第一章:希望の中の災厄
黒い石炭のような波が、腐敗した緑の泡を吐き出しながら崖に打ち寄せる。そこは商船を迎え入れる絶壁であり、同時に不幸な魂たちが吊るされる処刑場でもあった。コンクリートと鋼鉄、そして病に侵されたこの街では、慈悲よりも先に腐敗が訪れる。これは、神に見捨てられた港町で、泥の中に潜む「ネズミ」と「怪物」たちが織りなす、狂気と強欲の物語である。
黒曜石のような波が断崖に打ちつけ、忌まわしいエメラルド色の飛沫を大いなる岩礁や絶壁へと撒き散らしていた。その頂には不幸な者たちの死体が飾られ、入港する貿易船を迎え入れる。そして、その同じ場所に粗末な構造物が築かれていた。
これらの廃墟は、海運市場を支配する卑劣で残酷な魂たちが集う塔のようにそびえ立っていた。規律に従わぬ者は、天日の下の魚のように吊るされた。
ここでは時折、「海の死」が現れ、身を隠せぬ不幸な者たちを直撃する。すべてを引きずり込み、飲み込み、我らが生まれた深淵へと連れ戻すのだ。
周囲数千海里で唯一の安全な場所。それは救済のオアシスのように見えたが、近づけば腐敗し、おぞましい過密状態の中で町がそびえ立つ地獄絵図であった。
埠頭は巨大で、工場や住居が折り重なるように建ち並び、コンクリートと鋼鉄の間で苦しげに息をついていた。それらの素材もまた、潮風によって朽ち果てていた。
娼館「黄金の貴婦人」は、休息と愉悦を求めるうかつな者たちを歓迎する。だが、その扉の奥に隠された恐怖は凄惨を極め、とりわけその土台の下に隠されたものは筆舌に尽くしがたい。
一方で、商業と工場は支配欲に駆られた初期の一族によって分かち合われていた。権力を握る彼らは、全員を裏切るための、あるいは支援するための策謀を巡らせる。官僚機構の宝石たる街が廃墟と化していても、あらゆる行為は利益のために計算されていた。ただ一族、残虐な汚職で際立つ家系を除いて。そこでは、死後もなお続く永遠の苦痛を魂に与えるべく判事が見守っていた。彼は衰弱しながらも君臨し続け、その娘は父よりもさらに質の悪い後継者となっていた。
「貿易会議の知らせだよ! 副官たちが集まるんだって!」
一人の少女が、手にした紙を振り回しながら叫んだ。
「ガキ、何が起きてる? 貿易会議とは何のことだ?」
影のような人影が問いかけた。オリーブ色の軍服にベージュのフードを被り、通りの汚れを湿らせる小雨を凌いでいる。
「知らないよ。でも、旦那様がすごく興奮してたんだ……」
冷たい眼差しの将校を直視できず、少女は呟いた。
「その記憶の悪さは治療してやる必要がありそうだな」
男が言い放つ。少女は、自分の短い人生において決定的な瞬間に立たされていることを直感した。
「でも、旦那様は『首吊り通り』の薬屋から聞いたって言ってた!」
少女は慌てて答えた。彼らに何かされるのを恐れたのだ。しかし、男は口答えをしたガキを罰しようと棍棒を取り出した。
「話しかけていいとは言ってないぞ!」
少女は青ざめ、細い腕で身を守ることしかできなかった。
「やめろ! そこまでだ!」
背後から威厳のある声が響き渡った。その声は、将校たちに目をつけられるのを恐れる通行人たちの足をも止めた。
叫んだ主は、喉を整えてから、より文明的な口調で再び話し始めた。
「もういい……。これは有望だ。どこぞの一族が何かを企んでいると知れば、判事もお喜びになるだろう。もっとも、まずは事実かどうか確かめるのが先だがな」
男は相棒を見つめ、冗談を言っているのかどうか探ろうとした。
「本気で言ってるのか……?」
二人は一瞬見つめ合った。幸運を絵に描いたような男が、氷の彫刻を眺めているような沈黙。
「……本気なんだな。トビアス、お前はいつかその性格で吊るされるぞ……」
男は信じられないといった様子で溜息をついた。その息は、湿った汚れた空気に消えていった。
「もっと現実的になりな。俺たちに利益をもたらす方法を考えろよ」
別の将校が言った。恐ろしい響きではあったが、もう一度殴られれば命がないと悟っていた少女にとっては、それは救いの言葉だった。
「後悔させないよ! あたしのこの耳でハッキリ聞いたんだから!」
少女は肥溜めのような髪の塊をかき上げ、汚れた耳を見せた。もう片方の耳は削ぎ落とされていた。
「どうやら、おしゃべりなガキを信用するつもりらしいな……」
『氷の男』ことトビアスが、棍棒で相棒を軽く突きながら吐き捨てた。相棒は軽蔑の混じった、それでいて優越感に満ちた表情を浮かべた。
「おしゃべりじゃない! あたしを拾った男が耳を食べちゃったんだ。でも、あいつが他の子供を捕まえてる間に袋から逃げ出したの!」
少女が言い返すと、鋭いビンタが飛んできた。痛みはあったが、少女は泣かなかった。
「これで信じるか?」
将校たちは『笛吹き』とその商売について知っていたが、普段はあの狂人たちの領分には干渉しない。
「いいや。たとえ笛吹き本人を連れてこようと、俺はお前を信じない……」
男は少女の頭を杖で軽く叩いた。
「トビアス、情報屋に冷たくするな。それに、あの笛吹きから逃げ出したっていうなら、それはいい兆候だ」
男は自信ありげに微笑んだ。
「そうだよ! あたしはすごく有能なんだから」
少女も負けじと答えた。
男は少女に近づき、邪魔なトビアスを邪魔者扱いするように手で押しのけた。
「触るな、この不潔な鼻デカ奴隷商人め」
トビアスが吐き捨てたが、男は笑い飛ばすだけだった。
「自分を俺のレベルまで引き上げようとするお前の姿は、実におかしいよ。まあいい、俺もここに付き合ってやるが……」
男は帽子の下から覗く黒い巻き毛をかき上げた。
「特別な存在みたいに振る舞うな」
トビアスは、その尊大な相棒に言い返した。
「もみあげを剃っただけじゃ足りなかったか? 俺がシャワーを浴びるのを覗いてたのか?」
男が皮肉っぽく言う傍らで、少女は新聞の代金として汚れたコインを一枚受け取った。
「黙れ、アムラム。お前の好みを探るのは容易じゃない。お前のその口と、地位への渇望は、お前のような奴には危険すぎるんだ」
トビアスの言葉は、アムラムに突き刺さった。アムラムは、対等な者同士の安らぎを求める相棒の洞察力のなさを罵ろうとした。彼らの基準では、奴隷商人はあらゆる面で優れているはずだった。
「二度と対等であるかのように口を利くな。あるいはそのつもりで……」
攻撃的に返そうとしたアムラムだったが、すぐに遮られた。
「誰を騙そうとしてるんだ、この安物の混血野郎が。お前の遺伝子は汚れている。純血種だって、近親交配で病んだ残りカスに過ぎないが、お前の居場所なんてどこにもないんだよ」
トビアスは容赦しなかった。強く、威圧的に相棒に詰め寄った。
「……それが……最善だ……」
アムラムは背を向け、沈黙で応じた。そして、ハンセン病の少女と睨み合っている情報屋の少女を間近で見つめた。
「お嬢ちゃん……大丈夫かい? あいつは友達か、それとも何か別のものか?」
男は、その重苦しい声の中に精一杯の優しさを込めて尋ねた。
「いいえ、ただの別の印刷所のガキだよ。信じちゃダメ、あいつらは嘘つきで告げ口屋だから」
少女の警告に、男は作り笑いの下で少し居心地が悪そうにした。
「取引をしよう。金や汚いコインはあげられないが、『健康』をやることはできる」
男は穏やかに提案した。通りが騒がしい中、後ろでは相棒がロバのように不満を漏らしていた。
「簡単なことだ。もしお前が、あの石の塔へ行けば……」
「塔」という言葉を聞いた瞬間、少女は後ずさりした。しかしアムラムの方が速く、彼女の痩せ細った足を掴んだ。
「あそこには行きたくない! あたし、何もしてないもん!」
少女の瞳は恐怖に染まり、涙が溢れ、病に冒された声が震えた。
「石の塔に閉じ込めるわけじゃない」
男は少し力を緩めて言った。
「褒美をやるんだ。甘くて美味しい、ご褒美をな」
その言葉に、少女の瞳に光が宿った。
「ニュースを持っていけば、食べ物をくれるの?」
男が頷くと、横から氷のようなトビアスが近づき、包みを少女に放り投げた。
「これは前払いだ。だが、次からも良いネタを持ってくるんだぞ」
アムラムは相棒の割り込みに不快感を示したが、二人で歩き出した。
通りの喧騒の中に一人残された少女は、自分を脅したはずの男が、相棒と言い争いながら去っていく恐ろしくもどこか奇妙な声を、いつまでも聞いていた。
少女は立ち上がり、包みを見つめた。何もせずにお宝を手に入れたのだと思いながら、これまで味わうことなど想像もしなかったものに最初の一口をかじりついた。通りを行き交う人々の視線は残酷で、サディスティックな嫉妬に満ちていたが、役人と一緒にいる少女の姿を見て、手を出そうとする者は誰もいなかった。
一方、役人たちは人混みの海を堂々と進んでいく。人々は彼らの目に留まらぬよう押し合いへし合いしていた。男たちは薬屋を口割らせる方法について話し合っており、ただ「首吊りの女」に出くわさないことだけを願っていた。
主要な一族に操られる蜜蜂の巣のように、商業や工芸を任された副次的な一族や下位の一族は、このところ落ち着かない様子だった。しかし、市政の紛争が、一族間の空気をさらに張り詰めたものにしていた。
その出会いから少し離れた場所で、包帯を巻いた一人の少女が、競合相手の「害虫」が運良く獲物を得た様子をじっと観察していた。
誰にも見られていないことを確認すると、彼女は隠れ家を急いで飛び出し、兄のもとへ戻った。兄は十二歳という若さながら、病に侵されながらも大きな声を出していた。
「スキャンダルの知らせだよ! 誰よりも早く知りたい人はおいで!」
結核に蝕まれ、まだ残っている力を振り絞るような甲高い声が響く。
平均よりも少し背の低い、痩せ細った少年は、脇に気配を感じた。それが妹であることに気づく。彼女の体は癩病(らい病)に大きく侵されていた。
「何か手に入れたか?」
誰にも聞かれないよう、少年は真剣な面持ちで尋ねた。
「あたしが、この飢え死に寸前の連中からコインを奪えるように見える?」
少女は不機嫌そうに問い返した。苦々しく突き放すようなその問いに、少年は言葉を返せなかった。あんな馬鹿げた質問をした自分を呪い、舌を噛む思いだった。
「でも、情報は手に入れたよ。それから、ウィンザー印刷所のあの新聞売りのガキが……」
しかし、その会話は、およそ生物とは思えない異常な咆哮によってかき消された。年老いた者や重病の通行人たちは、その突然の音に苦痛を感じているようだった。
「呪わしい地獄の機械め! なぜあんなものが許されているのか理解できん」
少年は少し咳き込みながら吐き捨てた。金属の塊のような機械が通りを過ぎ去っていく。それは首都から来た新しい一族の発明品だった。
「あたしはあんなの嫌いだけど、逃げ出すときには役立つよ」
少女は、その生きていない物体に対して前向きなコメントをした。少年はそれを忌み嫌いながらも、それがもたらす利便性を認めざるを得なかった。
これらの鉄の獣は、首都から来た二人の兄弟が持ち込んだ奇妙な一族のアイデアだった。彼らは郵便や物流のサービスを提供し、この最古の町に資源や家畜を運ぶための革新的な手段として自動車工場を設立する好機を見出したのだ。そのせいで、資源輸送の利権を奪われようとしているラミレス家やセプルベダ家とは敵対関係にあった。
しかし、これらの一族にとって苦い問題はスラム街だった。そこには、死ぬことを拒み、下水道やゴミ溜めの路地ではなく、高貴な通りを汚し続ける不満分子や落伍者たちが常に溢れていた。
そこにはエルナンデス家がいた。彼らは冷酷で卑劣な派閥の集まりであり、不用意に近づく魂をことごとく苦しめていた。
「井戸」と呼ばれる地下深くの巨大な建造物の中では、多くの命が失われ、無数の目が家畜(人間)が顧客の要求通りに働いているかを監視していた。複雑に入り組んだ住居、通路、路地は、悪意に満ちた取引と密売のネットワークを形成していた。
その間を、一人の小柄な人影が機敏に動いていた。彼女はネズミのように隙間をすり抜け、怪しげな包みを受け渡していく。金の袋、手紙、何かが滴り落ちる包み。
彼女は兄よりも大胆で素早かったが、特別な顧客との会合には遅れていた。
「……」
女は、汚れきった路地を占拠しているクリーチャーたちにさえ気づかれることなく中に入った。
「いるの? ねえ……」
女は、淀んだ風の吐息に紛れるような、かろうじて聞こえる声で囁いた。
「……なんてこと……」
布靴の底に、何かドロドロとした感触を感じて、女は独り言を漏らした。
「アグネス。客はどうした? 言えよ、まさか遅れたのか?」
背後から聞き覚えのある声がした。
「黙って、お兄ちゃん。ほんの数分よ。ここに来る前に全部の配達を済ませてきたんだから」
アグネスは声を潜めたまま弁明した。彼女の兄、似たような風貌の男は、脂ぎったこめかみをこすっていた。
「そんなに大げさにしないで。ただの狂人でしょ、あいつは……」
アグネスは、狂人の助言に従おうとする兄を正気に戻そうと、強い口調で言った。
「ただの狂人じゃない。あの男が言ったことは全部当たっていたんだ。不可能だと思えたことも、奇妙なことも、あいつは事前に口にしていた」
「自分の言ってることを聞きなよ! あの狂人以上にうわ言を言ってるじゃない。確かに当たるかもしれないけど、馬鹿げてるわ……。言い方も何もかも。罠に落ちたくないのよ」
アグネスが言った。二人が静かに言い争っている間、背後の湿った革のようなものから這い出し、形を成していく存在に、二人は気づいていなかった。
「馬鹿げているのは分かっている。だが、他の一歩先を行くことがどれほど重要か理解してくれ。あいつは、誰かが近くにいると気づかれる前に動くチャンスをくれるんだ」
兄は一瞬気を取られながら呟いた。
妹は現実的な反論をしようとしたが、兄が目の前の異変に気づき、その言葉は無視された。兄は首を傾け、妹の背後に立つ、ぼろ布を纏った奇怪なシルエットを凝視した。
「……客が来たぞ」
彼が言うと、妹は振り向き、あまりの近さと死臭に、声にならない悲鳴を上げた。
「やめて……」
アグネスは息を整えながら絞り出した。しかし、幽霊のようなシルエットがそれを遮った。
「車輪の中のハツカネズミめ。遠くまで行けると思い込んで遊んでいる間に、時間が尽きていくのが見えないのか」
男はぶっきらぼうに言い放ち、不気味で奇妙な笑い声を上げた。
「あたしたちはネズミじゃない。それに……もっとまともなことが言えないの?」
女は客を問い詰めた。兄は客が怒っていないのを見て、少しだけ安堵した。
「記憶が正しければ、出港した船はバスケットを忘れるはずだったな」
男は不気味なほど落ち着いた声で言った。
「ちょっと、約束の時間に少し遅れたくらいで、情報を握ってないなんて言わせないわよ」
泥棒のような風貌の女が言った。彼女は背が低く猫背で、目の前の人間に見せかけた不気味な影に比べると、より小さく見えた。
「お前の情報は、片方のない靴下のような色をしていた」
肉片のようなぼろを纏った男は、何かを解決しようとするかのように、自分の頭を何度か叩いた。
「あたしはカモメたちと、誰が卵を盗んだかお喋りしてたんだ。……だから、あたしの贈り物は、この知識だ。……左の耳に人参を突っ込めば、庭の彫像の考えが聞こえるようになる……ただし、月がチェダーチーズのことを考えている時だけだ。もし上手くいかなくても自分を責めるなよ、月は時々とても秘密主義だからな」
男は韻を踏みながら話し、自分自身で不可解な笑い声を上げた。
「やれやれ」
アグネスは溜息をつき、髪をかきむしった。フケが雲のように舞った。
「本当に、もっとまともな客を見つけなきゃ……」
彼女は目の前の狂人の言葉を理解しようと努めた。
「よし、人参、馬……馬はラミレス家……庭の彫像」
女は苛立ちながら呟いた。
「簡単だよアグネス、あいつは夜が秘密を明かした時に価値ある何かがどこにあるかを言ってるんだ」
アグネスは兄を振り返った。兄は太っている以外は自分と同じような風貌をしていた。
影の怪物は激しく笑い、二人はそれを黙らせようとした。その鉄のマスクは冷たく、粘液が滴り落ちていた。
「ラトゥー家は間違いなくチーズを探す名人だ!」
怪物はひょうきんな足取りで祝い、兄妹は彼が時折見せる精神の崩壊を、興味深げに見守った。普段は価値ある情報を提供してくれる客なのだが、今回は勝手が違った。
「あんたとは長い付き合いだけど、金は払わないで、こっちが何か吐くまで情報を出し続けるわね」
ロバートは自分の手をかいた。厚く汚れた爪には、手入れのされていない蕁麻疹から剥がれ落ちた皮膚の破片が詰まっていた。
「兄さんは、あんたがもっと重要な情報の依頼をしてくるかどうか知りたがってる。……一族の秘密を知りたくない?」
アグネスは兄と目配せし、この男が本当に自分たちの役に立つことに興味があるのかを探った。
「つまり、高くつくけど……ビジネスとなれば、それなりの交換条件があるでしょ……分かる?」
彼女は付け加えた。一族の歴史上、決して口にしないような言葉だった。彼らは高名な詐欺師として知られていたからだ。
「穴は深く、虫が巣を作る。だが甘やかされたガキどもは遊びに夢中で、自分の居場所を忘れている……」
男が解読不能な不条理を話し続けている間、二人は小声で相談した。
「理解できたか? また支離滅裂なことを言ってる気がするが。だが、妙だな。何かを伝えようとしているみたいだ」
ロバートは不安を口にした。
「ロバート、この狂人の言うことを信じちゃダメ。それに、ラミレス家のことだよ……」
妹は居心地悪そうに囁いた。
「こいつ……この『もの』は、話が支離滅裂になったら、大抵のことは無視しろって言ってたじゃない」
ロバートは妹の言葉を考えた。
「分かってる。だが、騎士や怪物の話はともかく……金、あいつらが隠している富のことを考えろ」
二人は決断を迷っていた。一方、情報を明かした男は壁を見つめて静止していた。
「もちろん……でも、あいつらは宗教狂いだ、あたしたちを追い回すわよ。見せしめにされるわ」
妹は、迫りくる危険を前に、一時的に強欲を抑えて答えた。
「……だが、金だぞ……」
兄は手に入るであろう富に執着していた。
「ねえ……あんた、人間か何だか知らないけど。あいつらが隠してる宝とかチーズについて何か知ってるの?」
アグネスが懸念を込めて尋ねると、クリーチャーの滑稽な独白が止まった。
「……塩が獣を遠ざけ、飢えた心がネズミたちを迷宮の賞品へと導いた……信仰の……ゴーダチーズの迷宮へと」
ぼろを纏った客は、繊細な手の動きをしながら言った。
「これ……たぶんチーズのことを言ってるんだわ」
アグネスたちは不安と困惑に包まれたが、手がかりを逃すまいと注意深く待った。
「水曜日に履いた俺の左の靴は、雲が綿じゃないと明かす時を知っていた。鳥たちは猫が巣を見つけるのを恐れている。だが猫は枕だけを残していくだろう」
またしても意味不明な言葉が男の口から漏れた。
「……水曜日に行くってことね。猫が狩りに出る時に、あたしたちが枕からチーズを盗むのよ」
アグネスは重荷を下ろしたかのように、狂人の言葉を兄よりも先に解読して言った。しかし、それを口にすることに少し恥ずかしさを感じた。
「待て、……その『塩』はどうなんだ? 何を持っていくんだ?」
ロバートは額に汗を浮かべ、焦って尋ねた。鉄と骨を圧縮したようなおぞましいマスクの奥にある、黒いビー玉のような客の目には、かすかな光が宿っていた。
その視線に、魂を貫くような戦慄が走った。
「娼館の料理人が作った先月の今日の日替わりスープは、チャルンが拷問していた死者たちを追い返した消化不良を運んできた。怒ったチャルンは尖った耳を引っ張り、ハゲタカの鼻で鳴いたんだ」
ロバートは話の腰を折られ、質問したのが間違いだったと額を叩いた。
「その噂知ってるわ! 『嘔吐の月』のことよ!」
女はそれを聞いて興奮気味に叫んだ。不安や仕事の慎重さも忘れ、声を上げた。
「あの料理人がまだ毒殺で始末されてなければ、材料を手に入れられると思うわ……」
アグネスは、どうやってあの事故を聞き出すか考えながら言った。ロバートは、妹が自分と同じくらい賢く、自分の欠点を補ってくれることに安堵しつつ、困惑した顔で彼女を見た。
「正解だ」
謎の客は、周囲のネズミを追い払うような超自然的な笑い声を上げた。兄妹は、その小さな害虫たちに少しの羨望さえ感じた。
「それから、モランデ家とバルマセダ家は奇妙な一族よ。首都からアイデアを持ってきて、藪医者よりマシだっていう医者を連れてきてる……」
アグネスは決意を持って、この客に役立つであろう情報を口にした。客は滑るような音を立てて後退し始めた。
「待って! あいつらには気をつけて。患者は人間じゃなくなるわ。身体の不自由な人を歩かせることはできても、肉体と金属の結合は良い予兆じゃない……」
女は早口で言ったが、最後まで言い切ることはできなかった。情報を明かした男は、下水道の中へと溶けるように消えてしまったからだ。
「……奇妙だ。変な。恐ろしいな」
二人は何を言っていいか分からず同時に呟いた。しかし、彼らの鋭い目は下水道の縁に残されたものに釘付けになった。
「触ってもいいかな?」
ロバートは冷や汗をかきながら言った。妹はこれまでになく青ざめ、病的な表情をしていた。
「たぶん……価値のあるものよ」
彼女は深く息を吸い、一歩踏み出した。
それは汚れた小さな袋だった。下水道の残骸と、袋の中まで汚れを通さないための粘液のような物質に覆われていたが、ずっしりとした重みがあった。
彼女はそれを開ける前に軽く振ってみた。愛してやまない、聞き慣れた小さな金属音がした。
「何だ? 気をつけろよ……」
ロバートは虚空に向かって言った。彼女は袋を開けるのに夢中だった。
「水曜日のために準備しなきゃ……」
彼女は袋から目を離さず、光るものを兄に投げた。そして興奮して袋を握りしめた。
それは湿って脂ぎった地図だった。ロバートに投げられたコインの音は、ここ数ヶ月で聞いた中で最も甘い響きであり、腐りきった世界における本物の「約束」の重みだった。あの狂人か何だか分からない存在は、彼らにチャンスを残した。しかし、その贈り物と謎かけは、ラトゥー家の強欲を予想以上に深く繋ぎ止めていた。
「こんな貴重なものを投げるな! この価値が分からないのか?!」
ロバートは低姿勢を保つのも忘れ、妹に怒鳴った。妹は満面の笑みで振り返った。
「あげるわよ。これを手に入れたら、あたしたちの一族は家紋に刺繍されることになるんだから!」
彼女は野心的な幻想に浸っていた。ロバートも地図を見て、その富の夢に没頭した。自分たちが火遊びをしていることは分かっていたが、あの正気とは思えない存在がくれたチャンスは、危険を補って余りある報酬を約束していた。それに、あいつの支離滅裂な言葉は、なぜか何度も的中してきたのだ。
恐怖に満ちたこの町で、最も確実なのは怪物と組むことだ。皮肉なことに、この場所の住人よりも、彼らの方がよほど「人間」らしいのだから。
泥濘の中の黄金
ラテュ一族の兄妹は、汚泥にまみれた地図と、耳に心地よい硬貨の音に魂を預けた。
狂人の戯言か、あるいは怪物からの啓示か。
腐敗しきったこの町では、正気でいることこそが最大の狂気なのかもしれない。
「水曜日の夜、猫が枕を残して去る時」、彼らは自らの運命を賭けた「チーズ」を盗みに走る。
鉄と肉が混じり合う不吉な未来が、すぐそこまで迫っていることも知らずに。




