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「………」
私が振り返ってギードとクリスを見遣ると
「他所のパーティーの在り方にケチを付けるのはマナー違反だろ?」
「ウチのパーティー編成はお前らには全く関係ないよな?」
と女性冒険者達へ食ってかかった。
(身体強化は重ね掛けする事で「地力の2倍」という制限を突破して「地力の4倍」とかにもできるけど…私が4倍身体強化する時にはギード達も4倍身体強化して、私を極力戦わせまいとするから、地力で劣ってる分、私は活躍できてないんだよね…)
と、少し考えさせられる。
(もしかしたら、ギード達よりも弱い人達とパーティーを組んだ方が私も活躍できて、私も強くなれるのかも…)
ギードもクリスもBランクなのに私はDランク。
ジワジワ差が開いてきた。
「そんな女に引っ付いて回る必要はないのよ?」
「どっかの貴族の元お姫様と元従者とか、そういうのでしょう?」
「落ちぶれた元貴族令嬢に義理立てしても何も得なんてないわ」
「関係ないアンタらはもう黙っててくれ」
「クリスが抜けてくれて、俺とリアだけになるのは俺としては賛成だけどね」
「はぁ?こっちのセリフだ。お前の方がパーティーを抜けろ」
「嫌だね」
「それで、当のアンタの方は一体どう思ってるのよ?」
女性冒険者の1人がズバリ私に向かって尋ねてきたので
「…そう言えば、初めて私に話しかけて来ましたね?お名前は何とおっしゃるんですか?」
と、私は興味のままに相手へ尋ね返した。
「質問してるのはこっちよ」
「…名前を名乗りもしないような、知り合いでもない相手からの質問に答えなければならない義務は無いと思いますよ。
知りたい事があるなら、先ずは自分の方も情報を開示して、相手も反撃できるだけの材料も与えておかないとフェアな対人関係は築けないのではないでしょうか?」
「屁理屈言って生意気な小娘ね?まだ若いんだろうけど、アンタ一体幾つなの?」
「そういうのも先ずはご自分の年齢を言ってから訊くべきですよ」
「…何で!こんな!クソ生意気な女がモテるのよ?!」
「顔じゃない?」
「男は面食いなのよ」
何故か女性冒険者の不満の叫びに仲間の筈の女性冒険者達がツッコミを入れた…。
騒がしいのにムカついたという事なのかーー
そこでとうとうギルド職員が半ギレして
「…はいはい。とにかく、冒険者の方々が全員揃うまで自由に歓談してもらって親睦を深めてもらうつもりでしたが、ただ今から私語禁止でお願いします」
と、こめかみに微妙な青筋を立てながら宣告してくれた…。
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盗賊団オールズフェアの団名はこの世界の諺
“All is fair in love and war.”
という言葉からのもじりだと言われている。
直訳だと
(愛と戦争では全て公平)
という意味不明の文章だが…
ランドル王国では
「愛も戦争も何でもあり」
「愛も戦争も勝った者が全て正しい」
という意味で使われる。
要はこの盗賊団は団名を通じて
「勝つためならどんな卑怯な事もする」
「勝った者が正義なのだから必ず勝つ」
と暗喩的に社会へ宣戦布告してる訳である。
「とても統率の取れた盗賊団です。一人一人の戦闘力は低い。冒険者で言えばEランクが九割。Dランク数人が幹部で首領がCランク、といったところです」
ギルド職員の説明では、人数が同じくらいでもどうやら冒険者側が戦力的に圧倒的に優位で、盗賊団側が可哀想なくらいらしい。
だが確実に悪を討伐するには過剰戦力によるオーバーキルくらいで丁度良い。
盗賊団は狡猾で「実際の戦力より遥かに弱いと見せかけて討伐隊を返り討ちにする」ような事もある。
今回の討伐対象もそういう情報操作で戦力を低く見せている可能性がある。
だからBランク5人、Cランク15人、Dランク33人の計53人が依頼を受けている。
それにBランクのギルド職員が2人加わり、全員で55人となる。
敵は最高がCランク1人なのに、こちらはBランクが7人。
敵の人数が大幅に誤魔化されていて倍以上の人数差がある、とかではない限り、危なげなく討伐できる筈。
「盗賊はゴキブリと同じように、駆除したと思ったら、また別の群れが移り棲んでくるものですから、何年連続討伐しても毎年のようにまた討伐が必要となります」
とギルド職員が辛辣な事を言うが、事実なのだろう。
(それにしても悪い事して身を立てる人達って、どうしてそういう生き方を選んでしまうんだろう…)
と不思議だ。
おかしな事に盗賊団は「義賊団」を自称している事が多い。
「高い税金をとって貧しい者達に富を還元しない寄生虫権力者のせいで生活が行き詰まったのだ」
「だから裕福な商人どもから奪ってやる」
「社会内の富の再分配に貢献して社会適正化を促しているのだ」
「俺達は反社会的勢力ではなく寧ろ愛国者だ」
という理屈らしい。
意味不明だ。
どうこじつければそんな考え方を本気で信じてしまえるのかが謎だが…
今回討伐対象の盗賊団もそういった集団自己正当化精神を掲げた、自称正義の集団だという事だ。
「心してかかるように」
と注意喚起がなされた…。
盗賊団側の精神の倒錯について考えると
私は、ふと自分が攫われた時の事を思い出した。
本当に攫われたランドル人の子供達に紛れて、ランドル人を詐称したアザール人がいた。
そして絶望した子供達の恨みの矛先をバルシュミーデ人へと転化しようとしていた。
その事が脳裏に蘇ったのだ。
(…もしかしたら、アザール人というのは物凄く悪質で、盗賊団の連中の倒錯思考なんかも「仲間に擬態して敵意の矛先を操るアザール人」によって人工的に作り出されてるのかもね…)
と疑いが起きる。
私は自国の王女であるアラーナ・レヴァインから嫌われて嫌がらせされたものだけど…。
普通に考えて
「高位貴族が同じ国の貴族に敵意を向ける」
という事自体が内ゲバだし
「高度な教育を受けた高位貴族が自己防衛という訳でもなく積極的に内ゲバに血道をあげる」
という現象自体が実はオカシイ…。
(そんな内ゲバが、外部からの敵が居ると分かり切っている状態の中で自然発生的に起こるものなのかな?)
という点ですこぶる疑わしい。
盗賊団の人達が「命をかけて『正義だ』と信じる悪事を為す」のも、「悪が何か?」という点で間違っているからだ。
外敵が内部に入り込んで「恨みの矛先、敵意の矛先」を操るべく偽情報や大袈裟な認識誘導を行なっているから、という可能性もある。
「諜報工作とは人々を騙して狂わせる詐術だ」
「他国に入り込んで現地人を騙す諜報工作員とは紛れもない悪の権化だ」
という事実を理解できない人達には何を言っても理解させてあげられない。
不自然なくらいに
国民が内ゲバに走り
決して団結できず
敵に蝕まれ放題になる国。
そんな国ではそれこそ
「恨みの矛先・敵意の矛先を操る」
諜報工作が敵主導で行われているのだと疑うべきだ。
(…そういう当たり前の事を国の上層もマジョリティーも理解できていないと、「実質、植民地。名目、独立国。国民の背負う不利益も全て自己責任」という絶望の国が出来上がるのかもね…)
と思う。
植民地なら植民地と分かりやすく支配されてた方が、困窮した国民は皆「宗主国の責任だ」と恨む相手を間違わずに済むのに…
搾取されるだけでなく現実認識自体をミスリードされると、恨みの矛先・敵意の矛先を操られ狂わされていく。
そんな目に遭わされながらも
「自分達に何がされているのかわからない」
程に盲目的で植物的だからこそ
「植民地は植民地だ」
という事だ。
(私が、リリアンが、気付いてなかっただけで、この国も、あの絶望の国みたいに蝕まれていたんだ…きっと…)




