第一章 1話『はじまりの少年』
都会の喧騒は、いつ聞いても、耳に慣れなかった。
俺の名前は朔真 夕瞳。女みたいな名前だと思うだろうが、立派な都会の男子高校生だ。ちなみに、童貞ということは俺と君だけの秘密な?
さて、話は逸れたが、俺は中学校を卒業後、親の離婚の兼ね合いで『東京』の高校に進学した。
最初は憧れたさ。東京の『原宿』や、『渋谷』『新宿』なんかに。特に用事が無いのに電車に乗るくらいには、浮き足立っていたと思う。
――『都会の人間は冷たい』田舎の爺ちゃん婆ちゃんの言葉は、やっぱり、いつだって正しいのだと、上京してすぐに痛感した。
まぁ、この冷たい人間エピソードは、文字通り星の数ほどあるから、追々紹介するとしよう。
で、今俺はと言うとね、完全に幻覚見てるわけ。
なんか、息使いとかさ、温度感とかが、すごくリアルなのよ。
何の?って、そりゃあ、このさあ?目の前にいる『異質な何か』だよ。
俺、十七歳にして、統合失調症なのか?とか、自嘲してみるけど、本当さ、勘弁してくれって。脚に力なんて入らないし、腰も抜けたのか、すごくダサいことになってる。
「……ア……ダ…………スケェ」
まるで、機械を通して発したかのような声。
――人型の魔物?
黒い靄が掛かっているように、不明瞭な存在を前に、目を瞑った。
――俺、死ぬわ。
絶対的恐怖だとか、そういうのを前にして、恐怖で泣き叫ぶわけでもなく、ただ『迫り来る死』を受け入れようとしていた。
幾度と待っても、『来るはずの衝撃』は来ない。
代わりに、とんでもなく上品な香りが鼻腔をくすぐった。
「なんで結界の外に出たの? その様子だと、許可証とかも無いんでしょ」
息を呑んだ。だって、現実離れした美少女が俺の目の前に立っていたから。
青みがかった銀髪で、碧眼、極めつけは――胸だ!
てか、外国人?コスプレとかでも無さそうだし、それにさっきの魔物みたいなやつはどうなった?この子が倒したのか?
だとしたら、無事なのだろうか。怪我とかは、して無さそうだけど。
「まずは、ありがとう? というか、怪我とかはしてない? 大丈夫?」
美少女は、俺の言葉を聞いて、緊張するほど長いため息を吐いた。
なんか、呆れられてる?初対面で?俺が?
「――君も、怖かっただろうに。 他人の心配? 家はどこ?」
『家』か。家ね。東京とか言ってさ、通じる?俺、今流行りの異世界転移しちゃってるよね?てか、これ全部俺の妄想?
――ああ、でも、東京よりも、ここのがいいのかなあ。
「早く。 私の時間は貴重なの。 黙ってないで、喋って」
「あの、話せば長くなるんだけどさ、俺、どうもこの世界の住人じゃないみたい」
頭を掻きながら、誤魔化すように答えた。彼女の表情は、なんだか後ろめたくて見れていない。
「嘘はついていないか。 じゃ、ついてきて」
その優しい言葉に、気が付いたら頷いていたし、安堵からか、脚の震えも、抜けた腰も、かつての片鱗は見られなかった。
――俺、適応能力高くね?
東京では失敗したのに。




