80:ブルクハルト・クンツ視点26
「50ババアと随分話し込んだんだな?」
カールが揶揄してくるが
「聞いてたでしょう?要は禁忌魔道具の存在を侍女達も知ってたんですよ。あのババア、『リリアンがリリアンのまま生きていた』っていう、たったそれだけの事が気に入らなかったんだ。ろくなヤツじゃない」
と、鼻息荒くブリトニーを罵った。
「『永遠に生き続ける価値のある人間』ね…」
「結局、この国に巣食っていたアザール系闇ギルドの正体はアザール王家に仕える暗部組織だった訳ですが…。
連中がこの国に潜伏して狙っていたモノが正に『記憶同期化魔道具』だという事実をライムント卿がつい先日突き止めたという話でしたね…」
「『人体複製魔道具』ではなく『記憶同期化魔道具』が欲しいと思う所にアザール人の擬態性の業を感じるな。
自分自身の複製に記憶を埋め込めば『まさか』と疑う者も出てくるが、互換性のある血縁者のいずれかに記憶を埋め込んでも、そうそう疑わない。
血縁者だと見た目だけでなく中身が似ても『影響を受けたのだろう』という解釈の範囲だからな」
「自分で自分を『永遠に生き続ける価値のある人間』と思うような連中が『記憶同期化魔道具』のような禁忌魔道具を欲しがるんでしょうね。
『人体複製魔道具』の場合は単に子供ができなくて子供が欲しいという場合の使用もあるのに」
「ああ、自分のエゴを若者に乗り移らせようって訳だからな、本当に警戒すべきはそっちの魔道具だな。
アザール王家がそれを欲しがってるのか、暗部構成員ら自身がそれを欲しがってるのかは不明だが」
「禁忌魔道具が禁忌なのは人間の側に道具を悪用せずにいられない性根があるからなのかも知れませんね」
「…『記憶同期化魔道具』には悪用以外の使い方は無いと思うが?」
「どうでしょうね。世の中には頭のオカシイ人間もいるんですよ。凶悪犯罪者の更生のために被害に遭った側の記憶を埋め込めば多少は改心できるんじゃないでしょうか?」
「…それって、魔道具で他人の記憶を埋め込まれる以前の自分自身の記憶は残るものなのか?
犯罪者が犯罪を犯した記憶を保ったまま被害者側の記憶を埋め込まれる分には、犯罪が罪深い事実を理解する事に繋がりそうだが、犯行時の記憶が無ければ改心には繋がらないんじゃないのか?」
「俺もそれは危惧したのですが、被害者側の記憶に加害者である犯罪者本人の姿が残っているなら『この肉体の持ち主は罪を犯した』と事実を理解できる筈ですよ」
「その場合『罪を犯したのは俺じゃない』と思って、贖罪から逃れようとするんじゃないか?」
「ええ。それはあるでしょうね。ですが『罪を罪だと認識できるようになる』という点では進歩します。
頭のオカシイ筋金入りの犯罪者だと『罪を罪だと認識する』という当たり前の事自体ができていませんからね」
「そういうものか?」
「ええ、そういうものです…」
「それはそうとヴィクトール皇子殿下の所へ顔を出しに行くだろ?フリートヘルム皇子殿下が出席するとなると、何を仕掛けてくるか分からないし。先に打ち合わせが必要だろう?」
「ああ〜…。やっぱり来られたんですね。第二皇子殿下…」
「…バルシュミーデ皇国本土を手に入れて更にランドル王国までヴィクトール皇子殿下から取り上げようという目論みなら、強欲が過ぎるな…」
「全く…」
(面倒だな…)
「たとえ第二皇子殿下が先王の複製体だとしても、血縁である事は間違いないんだが…。自分自身以外は愛情の対象にはならない、という感覚なのか?」
「さぁ…」
(理解できないし、理解する必要も感じないな…)
俺とカールはヴィクトール皇子の控室へ向かった。
第二皇子フリートヘルム。
その中身がどうやら先王ジギスヴァルトになっている
という話は誰にでもできる訳ではない。
「魔道具技術によって、そんな事までできてしまうのか」
という事実を知らない人間にとっては荒唐無稽な妄想話のように聞こえる筈だ。
多くの人にとって
「普段暮らす中での日常感覚の現実認識からかけ離れた見方で現実を捉え直す」
事が難しい。
人は余りにも常軌を逸した精神から生じる思考や行動に関しては理解したくないものなのである。
政治的陰謀とは無縁に生きられるなら尚更、自分自身の精神衛生を犠牲にしてまで浅まし過ぎる相手を理解し、その行動の次の手を予想するような頭脳労働をしようとは思わないもの。
よって第二皇子派の胡散臭さを理解できているのは今の所、ヴィクトール皇子殿下、その側近、その近侍、その近衛騎士、現皇王夫妻となっている。
俺達がヴィクトール皇子の控室へ着いた時には入口扉の前に、ヴィクトール皇子の近衛の他、フリートヘルム皇子の近衛まで立っていたので…
俺とカールは
((一足遅かったか…))
と気がついた。
「入室はご遠慮ください」
とフリートヘルム皇子の近衛が立ち塞がり
((ヴィクトール皇子が少人数の時を狙って大人数で押し掛けたんだな))
と分かった。
王族・貴族が取り巻きを引き連れて移動するのは
「我が意見がこの世界の法だ」
というルールの押し付けを心理戦で展開するためだ。
連中は集団で
「御都合主義世界観」
を抱えている確証バイアス集団だ。
連中は
「歪んだ認知を後生大事に抱え続けるため」
に常に同じ穴の狢同士で行動する。
俺は
(また好き放題に言いたい事を言われてるんだろうなぁ…)
とヴィクトール皇子の身を案じながら控え室の前で扉が開くのを待った…。
******************
扉が開いて真っ先に目に入ってきたのは
予想通りにーー
7人もの取り巻きを連れたフリートヘルム皇子のニコニコ顔と、ヴィクトール皇子の仏頂面だった…。
フリートヘルム皇子が通り過ぎてくれて、控え室のヴィクトール皇子の顔色を改めて伺うと
「なんで来るかなぁ〜…。本国で大人しくしてれば良いのにな」
とヴィクトール皇子が愚痴を呟いた。
「結局、あの人、何しに来たんですか?またマウント取りに来たんでしょうか?本国からわざわざ?」
俺が不審を口にすると
「ヤツの本心はともかく、口では、俺と仲良くしたいという事だったな」
との事。
「「へぇ〜…」」
俺とカールは呆れた。
ヴィクトール皇子の側には近侍が2人居ただけだ。
そこに面会の予約もせず取り巻き7人連れて無理矢理押し掛けるというのは喧嘩を売ってるようなものだと思うのだが…
フリートヘルムの方では(敬称は要らんだろ)そうした行為が和解を申し込む態度だと思っているらしい。
勿論、和解を望む意向が本当ならの話だが。
「本気で言ってる感じでしたか?」
カールの質問には
「本気で言ってるように見えたから気持ち悪いんだ。しかし面会予約もなく会いに来られると、こちらは『ナメられてる』と思ってしまうし、非常に仲良くしたくなくなるのだがな」
とヴィクトール皇子が答えてくれた。
「「ですよね〜…」」
「ただ、まぁ、『ランドル王国内で私を慕ってくれる者達がしでかす言動に私は一切関わっておらず、無関係だ。法に背く行為があった場合には裁いてくれて構わない』という言質は取らせてくれた。
証人が近侍の2人しか居ない場での事なのでトボけられる可能性もなくはないが」
「そうなんですね」
「連中が何か仕出かすと知ってるのなら事前にとめれば良いだけの事だという気もするがな」
「敢えてとめずにおいて、こちらの手で罰せられるようにしたがってると?」
「…派閥内で増長した跳ねっ返りをこちらに押し付けて処分させ、尚且つ派閥内の求心力は削がずにおこうと思うと、そうなるんじゃないのか?」
「ウチをゴミ処分場と勘違いしてるんですかね」
「おそらくな」
派閥を維持するには仲間割れは御法度なので、仲間内で増長し過ぎた邪魔者の粗暴さを外部へ向かわせ、外部権力に粛正させるという事はよくある手口だ。
ヴィクトール皇子派も同じ手口を使った事がある。
「第二皇子派の跳ねっ返りというと、グラッツェル侯爵とその取り巻きでしょうか?」
「一体何を仕掛けて来るつもりなのやら」
「…迷惑ですね」
俺達はガックリと肩を落とした。




