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挿絵(By みてみん)


授業中もイーノックと口汚なく口論した事の動揺で教師の言葉が頭に入って来なかった。

心から

(予習しといて良かった)

と思った…。


どうやら友達も出来なさそうなので、勉強だけは頑張りたい。


食欲もないままお昼も過ぎて、入部する部活探しに向かう事になったが…

(色々考えるのも面倒だ。弓術部に入部して、さっさと悩みを終わらせよう)

と思った。


私は前世から「対人関係で悩む」のが苦手だ。

何故なら不毛だからだ。


自分が勝手に相手を毛嫌いして突っかかって拗れるのなら自分が相手に絡むのをやめれば良いだけの事だが…

毎度勝手に嫌って絡んでくるのは相手の方だ。


自分から他人を嫌って突っかかっていった事がないのに対人トラブルに見舞われるのだとしたら、それは自分には落ち度のない不可抗力。

考えても無駄だ。

対策として「逃げよう」と思うなら退学するしかなくなる。


或いは親が相手の親に対して社会的攻撃を出来る程に強くて

尚且つ自分を愛してくれているのなら

「対人関係で悩んでます」という所を見せて

「可哀想に」と同情を引く事も自分の出来る事だろうが…


前世では親も社会的弱者で、しかも私を愛してなくて

今世では親は亡くなって、親の仇が保護者代わりの人生…。


(線を引いておくべきなんだろうな…)

と思う。


自分の中の取り決めの線。

それを相手が越えてきたら逃げる。

そう決めておくのが楽だ。


私は魔道具部も彫刻部も諦めて弓術部に入る。

そうやって譲歩して避けようと努力したのに、わざわざ嫌がらせのために同じ部に入って来るような人が湧いたら…

先ずは「イジメられるから行きたくない」と登校拒否。

状況が改善されないなら屋敷からも逃げて平民として暮らす。


そう決めておいて、その時が来れば決めた通りに実行する。

それで良い。

ウダウダ無駄に考える程に人生が嫌になる。

対人関係に関する悩みは思考放棄するに限る…。


****************


弓術部は「実戦を視野に入れた活動をする」のがモットーの部だった。

そんな事情もあり、訓練場の的を射るのは1年生のみ。

上級生は森の簡易砦から野生動物や魔物を射る訓練をしている。


そういった実戦訓練は他の武術系の部にも共通している。

そしてバルシュミーデ皇国の学院でも共通している。


ランドル王国の場合は特に剣術部が毎年学院主催で剣術大会が開催される事もあり気合いが入っている。


剣術大会の参加は剣術部のみの参加ではなく、希望者全員が参加できる大会。

だが、上位入賞者は剣術部員が占める結果が慣例化していたので、生徒が大幅にバルシュミーデ人に入れ替わった現在も部員は皆プライドを持っているのだとか。


弓術大会だと学院主催のものはなくて、騎士団主催のものがある。

「学生も参加可能なんですか?」

「上位入賞とか可能なんですか?」

と期待の目で1年生男子が尋ねたところ

「上位入賞者は今まで一人もいないらしい。一応『参加賞』として粗品がもらえるんで、それ目当てで参加してる感じだそうだ」

と2年生の先輩が答えた。

双方共にバルシュミーデ人なのでこの学院の弓術部の伝統や履歴に関しては聞き齧りでの認識になる。


顧問教師は森へ付き添っているので、1年生の指導は2年生が交代で受けもってくれている。

ランドル人の先輩にバルシュミーデ人の後輩が大人しく従うとは限らないので、指導係の先輩もバルシュミーデ人が割り当てられている。


弓術部には女子の先輩もいるらしいが1年生の間は指導係担当の先輩としか接する機会はないので会える確率は少ない。


男子の先輩の説明では

「バルシュミーデでは女も当たり前のように狩りに参加するから馬術部・弓術部には女生徒もそれなりに入部してるんだ。

だが『せっかくランドル王国に来たのだから』と趣向を変えて体育系じゃなく文化系に入る女子も多い。

ランドル人の女性は華奢で女らしい人が多いから、その点で触発を受けてるんだろうな」

との事。


まぁ、確かにバルシュミーデ人は女子もガタイが良い人が多い。

少し油断しただけで太りそうだ。

料理も油ギトギトのお肉が多い食文化。

ランドル人との体型の違いは食文化にある気がしないでもない。

(身体動かすのやめて食生活はそのままだと太るんじゃないかな?)

と少し心配だが…

所詮は他人事なので気にしても仕方ない。


「的を狙って矢を放つ」という基礎訓練を順番で行うので、自分の番が回ってきた時以外は大人しく待った。


同じクラスの女子はいない。

私が弓術部に入部したとボルネフェルト嬢にすぐさま伝わるという事はないものと思いたい。


だが時間の問題ではあるのだろう。

ボルネフェルト嬢が私と同じ部に入部する気でいるのなら、私がどの部に入部してもいずれ耳に入って同じ部に入部してくる。

彼女の思惑が分からないが、彼女がそういうつもりでいるのなら、こちらは逃げ道がない。


ボルネフェルト嬢のような虚言癖のある人は陥れたい相手との接点を殊更望むのかも知れない。

「同じクラス」

「同じ部」

という接点があれば

「リリアンからこう言われた」

「リリアンにこんな事をされた」

と被害を捏造する虚言を吐いても信憑性が出る。


(ブルクハルト様が学院長を悪く言ってたけど、私もやっぱり学院長が悪いと思う…)

何せ、ランドル人の女生徒は少ない。

そしてランドル人の女生徒には元々ランドル人の婚約者がいた。


数が少ないのだから

「ランドル人女生徒の対人関係に配慮したクラス編成にする」

事など大した手間でもない筈だ。


それが全く為されていないのだから…

「敢えてバルシュミーデ人生徒側の不満や蟠りをランドル人生徒へぶつけさせる」

ような誘導をしているとしか思えないのだ。


大人の側が

「起こり得る問題が表面化しないように対策を取る」

ようなことをしないと

「抑制無しにイジメを行える」

という環境へと反映してしまい、イジメる側は

「学院側がイジメを許容・推奨している」

と潜在的に認識してしまう。


日本の学校であんなにもイジメが溢れていた理由も似たようなものだ。

イジメる側は

「学校側がイジメを容認・推奨している」

と潜在的に認識していただろうし

実際に教員側には

「イジメる側の生徒を気に入って依怙贔屓していた」

ような者もいた。


「子供間のイジメに政治的影響など全く無い」

と言い切る事はできない。


教育分野で力を持つ大人達が表面的には

「イジメはいけない」

と言ってはみても実質

「俺と同じ派閥の若者への攻撃は許さんが、その他の大衆はどうでも良い」

という姿勢の対応を執行。

その繰り返し。


前世の私、霧島葉月が社会的欺瞞に耽る事もできずに自殺衝動を抱えながら切実に現実逃避を必要としたのは家庭の貧困状況が主な原因だが…

そもそも貧困家庭へのサポートの無さ自体はあの社会が元凶だ。


社会的恩恵を享受する条件が

「所属派閥の価値観に沿った欺瞞に耽って忖度する」

ようなものだったのだろう。


社会的恩恵をろくに得られなかったからこそ欺瞞に耽って忖度する必要がないので社会的事実に関しても事実を事実として認識していた。


ふと、ロドニー・デューが書いた手紙の文面を思い出す。

「空間自体から『死ね死ね死ね死ね死ね死ね』と殺意を向けられる」

という言葉…。


まさに前世の人生は終始一貫して

「空間自体から『死ね死ね死ね死ね死ね死ね』と殺意を向けられていた」

環境だったと思う。

ものすごく回りくどく婉曲的に、だが…。


「生きづらさ」というものは、国民に同胞愛があり人間の心があれば、あんなにも煮詰められる筈がないと思う。


あの国の中に満ち溢れていた国民の不幸の元凶には

乗っ取り侵略者達の有害性が有った筈なのだが…


その事実を口にする事さえ

「外国人差別者め!差別者は差別されるべきだ!」

という倒錯理論信者達の標的にされるキッカケになりかねず…


我が身可愛い庶民は

「敵を敵として認識する」

という

「万国に共通する独立国の国民の権利」

さえも認められていない異常な環境に適応していた。


現在のランドル王国場合は侵略が露骨なので

「バルシュミーデ人同士にある対立」

(第一皇子派と第二皇子派との対立)

を緩和させる目的で

「ランドル人貴族を一緒に虐げる共同作業によってバルシュミーデ人の親睦を深める」

方向へ政治的暗躍が進められれば、その看破は容易い。


…同じ弓術部の1年生のうち、2人、私の方をチラチラ見てきて顔を赤らめているバルシュミーデ人男子がいるけど…

(子供だな。無邪気だな…)

と苦々しく感じる。


本当に無邪気で

何の罪悪感もなく

私達の居場所を奪って

私達の富を奪って

私達の未来の活躍の場も奪って


それでいて

「自分達が此処に居る事、居座り続ける事の意味」

を全く理解できない。

そんな子供達…。


(あなた達は自国の勝利に基づいて、自分達に出世の機会が巡ってきたものとしてランドル王国内で権益ポジションを無邪気に得るつもりなんだろうけど。…でもそれらは「相手から奪って」得るものなんだよね…)


何を言っても理解できないだろうし

何か言えばカドが立つのだろうし

面と向かっては言わないのが常識的保身ではある。


(だけど、それでも、内心で苛立ちを感じるのはどうしようもないんだよな…)


無邪気に部活動に勤しむ人達に紛れて

私も無邪気に部活動に勤しむ一人に擬態してみるものの

内心では彼らへの不満がタラタラだった…。



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