合い言葉はサンタクロース〜届かない祈り、届いた叫び【なろラジ用短編版】
なろうラジオ大賞参加作品です。
私の世界に色は無かった。
「ごめんなさい」と笑えば、少しだけ叩かれる時間が短くなる。神様に祈っても、暗い部屋の冷たさは変わらない。私は救いなんてものを諦め、運命を受け入れていた。
あの雪の降るクリスマスの日、公園で出会った男の人に、私はいつもの「笑い顔」を作って見せた。けれどその人は、私の嘘を見抜いていた。
「サンタを呼ぶときはな、声に出して叫べ。じゃないと届かねえぞ」
そう言いながらくれたホットカルピスの温かさを、私は今でも覚えている。
その夜、またいつもの痛みが始まった。いつも通りにしていればいいと思ってた。でもそんな時、頭の中にあの男の人の言葉が響いた。
(叫ばねえと届かねえ)
私は、生まれて初めて必死に叫んだ。
「サンタさーん!助けてー!」
その瞬間、ドアが蹴り破られた。現れたのは赤い服のサンタじゃなく、黒いコートを着たあの人だった。
「よくできたな」
あの人は「赤い服はクリーニング中だ」なんて不器用な嘘をついて、私の世界を変え、優しく抱きしめてくれた。
私はお礼に、大切に持っていた一粒の飴玉を彼に渡した。それが、その時の私が持っている一番の宝物だったから。
その後、私は今の養父母に引き取られた。それまでに比べれば、こんなに幸せで良いのかと思った。そして、あの地獄のような日々のことも「記憶屋」と呼ばれる人が消し去ってくれて、うなされることもなくなった。でも同時に、私を救ってくれた誰かの事も、消えてしまっていた。
私は今、温かい家庭を築いている。けれど、時折胸の奥が疼くことがあった。なぜか捨てられない古ぼけた飴の包み紙。そして、誰に教わったわけでもない一つのフレーズ。
「合言葉は、サンタクロース」
その言葉を呟く度に、何故か心の中に温もりが灯っていた。
雪の降るクリスマス、娘と街を歩いていると黒いコートの男性とすれ違った。
鋭い瞳、煙草の匂い。記憶の蓋が激しく震える。私はたまらず問いかけた。
「あの、どこかで……?」
「人違いだろ」
ぶっきらぼうな声。でも、その瞳は優しかった。娘が彼を「黒いサンタさん!」と呼び、彼から一粒の飴玉を受け取ったとき、私の頬を涙が伝った。
すべてを思い出したわけじゃない。
でも、わかる。
あの日、あの人が私に「生きていい」と教えてくれたから、叫びを聞いてくれたから、私は今、この子の手を握っていられる。雑踏に消えていく黒い背中に私はお礼を言った。
「ありがとう、サンタさん」
お読みいただき、ありがとうございました。
本作は【連載版】の短編版となります。
(ラストシーンは推敲中ですが)
よろしければそちらもご覧ください。
詰めるのしんどかった……!




