表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/100

87

挿絵(By みてみん)


盗賊団のアジトはゴブリンの巣穴だった洞窟をゴブリン殲滅後に再利用したもの。

アジト周りには急拵えの罠が複数拵えてあった。


落とし穴を掘る時間は無かったようだが…それはアジト周りでの事。

外で時間稼ぎしている間に洞窟内では落とし穴が掘られているのかも知れないので突入するなら注意が必要だ。


私達が一番乗りだったようで、他のグループの姿は見られない。

洞窟の周りには誰もいないように見えるが…

おそらく不用意に洞窟の入り口に近づくと何処からか矢が飛んでくる筈。


(矢を射かけやすく、見つかりにくい場所は…)

と木の上を探すと、革の防具の質感の茶色が木陰からチラリと見えた。

一、二、三箇所…。

互いに矢を射かけにくい位置関係だ。


(このままにはできないよね)

と思い、ギードを見遣る。


ギードは気配を察知するのも隠蔽するのも得意な人だ。

弓の腕も確かだが投擲も得意。

孤児院時代には石を投げてネズミを殺していたのだとか。


私よりも先に敵の気配に気付いていた彼は既に矢を弓につがえていた。

無言で次々木陰の隙間から見えるほんの小さな的に当てていく。


射られた側は木陰からジワジワ弓矢と手だけ出して当てずっぽうでこちらを攻撃してくる筈なので、その時に私が更に手を狙う。

風刃は距離が離れると魔力消費が大きくなるが、確実に当てるには矢よりも風刃の方が良い。


スパッと指や手首が切れて、思わず、といった体で悲鳴が上がった。

体制を崩して木から落ちてくれて全身が見えたので、そこをギードがすかさず顔の中心を狙って射抜いた。

一人始末。


残りの二人が笛を吹いたので

(仲間を呼んだな)

と分かったが

(それなら)

と私達の方でも木に登る事にした。


射手の私とギードは洞窟の入り口がよく見えるように構えて、洞窟から出てきた盗賊を射た。

あらかた始末すると洞窟内の盗賊達も

「出たらやられる」

と判ったらしく迂闊に飛び出して来なくなった。

代わりに洞窟の暗がりの中から外をジッと伺っている気配がする。


だが洞窟の中からだと入り口の直ぐ横などは見えない。

死角が多くなる。

私とギードは洞窟内の監視者から見えないように枝から枝へ移り、敵側の射手残り2人を始末した。


そこでクリス、ニール、ロイが枯れ枝を拾い集めて洞窟の入り口に積み始めた。

洞窟の出入り口が一つで、洞窟内に人質がいない場合、洞窟内を煙で燻すのは定番だ。


煙攻めを避けるために、洞窟を根城にする盗賊は

「人質を取っているぞ」

という事を明示しておく場合もあるらしいが…

この盗賊団はそれがないとかで

「もしも人質が取られていても、知らなかったで済む。罪に問われる事はない」

のだそうで、安心して煙攻めができる。


私が「風顕現」で煙を全て洞窟内に送り込むので煙攻めの効率も良い。


そうこうしているうちに、他のグループの冒険者達も集まってきた。


「出て来ないな」

「まさか煙に気付いてないとか?」

「こちら側の人数が判らずに迷ってるとか?」

「或いは、この洞窟、行き止まりではなく出入り口が他にもあるのか?」

「いや、数年前までは大して広くない行き止まりの洞窟だったぞ」

などと話し合っても埒があかない。


ギルド職員が率いるグループが到着したので

「どうしますか?」

と討伐隊リーダーがお伺いをたてたところ


「連中がここを根城にし出してから洞窟を掘り進め出口を掘っていた、という可能性はあり得ます。ここで見張る監視チームと、出口を探す捜査チームとに分かれましょう」

との事。


20分くらい経って、慌てて戻って来た捜査チームの報告によると、やはり出口が掘られていて、ゾロゾロと盗賊達が洞窟を出て、入り口に居る私達を取り囲むべく迂回しているらしい。


「かなりの数だ。50人とか、そういう規模じゃない。300人弱くらい居るんじゃないか?」

そう報告があって、心底からゾッとした…。


何故そんなにも討伐依頼書に添付されていた調査票と現実とに違いがあるのか…

それを考えた時に怖くなるのだ。


「ギルドはここの盗賊団の調査依頼を誰に受けてもらってたんですか?」

と捜査チームの冒険者が詰問した。

眉間に皺が寄っている。


「…盗賊団オールズフェアの調査は冒険者ギルドが行ったものではありません。

クレーバーン公爵の元へメイスフィールド騎士団から調査票と共に『領主として治安維持責任を果たすように』という要請書が届いて、それをそのままクレーバーン公爵が冒険者ギルドに回したものです」


「「「「「そうだったんですか?」」」」」

皆が驚いた。


それだとまるでメイスフィールド公爵がクレーバーン公爵に嘘を吐いて、クレーバーン公爵領の冒険者達を犠牲にしたがっているようにも解釈できる。


「…クレーバーン公爵家はアラーナ王女の生家ですね?彼女、一人っ子だった筈ですから、後継者がいない家って事になるんでしょうか?

それで『バルシュミーデ人を後継者の婚約者に据えるように』というお達しにも従えずにいて、既に乗っ取られている貴族家から目を付けられて潰されそうになってるとか?」

私が思わずギルド職員へ尋ねると


「おそらくそういう事でしょうが…。そのとばっちりが『先ず民間人の冒険者』って事になるのは、どうにもいただけませんね」

と嫌な顔をされた。


「戦争も政争も民間人に犠牲が出ないようにできないのかよ!」

と捜査チームの冒険者が怒っているが


(外国人は「民間人に犠牲を出すまい」という発想自体持たないんじゃないのかな?だから普通は国民一丸となって侵略を阻止しようとする訳で…)

と内心でツッコミを入れた。


(この人達…。バルシュミーデ軍が侵攻してきた時に何してたのかな…。「民間人だから」と何もせずにいたのに、「侵略されると社会がどうなるのか」を今頃になって気にしてるのかな…)

と思うと気が滅入ったのだ。

多分、戦死者の遺族は皆、私と同じように思うだろう…。



「ともかく、今は囲い込みが不完全なうちに街道へ脱出するしかありませんね」

ギルド職員がそういうと

「各自緊急脱出」

を意味する青黒い狼煙が上げられた。


「依頼は失敗!各自で森を緊急脱出。街道で集合後、ギルドへ帰還!」

「依頼は失敗!各自自己責任で緊急脱出!」

と指示が繰り返されて、私達も街道まで逃げる事になった。


「街道までの道も封鎖されてる可能性があるんじゃ…」

「敵は包囲を狙ってるので、300人が全員集合してる訳じゃない」

「相手も数人でグループを組んでの行動だろうから突破自体は容易い」

「問題は街道で集合してる間に敵も集合して押し寄せてくる可能性がある事だ」


そういう具体的な危機が話し合われていると改めて

(まさかとは思うけど…。今日、死ぬ可能性もあるんだな…)

と不思議な気がした。


不意にブルクハルトが助けに来て鉄格子を捻じ曲げた時の事を思い出した。

(あの人、今はどうしてるんだろ?)


現金なものだ。

自分が危機に陥ると、脳内で助けてもらった時の記憶が喚起されてしまうのは、潜在的に「困った時には誰か助けてくれる筈だ」と思っているからなのか…。


(そう言えば、この人も助けに来てくれたんだよな…)

とギードを見遣ると


丁度ギードが振り返って

「ちゃんとついて来てるな」

と確認した。


「大丈夫。街道は案外交通量がある。高ランク護衛を引き連れた商隊が通りかかっていれば共闘できる。6倍の人数の盗賊と戦う事になっても死ぬと決まっている訳じゃない」

とクリスも言ってくれるが、楽観的過ぎる。


「『高ランク護衛を引き連れた商隊』ね…。何かアテがあるの?」


「「………」」


「?」


「実は俺達はリアとの冒険者活動に関して王都の冒険者ギルドへマメに報告してるし、今回の盗賊団討伐の依頼を受ける事も既に報告済みだ」

「王都のギルマスは『盗賊団オールズフェアの規模はそんなものじゃない』と初めから依頼を受ける危険性を指摘してくれてたんで、こっちのギルマスもその情報を半信半疑ながら受け入れて対策をとってくれてる筈だ」


「それが『高ランク護衛を引き連れた商隊』が通りかかるって話に繋がる訳ね?」


「ああ。ギルド内にスパイが居る可能性も考慮して追加人員が付けられてる事は知らされていない」

「俺達と一緒に来た職員や、この討伐隊のリーダーも知らないんじゃないか?」


「そうだったんだ…。ちゃんと考えてくれてたんだ…」

私はホッとして、街道まで駆ける足も軽くなった気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ