなぁ」
視線を感じる。別にナルシストじゃないよ?
「ねえ君1人?よかったら俺と一緒に回らない?」
外部の人が来た。ってこれナンパか?
「いや僕男ですよ」
「はは、知ってるよ。覚えてないかもしれないけど俺昨日君の所行ったから。」
少し寒気がしてきた
「じゃ、じゃぁどうして?」
「うーん、どうしてだろうね?」
これはやばいと思い後ろに引き返そうと思った瞬間右腕が圧迫された。
「ちょっと離して下さい!!!」
「やだ」
駄目だ、力付くで振り払おうとしても向こうの握力が強くて払えない。男の僕がこんな目に会うなんて思っていなかった。朝といい今日は結構ハードだ。
「君、離したまえ」
後方からそんな声が聞こえた。
「誰だよアンタ」
「変態に名乗る名などない、とにかく離したまえ」
僕の視界に腕が一本追加された。後ろにいる男が変態ナンパ男の僕の手首を掴んでいる方の腕を握ったのだ。
「チッ、分かったよ」
後方男の力が強かったのか変態男は去っていった。
「ありがとうございました」
後ろに振り返り礼を言う。そこにいたのは予想通りの体格のガッチリとした大柄の男だった。
「いや気にするな。陸井陽を優しく暖かい目で見守ろうの会はあなた様を全力でお守りします。困ったことがあれば言って下さい。力になりますから。それでは失礼します。」
今回の一連の出来事は無かったことにしよう・・・
劇の会場つまり講堂に来てみると人口密度がやばいことになっていた。でもまぁ麗華さんから指定席チケットを貰っているからパイプ椅子の上でしかも最高の位置で劇を観賞出来るようになってるから関係ないけど。
間もなく劇が始まった。この物語はシンデレラのifストーリーだ。シンデンラは舞踏会で王子ではなく王子の友人に恋をしてしまう。しかし王子はシンデレラに一目惚れをする。王子の友人と交流したいと思いながらも、王子の変態じみたアピールに悩まされながら何もできずに約束の12時はやってきた。追いかけてくる王子から逃げながら会場をでる時躓いてガラスの靴を落としてしまう。それから紆余曲折泥沼展開の末最後はハッピーエンドで幕を閉じる。
劇はもうクライマックスに差し掛かっていた。観衆は麗華さんの演技に心を奪われているようだった。彼女の喜びの声は会場を暖かくし、彼女の悲哀に満ちた声は観衆の心を締め付けているようだった。麗華さんとともに会場は生きている、そんな錯覚を覚えるほどだ。
流石だなぁ。
そして僕が危惧して病まないあのシーンがやってきた。
麗華さんの喜びに満ちた顔が王子の友人役のそれと近づいていく。会場はやっと結ばれたあの二人に笑顔を見せている。
しかし僕は対照的だった。
キスは振りだけで終わったようだ。
当初心配していたその行為は杞憂に終わったようだ。
だけど僕の心にはモヤがかかっていた。
こんな心況は初めてだ。何が理由かは分からない。
ただこの劇の最後のシーンだけは見たくなかった。




