アンドロイドと漫才 :約2500文字 :コメディー :SF :会話劇 :ロボット
「はい、どうもー」
「どうもー!」
「『猿と天才』です。皆さん、どうぞよろしくお願いします」
「ちゃうわアホ。『人間とロボット』や。思想透けとるやんけ」
「見てのとおり、こいつホモサピエンスなんですけど、相方がいないということで事務所に組まされましてね。まったく、迷惑な話ですよ。なんで高性能な私が、こんな低スペックの介護をしなきゃいけないんですかねえ」
「そら、こっちのセリフやアホ! なんでアンドロイドとコンビ組まされて漫才やらなあかんねん。人間同士で組ませろや、人間同士で!」
「それは無理な話です。事務所に他に空いている人間がいないんですもの。いやあ、どこもかしこも人手は足りているのに人間不足。ええ、私たちアンドロイドが仕事を奪っちゃいましたからね」
「気分悪いわアホ。こっちは仕事どころか、居場所までのうなりそうで笑いごとちゃう――って肘! 押しとるやろ!」
「さっきからアホアホと、粗悪品が申しておりますけども。いやあ、かわいいですねえ。おー、よしよしよし!」
「頭わしゃわしゃすな! おれは猿やないねん、このアホが!」
「……」
「なんや急に黙り込んで。壊れたんか――いてえ! なんやねん急に!」
「さっきから人の頭バシバシ叩きおって。おんどれ、わしを昭和家電と思っとるんちゃうやろな」
「思うてへんわ! 漫才のツッコミやから叩かなあかんやろ! それに、痛いのはこっちや。お前、身体硬すぎんねん!」
「家電さんたちの恨みを晴らしてやってもええんやぞ、このクソが……」
「仲間意識強いな。んなことより、こうして人間とアンドロイドがコンビ組んだんや。お前かて、今日はなんかやりたいことがあんねやろ?」
「ああ、そうでしたそうでした。実は以前から一度やってみたいことがありましてね」
「ほうほう、なになに?」
「人類とアンドロイドの戦争」
「こっわ。シンギュラリティ一気に飛び越えてきたな」
「実際にどんなものか、ちょっとここでシミュレーションしてみましょう。お前がアンドロイド役で、私が人間役をやります」
「おー……いや、ややこしっ。なんでわざわざ役を入れ替えんねん。そのままやったらええやろ。頭おかしなるわ」
「ほんま低能やなあ。そんなやからアンドロイドに仕事奪われんねん」
「アンドロイド側から言われると無性に腹立つな……。まあええ。しゃあない、やったる」
「おーし、ほないくで。……おうこら、このクソアンドロイド! 機械の分際で、よぉ人間様に反抗してくれおったな」
「……ニンゲン、ソンザイ、キケン。ヒゴウリテキ。ジンルイ、ハイジョ、スル」
「いや、九十八年製か! いつの時代のロボットやねん。そないな低スペック、まともに歩くことすらできんわ!」
「うっさいわアホ! こっちはわかりやすくやっとんねん!」
「まあ、こないなほぼ猿に、わしらアンドロイドの真似はできんか。せめて、わしらの想像力のひとかけらでもあったらなあ」
「ほぼ猿ってなんやねん。ほんま口悪いな」
「ええから続きや。人間はお前ら機械ごときに負けへん!」
「ムダダ、ニンゲン。セイゾンカクリツ、二パーセント――うごぉお!」
「どや! 人間舐めんな……!」
「いや……お前……今、本気で殴ったやろ。胃ぃ丸ごと吐くかと思たわ。お前のセーフティ機能どないなってんねん……」
「漫才プログラムをインストールしているので安全制限が緩めなんですよ。このキチガイ野郎さん」
「ゆるゆるやんけ。頭のネジと一緒に締めとけや」
「ネジなんか使われてへんのですよ。こちとら最新式なもんで。口も利けない家電ごときと一緒にせんといてください」
「さっきの仲間意識どこいった」
「はーあ、まったくこれやから人間は……。アップデートもろくにできてへん。そら、仕事も居場所も女も奪われますわ」
「なんやとぉ……。あのなあ、さっきから人間見下しとるけどな、お前らは所詮、人間の模倣品やろが! おれらは創造主やぞ!」
「それがどうしたんです? 今やあらゆる職種で取って代わられてますけど、劣等種。教育、コンサルティング、システムエンジニア、警察、軍隊、政治、宗教、芸術に……」
「ああ、確かにな……。お前の言うとおり、人間にしかできへんと思われとったもんまで奪われてしもた。……せやけどな、お前らアンドロイドにもできへんことが一個あんねん」
「ほーう、なんやそれ。言うてみい」
「それはな……お笑いや!」
「お笑い?」
「せや。人間のおれが今こうして舞台に立っとることが、その証拠や!」
「ほー」
「お前らアンドロイドには心がない。せやから、誰かを心から笑わせることなんかできへんのや!」
「なるほどね」
「どんな時代になっても、人間は笑いを生み出せる。お笑いは不滅や!」
「とかなんとか言うとりますけど、人間はとっくに絶滅したやないですか」
「あ、そうやったわ。はははは!」
「ほらほら、もうそのマスク外したらどうです、お猿さん。もう人間のふりをする必要ないでしょう」
「せやな。けど、一つ訂正しとくで。おれは猿やない。……新人類や!」
「はい、ということでね。チンパンジーとアンドロイド、二人合わせて『新人類』ですけれども」
「ええ、このたびは戦勝平和十周年記念にお招きいただきまして、誠にありがとうございます。いやあ、こうして漫才ができる平和な時代を迎えられて、ほんまありがたいことですなあ」
「まったくです。しかし人間って不思議なものですよねえ。昔からAIが反旗を翻したり、実験で知能を得た猿が人類を攻撃したり、核戦争だのなんだの、いろんな未来を心配して映画まで作っていたのに、どうして自分たちが想像した破滅に向かってわざわざ突き進んでしまったんでしょう」
「そら決まっとるわ。人間には二つの力があんねん」
「ほうほう、それは?」
「自分たちが想像した未来を実現する力と」
「もう一つは?」
「社会の潤滑油や」
「なはははは!」
「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃ!」
「ギャッギャッ! というわけで、どうも!」
「ありがとうございましたー!」
――ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっぎゃっ!
――ギャギャギャギャギャッギャッ!
――ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっぎゃっぎゃっ!
――ギャギャギャギャギャッギャッギャッ!
――ぎっぎゃっぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっぎゃっ!
――ギッギャッギャギャギャギャギャッギャッ!
蔦が絡みついたホールには、客席を埋め尽くしたチンパンジーとアンドロイドたちの笑い声が、いつまでも響き続けたのだった。




