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街道まで出るまでに一度敵と遭遇して戦闘になったが
(街道に出れば何とかなるだろうから「魔力温存」とかは一先ず忘れよう)
と決意して風刃を使いまくって撃退した。
ニールとロイが
「魔法か?!魔法なのか?!」
「なんださっきの?!」
と今更驚いていたが…
返事をするより速く走る事に集中したいので無視した。
街道が見えてきたが…
街道で待機していたのはそこまで大きな商隊ではない。
10人くらい人が乗れる大きさの幌馬車が3台。
(積荷用の幌馬車に戦闘員が隠れていたとしても、せいぜい30人くらいなんじゃ…)
50人が80人になったところで300人に敵うとは思えない。
それでもレベル差があると、1人で複数人相手どって瞬殺する事もできるにはできる。
(でも、1人で複数人を瞬殺って、そんな事できる人って、私はお父様と、その側近くらいしか知らない。…皆、戦死してるから、バルシュミーデ軍人にはそれを上回る強さの人達もいるんだろうけど…)
私は民間人の冒険者に大した期待をしていないのだと
その時、自分で自覚した。
だけど私達よりも早く街道に到着していた人達が商隊の代表らしき人と話をしているのが遠目にも見えるので
「どうやら助っ人として共闘してもらえるらしい」
事は分かり、有り難いと思った。
そして、ようやく街道まで辿り着くとーー
息切れしてる呼吸を整えるべく
馬車の影に入って少し休憩をとる事にした。
「水…」
と水嚢を腰の固定具から外して、皆、先ずは水分補給をしている。
(そうだ。水…)
私は金属製の水筒を利用している。
皮の水嚢より破損の心配が少ないし、いざという時に投擲に使える。
その水筒に口をつけて傾けようとした時に
急に背後から抱きしめられて、驚いて水がこぼれた。
ギードかクリスがこんな時にも関わらずふざけてるのかと思って
「一体何?」
と振り返ると、思っても見なかった顔を直ぐ間近にあって
今度こそ驚愕して水筒を落としてしまった…。
「…ブルクハルト様?…なんで…」
私の問いには答えず
彼は
「リリアン…。会いたかった…」
と言って、抱きしめる腕に力を込めた…。
「うぐっ…。く、る、しい…」
「ああ、すまない」
と謝ってくれたが
「どうしてこんな所にいらっしゃるんですか?」
と訊いても
「それは後で話そう」
と、こちらの質問は遮られた。
「ホラ、敵の姿がチラホラ木の影から見えてきた」
そう言われて周りを見ると
いつの間にか討伐隊の55人はあらかた戻ってきていて
街道脇の森の木陰から弓士特有の陰湿な殺気が漂っていた。
アジトの洞窟があった側の森からだけでなく反対側の岩場にもいつの間にか回り込んで弓士が控えているのが分かった。
「殺気がダダ漏れだし、大した腕じゃないのは分かるが、おそらくこちらが一番嫌がるタイミングで矢を放ってくる気なんだろうな」
「でしょうね」
「岩場に潜む弓士は盾を持つ剣士が始末してくれるだろうから、木の影に潜む弓士にはこちらも弓士と風魔法で対処しよう」
「風魔法、ですか?使えるんですか?どなたか」
「俺が使える」
「そう、だったんですね…」
(接近戦だけでなく中距離戦もこなせるなんて、お父様と同じだ…)
私はブルクハルトの戦闘を知らないが、身体強化しての接近戦と不意打ちによる風魔法の中距離戦は父エリアルの得意とするものだった。
そして実戦の中で魔法を不意打ち狙いで撃てるというアドバンテージがあって、誰も父に敵わなかった。
魔力というものは、魔法というものは、使いこなせる者が少ないからこそ切り札になる。
ダンジョンだと身体強化は本当に肉体だけの強化だが
辺境の樹海だと身体強化の延長で武具・防具も強化して戦える。
ダンジョンで武具を強化して戦うと、これまた魔物を傷つける時に武具に込めた魔力が散り、ダンジョンに吸われてしまう。
ダンジョンだと武具の性能は魔力で底上げできないのである。
(ここでは矢や短剣にも魔力による強化を付けて良いんだったな…)
と改めて実感した。
森の中では盗賊団が集結したのか…
角笛のような音がして、直ぐに一斉に矢が放たれてこちらへ飛んできた。
「「「「「来たぞ!!!!」」」」
皆、矢を警戒したが、急に不自然な突風が吹いて矢が宙に舞い上がった。
ブルクハルトの風魔法だろう。規模が大きい。
これで何発もの攻撃を凌げるのなら結構な魔力量なのだろう。
「風が止んだぞ!!!!」
という声を合図に今度はこちらが矢を放った。
盗賊側は森から出て来ていないので矢は大半が森の前面の木に突き刺さった。木々の隙間を抜けた矢もあるが、ダメージは無さそう。
何度となく矢の応酬を繰り返して、ついに
「矢の無駄だ」
と思ったという事なのか、盗賊達が盾を翳しながら突っ込んで来た。
「うおりゃぁ〜!!!」
「死にさらせ〜!!!」
「ぶっ殺〜す!!!」
「どわぁぁぁ〜っ!!!」
と色んな声が混ざった雄叫びが響き渡り、思わず迫力負けしそうになったが
(とにかく1人でも多く殺しておこう)
と風刃で足元を狙ってやったところ、先頭がステンとすっ転んだので、その後から来ていた盗賊も次々と転んでくれた。
「今だ!弓!」
と言われて弓士達は反射的に矢を放った。
ドスドスドスとコワイくらいに転んだ盗賊達に矢が突き刺さって
「腐れ冒険者どもがぁ〜っ!!!」
と盗賊側から怒声が起き、盗賊達の怒りのボルテージが上がったのが分かった。
だが冒険者側も
「鬼畜どもが!!!」
「逆恨みすんな!!!」
「言い残す辞世の句が俺達への恨み言か!!!」
「死ねや!!!」
「蛆虫野郎ども!!!」
と怒りに火がついたようだ。
後はドワァァァ〜!!!という大きな音としてしか認識できない罵詈雑言が一斉に上がり、剣戟の音がチン!カチン!ガシャン!とあちこちから聞こえ出した。
弓での援護は味方に当たる可能性もあるので控える事にする。
短剣を構えて後退り、風刃で盗賊達の足元を狙った。
周りでは方々から血飛沫が上がっている。
思わずギードとクリスの安否確認をしてから、ブルクハルトの戦闘の様子を観察してしまう。
思った通りに父と同じで接近戦で剣を振るいながら、隙を見て風刃を撃っている。
剣にも魔力強化で切れ味補正が掛かっていて、盾も防具も関係なくスパッと全てを切断してしまう所も父と同じ。
「対峙すれば死ぬ」
と誰もが一目で見抜くのだろう。
ブルクハルトの周りだけ盗賊が退いていて
「弓兵!この化け物を仕留めろ!」
と遠距離攻撃に頼ろうとしている。
声に応答するように弓士達が木陰からノコノコ出てきてブルクハルトに狙いを定めようとしたのが見えたので…
私はすかさず弓士達の手を切り落とす風刃を立て続けに放った。
そんな私が気に入らなかったのか
「女を殺せ!生け取りにするのは危険だ!その女を殺しておけ!魔法を使いやがるぞ!」
と標的変更する指示が出た。
だけど気に入らないのは、こっちも同じ。
(周りに指示する奴は偉いんだろうね)
と思って、私を狙うように指示した盗賊の首を風刃で狙う事にしたが…
どうやって移動したのかーー
いつの間にかブルクハルトがその盗賊の側にいて
私が風刃を撃つ間もなく盗賊の首を斬り飛ばしていた。
ヒィィィ〜!!!と情けない悲鳴が上がり
またもブルクハルトの周りの盗賊達が逃亡するように散っていくが
ブルクハルトは逃げ足の一番速い盗賊を真っ先に追いかけて斬り捨て
「逃げるな!!!」
と無茶な命令をした。
私の方にも数人向かって来たが、ソイツらの剣が私に届くより前に、ソイツらはクリスの槍の餌食になった。
「女を狙う卑怯者が!!!」
という怒声には私も賛同だ。
敵側の弓士が全員無力化したという事なのか、ギードは馬車の御者台の上に立って、高みから戦場を見回して、不利な冒険者を加勢するべく矢を放っている。
「負傷者は馬車まで逃げて避難しろ〜!!!」
ギルド職員が負傷者への指示を出すのが聞こえた。
私の周りでは盗賊ばかりが死んでいくが、他のところでは冒険者の方が殺されてるのかも知れない。
それにしても周りの迫力が凄い。
短剣で応戦する前にクリスが片付けてくれるので接近戦は任せて風刃での攻撃に集中しても良いのかも知れない。
直接刃を交えるのが戦闘の礼儀なのかも知れないけれど、私には合わない礼儀だ。
身体強化で地力の2倍・4倍にしてみても、元から馬鹿力の人達の2倍・4倍には絶対敵わないし、下手したら身体強化無しのただの馬鹿力の男にさえ負ける。
女は飛び道具で戦っても良いと思う。なので遠慮なく風刃を撃ちまくる。
弓矢での攻撃は魔力が切れてから考える。
とにかく夢中で敵を効率的に倒す事を考えて
内心かなりパニックになってて
色々正気ではなかった気がする。
盗賊とは言え相手は人間。
ためらいとか罪悪感とかありそうなものだけど、直に刃物を突き立てて肉を裂いて殺すのと違い、矢や風刃で殺すと相手との間に距離を保てる。
お陰で相手の情念や逆恨みに呑まれる事もなくいられた。
だけどそれは人間の在り方として冷淡過ぎるもので、実のところ正気じゃないと思う。
やっと戦闘が終わった時に感じたことは
(ちゃんと生き残れた…)
という安心感だった…。




