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挿絵(By みてみん)


ブルクハルトと王都に戻るとーー

ブライトウェル辺境伯邸には既に「異母姉」と名乗る女が滞在していた。


(これが、あの「ザラ・アシュトン」の娘…)

私が女を観察して目を丸くしている傍らで

ブルクハルトは溜息をついている…。


女はブルクハルトを目にした途端に満面の笑顔になり

「ハルト!やっと戻ってきてくれたのね。何も言わずに留守にして酷いわ。寂しかったのよ」

と駆け寄ってきた。


抱きつく動作もごく自然で

随分打ち解けている様子…。


(…厚かましい女だなぁ…。ブルクハルト様が私を頼ったのって「このまま一緒にいたら絆されるかも知れないから」とかいう理由からなんじゃないのかな?…)

と私はブルクハルトの真意を予想した…。


他人との距離感を縮める手順を踏まず

いきなり馴れ馴れしく接する人間に嫌悪感を感じる者もいるが…


その手の人間の胡散臭さに明確な疑いを持たない者は

ジワジワ絆されてしまう事が多い…。


(この手の女性を好む男性も、世の中、多いんだよね。お父様もザラ・アシュトンに対して内心で「満更でもない」とか思ってたのかもね…)

と警戒心を持って「異母姉」を見遣った。


「ワンダ・アシュトン。勝手に滞在していたのか…。流石の厚かましさだな」

ブルクハルトが溜息を付くと


「エリアナの所を急に追い出されてしまって…。私だってハルトから『厚かましい』と嫌われるのは悲しいし、できれば遠慮したかったけど、他に行く宛がなくて…。ごめんなさい…」

と悲しそうな表情を見せてくれた。


(演技力があるな…。本当に『厚かましい』と嫌われるのが悲しいなら、宿にでも泊まってる筈よね?)


「ともかくこの屋敷からは出ていってくれ。とは言え、持ち合わせがないなら宿代は俺が持とう。

君は俺の大事な妻の姉君が連れてきた妻の異母姉だという話だし、明日にでも君の血筋を明らかにする手続きを行いたい。

明日の午前中10時に王城前で待ち合わせできるか?宿から王城前までの馬車代は宿に預けておく。是非、来てくれ」

ブルクハルトは笑顔だ。


追い払うために血縁関係識別を済ませてしまいたいと思っている本心が見えない優し気な笑顔。

(この女が勘違いする筈だよね…)


ワンダ・アシュトンが屋敷を去って宿屋へ向かってくれた後で

ブルクハルトがワンダに関して色々と教えてくれた。


ワンダ・アシュトン。

ザラ・アシュトンの娘。

バルシュミーデ皇国に帰化しており、今現在はバルシュミーデ人。

騎士団へ入り騎士を目指したものの、バルシュミーデ皇国はランドル王国と違い、平民は騎士になれない。


皇族に仕える女性騎士に取り入って従騎士の身分を得て皇宮に出入り。

複数の男性と同時に付き合う人間性。

男性に大層モテているようだが彼女と付き合う男は誰一人として彼女との結婚を望まない。

当人は玉の輿に乗るのが夢。


エリアナが異母姉としてワンダの居所を探し当てて

ベニントン家の生き残りとして感動の再会を果たした。


そうしてエリアナが辺境伯邸までワンダを連れてきた。

ワンダがブルクハルトと面識があったのを良い事にエリアナは

「運命の再会を果たした2人の未来を祝福します」

だのと言い出し、ベニントン家の後継としてワンダをプッシュ。


その後はまるで婚約者気どりでワンダが屋敷にも王城にも押しかけて来るようになった。


「本気で困っている。『嫌いだ』と意思表示しても、それが俺の本音だという事実を何故か信じてくれない。いい加減にして欲しい」


そう告げるブルクハルトの顔は真顔そのもの。

美女に擦り寄られて嬉しいとニヤけるような雰囲気が微塵もない。


「災難でしたね。でも明日で決着をつける気なんですよね?」


「ああ。下準備はバッチリだ。明日でワンダ・アシュトンを詐欺罪で断罪して処罰できる」


「良かったですね…」

血縁関係看破魔道具はブライトウェル城にあった。


時折、領内でも

「本当に自分の子なのか知りたい」

と言い出す父親がいたので、その魔道具が貸し出されて子供と父親の血縁関係が識別されていた。


大抵は

「本物の親子だ」

と判明して、疑っていた父親の側が批判されたが、たまに

「父親と血縁関係がない」

と判明して、母親の不貞が明らかになる事もあった。


領民は

「不貞の女」

「不貞で生まれた子」

を盲目的に差別するので、そういう場合は

「母子を他領へ逃がし、名前を変えさせる」

といった手続きが行われた。


「…ワンダの詐欺罪が確定したら、彼女の処遇はどうなるんでしょう?」


「平民の間での出自詐欺は表向き罰金刑を科し、実質は『義憤に駆られた第三者達による私刑をあえて止めずにおく』という処罰が下される事が多い」


「うちは平民ではなく貴族なので罰金刑では済みませんよね?」


「公けにするなら、ワンダを引き入れたエリアナも巻き込んでの死刑になるだろうな。

だから裁判所ではなく国王の裁量権で裁いてもらう。ワンダの死刑はともかく、リリアンはエリアナまで死刑になるのは嫌だろう?」


「そうですね。お義兄様をずっと裏切っていたお姉様に対して『幸せになって欲しい』という気持ちは最早全くありませんが、死刑にされるのは困ります。

流石にベニントン家の実の娘が『実家乗っ取りの詐欺罪に加担した』として死刑になるのは家の恥ですから」


「なので処罰は秘密裏に処理される。二度とおかしな手出しをして来れないよう対処を考えていただいている」


「…そう言えば、ヴィクトール皇子殿下は、今ではヴィクトール国王陛下になられたんでしたね」


「ああ。…フローレンス女王は残念だったな。死病で侍医も医務官達も手の施しようがなかったらしい」


「長生きしたかったでしょうに…」

私が亡くなった女王に同情を向けると


ブルクハルトは

「お前が同情してやる値打ちがあの女性にあったとは思えないんだが…」

と苦笑を漏らした…。


********************


翌日。

予定通りブルクハルトが王城へ出向く事になった。


「私もご一緒できませんか?」

と尋ねると


「それなら、口裏を合わせる必要があるから、これまで俺達夫婦の仲が表向きどうなっていたのかについて打ち合わせしよう」

と言われた。


それで話を聞いてみるにーー

ブルクハルトは「妻に逃げられた」という事実を世間的に伏せていた事が分かった。


王城から消えていた私は王都の闇医者の世話になっている所を夫に保護されて、そのまま領地の田舎農村に行って、腕の傷と心の傷を癒すために療養している事になっていた。


「妻に逃げられた」となると

「新しい妻を」と勧められる事が分かっていたので

それは避けたかったのだそうだ。


「実際、お前の居所は知っていた訳だし、療養のための別居だと世間の皆様に言ってた話も全て出鱈目という訳でもないだろ?」


「…そうですね。ご苦労おかけして申し訳ありませんでした」


「ともかく、お前は療養を終えて王都に戻ってきたという事になるので、何か聞かれても返事は全て俺がする。お前はただ俺の説明に頷いて肯定してくれていれば良い」


「分かりました。ありがとうございます」


そうして私は馬車の中で療養地という事になっている土地の特色を教わった…。


王城前へ着くと、既にワンダ・アシュトンが到着していた。

何故か見知らぬ男性と一緒にいる。


(誰だろう?)

と思っていると


「エリアナの今の夫。ダニエル・ガードナーだ」

とブルクハルトが耳打ちしてくれた。


「何故ワンダがエリアナお姉様の夫と一緒に居るんでしょう?」


「ありがちな話だが、ワンダがエリアナからダニエルを寝盗ったんじゃないか?」


「…長年秘密の恋仲だったんですよね?エリアナお姉様とダニエルさんとやらは」


「釣った魚に餌をやらないタイプの男は『自分のもの』より『他人のもの』を欲しがる性質があったりするからなぁ」


「…そんなクズな男とどうこうなる女性は人を見る目が皆無なんでしょうね。きっと」


私達のヒソヒソ話がダニエル本人に聞こえたとも思えないが…

ダニエルが私達の方に目を向けて笑顔で片手を挙げた。


「こんにちは、クンツ夫妻」

と如何にも親戚ですよと言いたげな馴れ馴れしさ。


「エリアナの異母姉だけでなく同母妹にもこうしてお会いできて光栄です。残念ながら私もエリアナも貴族では無くなってしまいましたが、私はこの世で何よりも大切なものは爵位でも金でもなく愛だと思ってます。

互いに夫婦仲睦まじく交流していけたらと思います。よろしくお願いします」


「そういうわりに、貴方の妻のエリアナ夫人の姿が見えないが?」


「…エリアナは少し気分が悪いらしくて今日は家で留守番をしています」


「なるほど。それで義姉であるワンダ嬢に付き添って王城に来た、と」


「ええ」


「今日、王城で何が行われるのか、ご存知なんですよね?」


「ええ」


「それなら歓迎いたします。是非最後までお楽しみください」

ブルクハルトが皮肉な笑みを浮かべてダニエルを歓迎した…。



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