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挿絵(By みてみん)


王家主催の終戦記念パーティー。

会場として王城の一角が開放されている。


「王家に仕える」

「王城内の行政機関に出仕する」

「近衛騎士になる」

そういった事でもないと普通の貴族は滅多に王城へは立ち入らない。


ブルクハルトは近衛騎士から騎士爵の称号を得て取り巻きへと昇進した後、辺境伯となったのを機に更に側近へと昇進している。


お陰でほぼ毎日王城へ行き、皇子へ報告事項の報告をしている。

ブライトウェル辺境伯領の運営はブライトウェル城へ残してきた家宰に任せているとの事。


コルネリウス・アーベレ公子が「孤児院で暮らしていたオークウッド公爵家の庶出の公女」(幼女らしい)と結婚してオークウッド公爵位を継承し、宰相職に就いているので、ブルクハルトもその宰相の指示で方々へ視察へ赴く事になっている。


とは言っても、そうした話はブルクハルト本人が私に話したものではなく、全てクラーラからの情報。


クラーラには

「…そんなに自分の夫に関心の無い妻は政略結婚とは言え失格よ」

と、やはりダメ出しされた…。


ダメ出しの連続だったけれど

私には何一つ褒められる点が無いのかというと

案外そうでもなくて

「リリアンはランドル美人の御手本みたいな容姿よね」

と容姿だけは褒められた。


「美しいわ。見た目だけは完璧。自慢の義妹よ。ただバルシュミーデ風のマナーは心許ないわね。私が居る間はみっちり仕込んであげる気ではいるけど」


「お手柔らかにお願いします」


「姉上。そろそろ会場入りして挨拶回りを済ませるとしましょう。リリアンのそばを離れないようにお願いします」


「そうね」


バルシュミーデ皇国の貴族名鑑は王都のブライトウェル辺境伯邸にはない。

もしかしたら学院の図書室にはあったのかも知れないが…

入学以来見かけた事はないので、ずっと貸出中になっている可能性が高い。


なので知らない人だらけ。


(ある意味、グラッツェル侯爵令嬢だけ「第二皇子派の侯爵家の人だ」と身元が分かるのよね…)

近寄らないに限る。


ブルクハルトとクラーラが挨拶回りするのは当然第一皇子派ばかり。


第二皇子派は勿論、ランドル人貴族もチラホラ見かける会場内なので

「第一皇子派の対人関係は良好で派閥の団結力は盤石だ」

と見せつけて、アンチの暗躍を牽制する必要がある。


つけ込む隙はないぞ、と見せつける為の関係性良好パフォーマンス。

此処に居る貴族は皆ちょっとした役者だ。


「やあ、ブルクハルト。そちらは噂の幼妻かい?」

と話しかけてきた人がいた。


ランドル王国の貴族名鑑で「コンクウェスト侯爵令嬢」と出てた女性を連れている。

既にコンクウェスト侯爵家を乗っ取っているか

これから乗っ取るか

といった人物なのだろう。


侯爵家筆頭のコンクウェスト侯爵家を任せられた人となると…

おそらくはヴィクトール皇子の側近の1人。


「カール卿…」

ブルクハルトが少し渋い表情になって


「リリアン。こちらはカール・ヴィルダー侯爵令息。あ、いや、もうコンクウェスト侯爵だからカール・ヴィルダー・グレイ侯爵か」

と紹介してくれた。


「リリアン・ベニントン・クンツです」

バルシュミーデ風のお辞儀をして、コンクウェスト侯爵夫妻を見ると

夫人の方は一瞬顔をしかめた。


新侯爵のカールが妻の方を見て自己紹介を促すが

「わたくし、友人に挨拶して来ますわ」

と言って、夫人はそっぽを向いて行ってしまった。


マナー以前の人間性だ…。


「妻の躾が大変ですね。バルシュミーデ風のマナーを理解できていないのでは?」


「マナー講師を募集中だな。だが、正直、彼女は侯爵令嬢だ。他国のマナーに関しても知識自体はある筈なんだ。実践はした事がなかったとしてもな」


「でしょうね」


「それにしても、お前の妻はやっぱり若いな。それに素晴らしく綺麗だ。多少中身がアレだとしてもお前が惚れ込むのも分かる」


「…カール卿はユルゲン卿の話を鵜呑みにしてたんですね。生憎と、俺は『異世界転生』というものを体現してる人間本人なんでね。

ゲーム通りの世界に転生云々はともかくとして、例の文書に用いられていた言語もちゃんと異世界で実在していた言語だと証言できますよ」


何やらコンクウェスト侯爵は私に対して失礼な偏見を持っているらしい。

話の内容から察するに「乙女ゲームの世界に転生しました」という発想そのものを「アレな人達の集団妄想」だと決めつけているようだ。

(気持ちは分かる)


「…本当に惚れ込んでるんだな。お前、女だからって、家族以外の誰かを庇うキャラじゃないのにな」


「我が家の御心配は間に合ってます。今はそれよりも貴殿の奥方の不品行の方が問題でしょう。

夫が知人と挨拶するのにも付き合わず、名前も名乗らず一方的に場を離れるというのは、明らかに貴殿への不服従の意志表現とも受け取れます」


「だよな…」


「美人だからと絆されて甘やかし過ぎでしょう」


「…ランドル王国に来てからは『こんな美人今まで見たことない』って感じの美人をあちこちで見かけるから、ちょっと調子が狂ってるんだろうな。

別にドローレスにだけ甘いって訳じゃない。

ドローレスの侍女の事も気になってるしな。本当に女は魔物と同じで怖い生き物だよ。ふと気がつくと、こっちが狂わされてる…」


ブルクハルトの傍らではクラーラが表情を険しくしている。

「カール卿。コンクウェスト侯爵位継承おめでとうございます」

と話しかけながら視線がギラギラしている。


侍女に心惹かれる貴族家当主という生き物に対して無条件に嫌悪感を感じてしまっているのかも知れない。


「ああ。ブルクハルトの姉君。夫のクンツ子爵は今日はどちらに?」


「夫は所用があって欠席してます」


「そうですか。クラーラ夫人はいつまでもお若く美しくていらっしゃるので子爵が羨ましいといつも思ってましたよ」


「…ともかく、カール卿。貴殿の夫人に関しては早めに対策を取られる事をお勧めします。

姉上は、あちらのテーブル近くにご友人のアルムスター子爵夫人がいらっしゃるようですよ。

是非お声がけしてリリアンを紹介してあげてくれませんか?」


「…分かったわ。男同士でせいぜい妻以外の女に感じる魅力について語らっていれば良いわ。行きましょう、リリアン」


ブルクハルトはクラーラがコンクウェスト侯爵に腹立ち紛れに失礼な事を言うかも知れないと危惧したのだろう。

ブルクハルトの言葉も充分上の身分の人に言うには失礼なものだったが、皇子の元で共に働いたこれまでの信頼の積み重ねがあるから許容されているのだと思われる。


男同士の会話から追い払われたクラーラが友人のアルムスター子爵夫人の元へ私を連れて向かった。


「親友なのよ。とても良い人だから」

とクラーラが言う。


クラーラに連れられて2人スタスタ歩き

アルムスター子爵夫人へと声が届くくらいの距離まで来た時


私目掛けて不自然に近づいてきた女性の姿が

視界の隅に入って来て

(何かオカシイ…)

と不審に思った。


しかもその女性の手にはワイングラスが握られていたので

(うわぁ〜…「ついうっかり」とか言ってワインをぶっかけて来る気なんだな…)

と悟った。


人のいないスペースが充分にあるのに

わざわざ飲み物の入ったグラスを持って

見ず知らずの相手のすぐ側を通る必要性がない。

なのに、それをする。


そんな不自然な人間がいれば絶対に

何か企んでいて

何か仕掛けてくるに決まっている。


(扇子を持って来てて良かったぁ)

と思いながら扇子を広げると


女が丁度バシャアーッとワインをぶっかけてきたので

扇子がタイミング良くワインからドレスを守ってくれた。


扇子はゴテゴテした飾り付けのない大振りのもの。

ちょっとした傘代わりにもなるのをと見越して選んでいた。


(…しかし、本当に掛けてきたよ、この人。…一体どういうつもり?)

思わず睨みたくなったが


(ここは怒りではなく悲しみを表現するべきだよね)

と打算で悲しげな表情を作った。


「あら、どうしたの?」

クラーラが振り返ってくれたので


今にも泣きそうに目を潤ませて

「…丁度扇子を広げた所へ、そちらの女性がワインを掛けてきたので、私としても戸惑っているところです」

と答えた…。



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