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第7回なろうラジオ大賞参加作品

合い言葉はサンタクロース〜届かない祈り、届いた叫び【なろラジ用短編版】

作者: 辻堂安古市



なろうラジオ大賞参加作品です。



 


 私の世界に色は無かった。


 「ごめんなさい」と笑えば、少しだけ叩かれる時間が短くなる。神様に祈っても、暗い部屋の冷たさは変わらない。私は救いなんてものを諦め、運命を受け入れていた。



 あの雪の降るクリスマスの日、公園で出会った男の人に、私はいつもの「笑い顔」を作って見せた。けれどその人は、私の嘘を見抜いていた。



「サンタを呼ぶときはな、声に出して叫べ。じゃないと届かねえぞ」



 そう言いながらくれたホットカルピスの温かさを、私は今でも覚えている。



 その夜、またいつもの痛みが始まった。いつも通りにしていればいいと思ってた。でもそんな時、頭の中にあの男の人の言葉が響いた。




(叫ばねえと届かねえ)




 私は、生まれて初めて必死に叫んだ。


「サンタさーん!助けてー!」


 その瞬間、ドアが蹴り破られた。現れたのは赤い服のサンタじゃなく、黒いコートを着たあの人だった。



「よくできたな」


 

 あの人は「赤い服はクリーニング中だ」なんて不器用な嘘をついて、私の世界を変え、優しく抱きしめてくれた。


 私はお礼に、大切に持っていた一粒の飴玉を彼に渡した。それが、その時の私が持っている一番の宝物だったから。





 その後、私は今の養父母に引き取られた。それまでに比べれば、こんなに幸せで良いのかと思った。そして、あの地獄のような日々のことも「記憶屋」と呼ばれる人が消し去ってくれて、うなされることもなくなった。でも同時に、私を救ってくれた誰かの事も、消えてしまっていた。





 

 私は今、温かい家庭を築いている。けれど、時折胸の奥が疼くことがあった。なぜか捨てられない古ぼけた飴の包み紙。そして、誰に教わったわけでもない一つのフレーズ。





「合言葉は、サンタクロース」




 その言葉を呟く度に、何故か心の中に温もりが灯っていた。







 雪の降るクリスマス、娘と街を歩いていると黒いコートの男性とすれ違った。


 鋭い瞳、煙草の匂い。記憶の蓋が激しく震える。私はたまらず問いかけた。



「あの、どこかで……?」


「人違いだろ」



 ぶっきらぼうな声。でも、その瞳は優しかった。娘が彼を「黒いサンタさん!」と呼び、彼から一粒の飴玉を受け取ったとき、私の頬を涙が伝った。





 すべてを思い出したわけじゃない。

 でも、わかる。





 あの日、あの人が私に「生きていい」と教えてくれたから、叫びを聞いてくれたから、私は今、この子の手を握っていられる。雑踏に消えていく黒い背中に私はお礼を言った。




「ありがとう、サンタさん」




 








お読みいただき、ありがとうございました。

本作は【連載版】の短編版となります。

(ラストシーンは推敲中ですが)

よろしければそちらもご覧ください。



詰めるのしんどかった……!



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― 新着の感想 ―
少女を救ったのは黒いコートの男性ですが、彼が少女を救えたのも少女自身が「誰かを信じて声を上げる。」という勇気と希望を持つ事が出来てこそですね。 視点人物の少女が無事に救われて何よりです。
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