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70:ブルクハルト・クンツ視点22

挿絵(By みてみん)


いよいよ終戦記念パーティーの日取りが近付いてきた事もあり、ヴィクトール皇子の側近らも密に皇子と連絡を取り合うようになったようで、この所王城で顔を合わせる機会が増えた。


側近には

「表部隊」

「裏部隊」

が居て、裏の連中は

「第一皇子派でもない、第二皇子派でもない中立派だ」

というフリをしてるので、それこそ暗部騎士が連絡を取りもっている。


なので当然、王城へ来る側近は皆、表の連中だ。

と同時に、彼らは

「俺がワンダと付き合ってた頃にワンダを寝取っていた間男ども」

でもある。


ヨナタン・クラルヴァイン

ユルゲン・マルトリッツ

ライムント・パラディース

ヨルン・ゼーフェリンク

カール・ヴィルダー

見た目はパッとしないが身分や人脈はそこそこで、頭も悪くない連中だ。


コイツらが男女の機微に疎いとは思えない。

つまりあの当時、ワンダと俺が付き合っていた事実をコイツらもちゃんと知っていて、その上でワンダと寝ていたのだろうと思っている。

(俺に対する気遣いとか仲間意識とか、そういうのが欠けている)


コイツらは皇子のような女嫌いではない。

誠実だから浮名を流さないという訳ではなく

単に俺と同じで理想が高いのだ。


要はゴリラみたいな女ばかりのバルシュミーデ皇国ではなかなか欲情できなかった、というだけ。


それを反映しているかのように、ランドル王国に来た途端、政略結婚相手のランドル美人に鼻の下を伸ばしている…。


(コイツら大丈夫なのか?)

と不安を覚えるが、俺の方でも似たようなものかも知れないので文句は言わない。


この国の宰相職を引き継ぐコルネリウス・アーベレ公子の場合は

側近の中でも容姿に恵まれているというのに

「政略結婚の相手が6歳の幼女」

な為、唯一結婚相手に鼻の下を伸ばせずに真面目君を貫いている…。


魅力的な女性に恵まれない結婚をした方が

男は常時正気でいられるという事なのだろう。

唯一頭がしっかりしている側近なのだと思う。


一方でユルゲン・マルトリッツは真面目君とは正反対で人懐っこく軽薄に見える。

うちの従騎士のギードと似たタイプだ。

軽薄そうに見えて、実は抜け目がない。

物陰に潜んで気配を消したまま色んな場所で他人の話を盗み聞きするのが得意だ。

戦場には出ないが所謂斥候タイプ…。


そのユルゲンが

「正直、ブルクハルトが仕入れた前辺境伯夫人の文書。どこまで信用して良いものかと迷ってたんですよ。

だって信じられますか?魔道具師としての才能を知られていた前辺境伯夫人が『この世界は乙女ゲームの世界だ』なんて妄想に取り憑かれて生きてたなんて。

でも、同じ妄想に取り憑かれてるのが文通相手だけじゃなく、ブルクハルトの幼妻もって言われると、何が本当なのか分からなくてなってしまう。

それで裏を取ろうと思ったんですよ。俺の正気を保つためにも」

と皇子へ調査報告をしている。


文書にもまとめているのだろう。

皇子は書面を見ながら話を聞いている。

ユルゲンが口頭で語ってるのはあくまでも主観の多分に混じった意見。


「先ず、乙女ゲームのヒロインって事になってるクラリッサ・チャニングは実在しました。

ですがレベッカ夫人と文通相手とのやり取り自体が『クラリッサ・チャニングが王立学院高等部に入学して後、一学年終了と同時に中途退学した』後で行われているので、クラリッサ・チャニングの実在が異世界の乙女ゲームの実在を裏付ける証拠にはならないんですよね。


ブルクハルトの幼妻が注釈で書いてくれてたレティシア・バルビエもオレリア・バルビエも実在していた人物ですが…当時侯爵令嬢だったレベッカ夫人なら調べれば直ぐにそれらの人物の事を知る事ができた筈だ。

リリアン嬢の方はレベッカ夫人から妄想の物語を聞かされて育って、記憶に残っていたのかも知れない。


あと、オレリア・バルビエの娘のアルバータ。クレーバーン公爵家の認知されてない方の娘。これも実在していて、彼女の所在は実は案外身近でした。

現クレーバーン公爵にとってはアルバータは異母妹ですが世間的には他人です。そしてアルバータの子供も甥姪ですが世間的には他人です。


だから現クレーバーン公爵アラン・チャニングが夫に戦死されたアルバータをその子供と一緒に引き取った事が事情を知らない者の目には『愛人を屋敷に引き入れた』ように見えていた訳です」


「…へぇ〜。クレーバーン公爵って現女王陛下の元夫だろ?なんで婚姻無効と同時に愛人迎えて堂々としてられるんだろうって思ってたけど、妹だったんだな?」

カール・ヴィルダーが口を挟んだ。


カールが思った事は俺も思ったし、他の連中も思った筈だ。


(父親が異母妹を認知してなかったら、夫を亡くして生活に困った異母妹を援助するのですら「愛人に金を貢いでる」という醜聞に置き換えられるのか…。災難だな…)


ユルゲンも俺と同じ意見らしく

「先代クレーバーン公爵は結構なロクデナシですよね。クラリッサの方は認知してるのにアルバータの方は認知していない。

要は『種蒔きした畑への愛着の有無』で自分の胤でできた子への待遇にも格差を付けている。

アランの方はそんな父親に反発があったようですね。アランはクラリッサに対しては血縁者としての援助を一切せず、アルバータのみに援助してきている」

と述べてくれた。


そんなユルゲンにカールが

「結局、クラリッサ・チャニングは今現在どうなってるんだ?」

と素朴な疑問を呈した。


「クラリス・バルビエと名を変えてアザール王国とランドル王国とを行き来して活動していたようですね。

バルビエという姓からも判るように、血筋的にはアザール系なんですよね。

50年ほど前に改易されたバルビエ子爵家の血縁ではないかと思うのですが、詳細は未だ調査中です」


「それで?」

ヴィクトール皇子が皮肉っぽい笑顔でユルゲンに問う。


「お前は正直、どう思った?レベッカ夫人が妄想に取り憑かれていた。リリアン嬢も妄想を引き継いでいる。『人体複製魔道具』『記憶同期化魔道具』など存在しない。そう思うのか?」


「…いえ。異世界の乙女ゲームのシナリオがこの世界の運命だという考え方は滑稽過ぎて信じられませんが、『人体複製魔道具』『記憶同期化魔道具』の存在に関しては事実だと思います。

寧ろ、それらの魔道具の存在を現実認識の勘定に入れておかないと第二皇子派のこれまでの動向で説明のつかない部分が多く残ります」


「だよな?」


「なので、敢えて異世界の乙女ゲーム云々の荒唐無稽な話を絡めて読み手を混乱させようとしたのではないかと思っています」


「まぁ、そう思うよな」


「荒唐無稽な話を絡めて真実を語るという行為自体が真実の信憑性を薄れさせる暗号化工作である事もあるので、その口でしょうね」


「私も同じ意見だ」


「………」

俺としては意義ありではある。


何せ、皇子とコイツら側近の中での認知によると

リリアン嬢=母親の妄想から刷り込みを受けた残念な少女

という事になってしまう…。


俺が思ったのと同じ事を思ったのかコルネリウス公子も苦虫を噛み潰したような微妙な渋面になっている。


好意を持つ相手が

「皆から頭の弱い残念な少女と思われてしまう」

のは…

「他の男が好意を持つ可能性が減りライバルが減る」

という面で喜ばしい反面、やっぱりムカつく…。


(ムカつく…んだが、コイツら、こうまでリリアン嬢を貶めて認識した以上、彼女と対面しても一目惚れとかせずにいてくれる筈だ。うん。今は堪えよう…)

俺は何も言わずに溜息だけ吐いた…。



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