99:ブルクハルト・クンツ視点33
ユルゲン・マルトリッツがクレーバーン公爵への嫌がらせで
「クレーバーン公爵領の盗賊団情報を過小見積もりで知らせた」
と聞いて、俺はクレーバーン公爵領へ向かう事にした。
本来ならクレーバーン公爵が最寄りの騎士団へ盗賊団討伐の依頼を出すべきだが、クレーバーン公爵領にはダンジョンが有る。
ダンジョンのあるパクストンには高ランク冒険者が数多く集まっている。
クレーバーン公爵は高ランク冒険者に実入りの良い仕事を与えるつもりで、盗賊団討伐を最寄りの騎士団へではなくパクストンの冒険者ギルドへ依頼する。
パクストンで冒険者活動をしているリリアンがその依頼を受ければ、リリアンに危険が及ぶ。
そんな事態を見過ごせない。
(多分ギードと、クリスとかいう男で、リリアンが傷つかずに済むように護衛してはくれるのだろうが…)
万全とは言い切れない。
戦力は多い方がいいと思い、カスパーとオットーも連れて行く事にして
取るものとりあえず騎馬でパクストンへ向かった。
街道の途中で行商隊が休憩している所に行き合い
「盗賊が出ていないか?」
と探りを入れていると丁度街道脇の森の中から冒険者達が出て来て
「盗賊団討伐に加勢してくれ」
と言ってきた。
「盗賊団の規模が想定を遥かに上回っていて、このままでは全滅する可能性すらある」
と言われても…
ランドル人冒険者が全滅するかも知れないという事態には興味はない。
俺の興味は討伐隊にリリアンが参加しているか否かだ。
「討伐隊に参加した冒険者の中に『リア』という名前の女はいるか?」
と聞くべき事を尋ねると
「いる」
と即答された。
「…お前、討伐隊に参加した冒険者の名前全員覚えてるのか?適当な事を言ってるんじゃないだろうな?」
と訊くと
「実はその『リア』って女冒険者が他の女冒険者達に絡まれてたから覚えてたんだ。
Dランク以上しか参加できない依頼に弱いヤツを紛れ込ませるのはいただけないって意見だったが、実際には難癖つけた女達よりもリアって子の方が使えた」
だそうだ。
リリアンは学院でも性悪女達に絡まれてたようだが
市井に出て平民として暮らしてもやっぱり絡まれているらしい。
「そうか…」
と納得して頷くと
オットーが来て
「行商隊の護衛も戦闘に参加するそうです。我々はどうしますか?」
と尋ねてきたので
「俺達も戦闘に参加する」
と伝えた。
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リリアンと再会できて言葉を交わした。
それだけで生きる気力が湧き上がる気がした。
(何が何でも一緒に帰ってもらおう)
と思っていたので、彼女が大人しくついてきてくれた事が嬉しい。
後は面倒な女達を追い払えば良いだけだ。
(きっと未来は明るい筈)
と信じる事にする。
王都に着いた直後に
「明日、王城で血縁関係識別審議を行う」
という知らせがあった事を使用人から聞いた。
いよいよ決着をつけて、明日からリリアンと新婚生活のやり直しだと思うと、待ちきれないくらいにワクワクした。
そうして迎えた審議の日ーー。
ワンダはヴィクトール様に話しかけられて
「やっと私がエリアル・ベニントンの娘だと明らかにされる機会が訪れた事を光栄に思います」
だのと言う。馬鹿なのだろう。
ワンダはその後、採血を受ける旨を了承しておきながら
「…申し訳ありませんが、私は血や怪我を見ると気分が悪くなるタチでして…。自分の肌に採血用の注射針が突き立てられるのがとても恐ろしいのです。なので手袋の上から針を刺してくだされば、と思います」
と言い出した。
俺は
「大丈夫だ。採血の間、目を瞑っていれば良い」
と言って、ワンダの手袋を素早く剥ぎ取った。
思った通り細工があったので
「エリアナ・ガードナーの共犯が明確になったな」
と小声で指摘した。
ダニエルが
「何故医務官が予定の人物と違ってるんだ。おかしいじゃないか!」
と喚いたが、それも想定内。
ワンダが
「いやぁ!やめて!本当に怖いのよ!」
と叫ぶ中採血が強行された。
「この書類にはエリアル・ベニントンの血判が押されています。血判から血を削り出して使います」
と医務官が告げて、言葉通りの作業が行われた。
「動作確認は既に済んでいます。所定の箇所へ血を投入します。結果が出るのには2、3分掛かります」
その間にもワンダが叫び声を上げていたが
誰も同情はしない。
ダニエルの方は
「動作確認が済んでいると言われても信用できない!我々を罪人に仕立て上げるための陰謀が企てられているのかも知れないじゃないか!」
「辺境伯が連れている、その女の方が先代辺境伯の血を継いでいないかも知れないのに!何故こちらが血の正当性を疑われるんだ!おかしいぞ!」
だのと言い出したので
俺が
「黙れ!!!」
と一喝してやった。
そうして出た判定結果は
「ワンダ・アシュトンとエリアル・ベニントンとの血縁関係は確認されませんでした。結果は『赤の他人』ですな」
との事だった。
「牢に連れて行け!」
というヴィクトール様の声が響いた。
俺は
「陛下、お手間をとらせてしまい、申し訳ありませんでした」
と心から感謝を込めてお辞儀した。
往生際悪く
「ハルト!ハルト!助けて!貴方を愛してるの!貴方の妻になれると思ってエリアナに従ったの!私達はエリアナに騙されたのよ!」
とワンダが叫んだが
「話にならないな…」
と溜息が漏れた。
(あんな女に惚れてた時期があった事は一生の恥だ…)
そのままダニエルとワンダが引きずられて謁見室から消えたところで
一瞬、場がシンと静まりかえりーー
メイスフィールド公爵ユルゲン・マルトリッツが
「せっかく血縁関係看破魔道具があるんだ。リリアン夫人も先代辺境伯との血縁関係を調べてもらったらどうだ?」
と言い出した。
(何を考えている?)
と不審に思い、ユルゲンを見ると何故かウインクされた…。
反対する間もなくリリアンの血が採血されて
魔道具へ彼女の血が投入され
2分くらい経ちーー
医務官が
「リリアン・クンツとエリアル・ベニントンとの血縁関係が確認できました。98%の確率で親子です」
と告げたので
(これがウインクの意味か!)
と悟った。
「そんな…!ーー私は本当に、お父様の娘だった…?!」
感動して固まっているリリアンを素早く抱き寄せ
「良かったな」
と声をかけた。
「リリアン夫人に辺境伯家の後継の資格がある事が証明された訳だ。これでその夫であるブルクハルトが一点の曇りもなく辺境伯家当主だという事も証明された。皆もブルクハルトのために喜んで祝福してあげて欲しい」
ヴィクトール様のお達しに応えて
側に控えていた側近達が皆一斉に拍手した。
ありがたい。
俺は皆の好意に甘える事にして
「皆様、祝福の拍手ありがとうございます。ですが妻は療養から戻ったばかりで疲れが溜まっている筈。
図らずも興奮させてしまったので、妻の体調を慮り、今日はこのまま退席させていただきたいと思います」
と言い、リリアンを抱き上げて屋敷へ連れ帰る事にした。
リリアンは帰りの馬車の中で
「実は私、侍女達の噂話で、お母様が私を妊娠してた筈の期間中にお腹が大きくなかったって聞いた事があって、気にしてたの」
と、これまでの不安を吐露してくれた。
「お前の兄と姉が双子だったから、その時と比較してお腹が大きくなかったと言ってるヤツがいたんじゃないのか?
体質にもよるんだろうが妊婦のお腹が目立たずに妊婦に見えない女性も稀にいるらしいからな」
「私はちゃんと、両親の子だったんだ…。本当に嬉しいんです。今日は連れて来てくださってありがとうございました」
「お前が喜んでくれて俺の方こそ嬉しい」
俺は本心からそう伝えたものの…
(ユルゲンのウインク…。アレは茶番の合図だ。リリアンはやっぱりレベッカ夫人のクローンで、エリアルの子供ではない)
と真実に気が付いていた…。




