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挿絵(By みてみん)


廊下の方がやけに騒がしい…。


何かあったのかも知れないと思うものの、こういう場合には

「武器を持った慮外者が暴れている」

「火災が起きたので避難が必要」

といったパターンが想定される。


前者なら廊下へ出ると怪我をする可能性があるし

後者だと早目に廊下へ出て避難誘導を受けないと逃げ遅れる可能性がある。

判断が難しいところだ。


「何かあったようね」

クラーラも騒ぎに気付いた様子。


廊下に近い場所の人達が

「ランドル人の元婚約者同士が揉めているらしい」

と言いだした。


そう言われてみれば、そうなのだろう。

元婚約者同士というのは揉めやすい。

ランドル王国では婚前交渉が当たり前という風潮があった。

すんなり別れられる者同士の方が少ない筈。


(…それにしても妙ね。学院と同じようにランドル人は貴族家の後継しか招待されてないのかと思ったのだけど…)


疑問に思ってクラーラの方を見ると

「ランドル人の招待客は貴族家の後継だけかと思ったけど、違うのかも知れないわね。思っていたより若いランドル人女性が多いもの」

とクラーラも私と同じ疑問を持ったのが分かった。


騒ぎで衛兵がそこそこの数動員されているだろうに…

何故か騒ぎが起きてる廊下とは真逆の方向の廊下から衛兵が1人ツカツカとこちらに向かって歩いてきた。


(えっ?私、何もしてないよ?イーノックに会ってもいないんだけど…。あの嘘泣き女がまたおかしな事を言った、とか?)

嫌な予感がした。


衛兵は私の顔を見るなり

「ブライトウェル辺境伯夫人ですね。事情聴取が必要ですので任意のご同行をお願いします」

と言ってきた。


この世界ーー

自白剤なる魔法薬も存在するにはするが、材料が入手難易度の高い高価な素材のため、余程の重罪事件でしか使われる事がない。

なので軽犯罪だと嘘吐きが嘘吐きだとバレる可能性自体がない。


「「………」」

私とクラーラは渋い顔になった。


クラーラが

「私も同席するわ」

というと


「同席者が身内ですと被疑者に入れ知恵をすることがあり、結果状況が無駄にややこしくなりますので、同席は縁故関係のない無関係の第三者しか認められません」

との事。


「貴方達が女性に無体を働かないという保証はないわ。入室は許されなくとも、事情聴取する部屋の外で待たせてもらいます」

かなり失礼な発言だが…


衛兵側の入れ知恵云々も実はかなり無礼な発言なのでおあいこではある。


「どうぞ御自由に」

そう言われてクラーラは私が連行される後から尾いて来てくれた。


のだがーー

当然、会場から離れた一室まで来た所でクラーラは閉め出された。


私だけが入室させられて不安はあるものの…

子供時代からの貴族教育は対人スキルも少なくない。

不当な状況に囲い込まれた時に取るべき態度、言うべき言葉、そういったセオリーはあるし、ちゃんと覚えている。


「(ハァァーッ)…それで?誰がどんな言い掛かりで私を告発しているのでしょうか?事情が分からない事にはこちらも何かお話しできることがあるようには思えないのですが」

私が勧められもせずに椅子に座ってそう尋ねると


「誰が座って良いと言った?」

と衛兵が態度を急変させて言った。


(なるほど、そう来たか…)


「バルシュミーデ皇国では衛兵の制服以外に『本物の衛兵か』を確認する術がないのでしょうか?

ランドル王国では身分と階級を示す金属記章バッジを付ける義務があるのですが?

後、公務に就いている者達は身分証の提示を求められたら、その国の君主が定めた身分証を提示するというのも周辺国全域で共通するルールです。

私は貴方に身分証の提示を要求します。

身分証の階級次第では辺境伯夫人に対して不当に威圧的態度を取ったと、不敬罪に問うつもりです。

さあ、どうぞ。貴方は何処のどなたでどんな階級なのか、ご自身の情報を先に開示してください」


私はそう捲し立てながら

(キレられるかも知れない)

と予想していた。

護身術を披露する機会が訪れているのかも知れない。


案の定

「犯罪者が辺境伯夫人だのと自称して、身分をかさに図に乗るなぁ!!!」

と怒声を浴びせられた…。

ついでにドンッとテーブルが叩かれて、古いテーブルがグラグラと左右に揺れた。


被疑者へ対する扱いは容疑が確定していない状況では冤罪である場合も考慮して身分相応のものとなる筈だが…

(こうした人権保障は文明国ではほぼ常識)

この衛兵はその常識をわきまえない人だった様子。


「お前は敗戦国民の分際で我が国の高貴な令嬢を害したのだぞ!お前などに貴族特権の待遇が適用されると思うな!」


(身に覚えがないし、意味不明よね…)

一応尋ねておくべき事は尋ねるしかない。

後で不敬罪に問う為にも

この男の言葉と言い方はしっかり記憶しておくべきだろう。


いちいち大声で怒鳴ってくれた方が部屋の外に居るクラーラとクラーラを見張る別の衛兵の耳にも入るので有り難い。


問題は大声を出すだけで殴らず蹴らずいてくれると有り難いのだが…

思い込みの激しい直情型は女相手でもすぐに手が出る。


「貴方は私がどなたかを害したと思い込んでらっしゃるのですね?参考のために私に害されたと自称しているその御令嬢のお名前を言って頂けますか?」


「貴様…。抜け抜けと無実を主張するつもりか!ランドル人の分際で!よくも真実を知った俺を『思い込んでる』だのと愚弄できたものだな!女だとしても容赦せんぞ!卑しい嘘吐き人種め!」

衛兵が左手でドレスの胸元を鷲掴みにして、右手の拳を振り上げて叫んだ。


(頭がオカシイのかな?コイツ…。このままだと殴られそうだな…)

と思った。


基本的に何処の国でも衛兵や警備兵は騎士のなりそこない。

騎士団に入団して訓練したものの騎士になれなかった者達がなる職業。

なので当然魔力持ち。

騎士団の入団条件は何処の国でも「魔力を持つ国民」なのだから。

身体強化はお手の物。


(こっちも身体強化しとかないと、殴られれば普通に顔の骨がひしゃげそう…)

殴られずに済むのが一番だけど、判断に迷う。

護身術で身を護ると公務執行妨害だだのと言い掛かりを更に深める気がするし、どうしたものか…。


「被害者当人の証言もあるが、牢へぶち込む前に念のため加害者当人からも自白を引き出しておこうと思ったが…想像以上にクズな女で驚いたぞ」


「そういう暴言も私は記憶しておきます。貴方の方でもちゃんと覚えておいてくださいね」

私が念を押すように言うと、衛兵は拳を振り下ろす動きを見せたので


(やっぱり痛い思いはしたくない)

と思って、護身術でスルリとかわした。


拳が空振りした時点で暴力はいけないと社会的事実を思い出してくれれば良いのだが、こういう輩はおそらく余計にムキになる。


「生意気な!避けるな!」

と言われて


(お前に犯罪を犯させないために避けてやってるんだよ!)

と怒鳴りたい衝動が起きたが、こういう輩は見下している相手から事実を指摘されれば余計にキレる。


事実指摘罪、というものが独善的で短気な連中の中には存在するらしいのだ。

次々拳が振るわれては空振りするので衛兵は剣の柄に手を掛けた。


(頃合いだ)

と思ったので

「人殺し〜っ!!!!!」

と大声で叫んでやった。


素早くドアの鍵を解錠して、ドアを開けた。

「キチガイよ!人殺し!こんな男を衛兵にしておくなど犯罪です!責任者を呼んでください!」

と私が捲し立てると同時にクラーラが室内を覗き込んで、抜き身の剣を手に持って斬りかかろうとしてきた衛兵の姿を目にした。


ドアの外にいた衛兵は静止の声も上げずに舌打ちしたので、おそらく仲間だ。

斬りかかろうとしてきた奴には燭台を掴んで、投げつけたが、こちらも武器が要る。


刃物を出せば後で過剰防衛扱いされる可能性もある。

ここは人目のある所へ逃げるに限る。


ーーが、クラーラは腰が抜けたのか、座り込んだまま動けない。

(置き去りにする訳にもいかないだろうな…)

と思い、燭台を投げた事を後悔しつつ、素早くドレスの裾を捲り上げて太腿のガーターリングに取り付けたナイフを抜いた。


護身術はあくまでも「敵の油断をついて逃げる」という想定のものなので、見捨てる訳にもいかない相手を護るような護衛技術までは習わない。


身体強化で魔力の鎧を纏えば、相手が魔力無しなら軽傷で済む。

(人相が悪くなるのは嫌だから絶対に顔は庇おう)

と決意しながらナイフで衛兵の手を狙った。


剣をナイフで受けるのは無理なので避け続けるしかないが、もう1人の衛兵も剣を抜いて襲いかかって来るかも知れないので、もう1人の衛兵が常に視界に入るように避ける必要がある。


(普通の令嬢だったら、最初の攻撃で斬り伏せられてた筈…)


クラーラは青ざめた顔で震えている。

叫び声を上げて人を呼び寄せてくれれば良いものを…

普通の貴族は突然の襲撃の際にどう振る舞うべきか?などといったシミュレーションでの護身術など習わないのだろう。


私自身で

「誰か!衛兵による叛逆です!誰か!この慮外者を捕らえて!」

と叫びながら衛兵からの攻撃を避け続けるしかなく


「誰が叛逆だ!!!!!!」

と激昂した気狂い相手ではどう考えてもジリ貧だ…。


精神的疲労がピークに達して思わず目眩がしそうになった…。



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