プロローグ
明治後期。
「かーごめかーごめ、かーごなかのとーりーはー」
村に住んでいる着物を着た六人の幼い少年と少女が手を繋いで輪になり、真ん中にいる一人の子供を中心に歌を歌って回る。
「いーつーいーつーでーあーうー、うしろのしょうめんだーあれー」
歌が終わると回るのも終える。そして輪の中心にいる子供は自分の後ろにいる人物の名前を当てる。当たれば位置の交代で輪に入れるが、ハズレれば遊びはその状態を維持する。
「―――ちゃん?」
「違うよー」
真ん中で目を隠し、しゃがんだ子供が名前を宣言するもハズレ。輪に戻ることはできなかった。子供たちがもう一度回り出そうとするや否や「楽しそうだね」と一人の男がやってきた。
男はダークスーツを着て、黒い帽子を被り、真っ黒の手袋はめているという黒を強調した姿だった。
「……おじさん誰?」
輪になっていた一人の男の子が恐る恐る尋ねる。全身黒い怪しい人物だ、警戒せざるをえなかった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。おじさんは歌謡いなんだ」
歌謡いとは読んで字の如く歌を歌うのを専門の職業とする人のこと。しかし、こんな黒い怪しげな男が歌謡いとは到底思えない。子供たちはそれぞれが警戒し、助けを呼ぶなり逃げるなりの算段をしていた。
だが、男からは思わぬ言葉が飛び出した。
「君たちに面白い遊びを教えてあげようと思ってね」
「遊び?」
「そう、遊びさ」
黒い男はスーツのポケットから小さな木の箱を取り出した。そして、箱を開けると悲しい、哀しい旋律を奏でだす。箱の中身はオルゴールだったらしい。
「この音楽に乗せてこう歌うのさ。―――ってね」
男はオルゴールに合わせて軽く途中までの歌を歌う。
「それだけなの?」
子供たちが疑問の眼差しを男に向ける。ただ歌うだけの単純でつまらないもののどこが面白いのか。新しい遊びに少なからず期待していただけに、落胆を隠せない。そんな子供の様子に男は「騙されたと思ってやってごらん。じき、楽しくなってくるよ」など薦めるだけの言葉を発する。
子供たちは教えられた通り歌を歌うが、すぐに中断する。一度聞いただけの歌をすぐ覚えられるほど簡単な歌ではなかった。
見兼ねた男は子供たちに歌詞を書いた紙を渡した。子供たちは紙を取り合いながらも、段々歌を歌うようになっていった。男はその光景に満足し、にたあと不気味な笑顔を残してこの場を去った。
数日後、村で暴動が起こる。
村人は狂った鬼人のように互いに殺し合い、家々に火を放ち、全てを無に帰すまで村の中で戦を続けた。
それ以降、村は封鎖され誰も立ち入ることができなくなり、大正に名が変わるとダムの底へ姿を消した。