63:ブルクハルト・クンツ視点21
王城を出ると、貴族街の南地区で用事を済ませてからブライトウェル邸へ帰った。
南地区は豪商の住まいが多い。
バルシュミーデ皇国でも評判の良かったラティマー商会の服飾部で、終戦記念パーティー用の衣装を夫婦お揃いで仕立ててもらっているのだが…
少し注文を加え、クンツ子爵領で採れる真珠をドレスに散りばめてもらう事にした。
「出来るだけリリアン嬢を豪華に飾り立てたい」
と思ったのだ。
(あんな姉に化け物呼ばわりされて、今までよく耐えてきたな…)
とリリアン嬢が気の毒になったからでもある。
(過去にも苦労があったろうな)
と痛ましく感じられるが…
誰に聞いても彼女達の父親エリアル・ベニントンはリリアン嬢を溺愛していたという話。
エリアナの回りくどい陰湿さは
「露骨に悪意をぶつけると父親に告げ口されるだろうから」
と婉曲的に工夫してきた所にありそうだ。
エリアナはおそらく両親の前でもリリアン嬢の前でも思った事を何も言わずに、リリアン嬢の友人達の間でリリアン嬢が不利になるような噂をばら撒いて溜飲を下げていたのかも知れない。
俺の所へ押しかけて来てリリアン嬢を陥れようとした態度も随分堂々としていて慣れていた。
息をするようにごく自然に誣告・讒言を為す輩は、狙い通りに周りを踊らせて標的を不当な目に遭わせる事に慣れている。
まさか
「よくも讒言を聞かせたな!俺を謀ろうとしたな!」
と目論見を看破されて断罪されるなど、思ってもみなかったのだろう。
(考えてみたら「リリアン・ベニントンの評判」は当人の無邪気さとは裏腹に「とんでもなく我儘だ」という事になっていた…)
父親に溺愛されて甘やかされて育てばそこそこ我儘になりそうだが、リリアン嬢は陰湿ではないし、正直心理戦の面で頭が回るようには見えない。
一方的に心理戦を仕掛ける卑怯者に目を付けられると
大して酷い事もしてないのに
「なんて酷いヤツだ!」
と責め立てられる状況が意図的に作られる事がある。
リリアン嬢は気付いていなかったのだろうが…
姉や祖母が社交に出た際には
リリアン嬢の小さな欠点が致命的欠点のように吹聴されたり
やってもいない悪事をやった事にされたりしていたのかも知れない。
そういった諸々を考慮すると余計に
「周りの目に俺がリリアン嬢を大事に思っている事がよく分かるように」
という基準で衣装を選びたいと思った。
あと、終戦記念パーティーには姉夫婦も来る事になっているので、紹介も兼ねている。
25歳まで独身だった俺の将来を案じていた長姉なので、ちゃんと結婚できた所を見せて安心させてやりたい。
男が女を「護る」という行為は
「物理的に」だけでなく
「社会的にも精神的にも」護る事が含まれていると思うのだ。
物理的に殴られなければ良いというものではない。
社会は粘着なのだ。
悪口を言いふらされても何の対処もせず泣き寝入りする人間は
延々とナメられ続けるし、周りの者達からも
「アレはそういう位置付けで良いのか」
と思われて蔑ろにされるようになる。
特に今のランドル王国内ではそういった
「位置付け」
を利用した蹴落としや成り上がりが仕掛けられやすい。
ランドル王国はヴィクトール皇子とその支持者である第一皇子派が仕切る事になっている筈なのに、第二皇子派の貴族達も入り込んできているのだ。
第二皇子派は本国バルシュミーデだけでなく属国化したランドル王国にまで進出の手を伸ばしているのだから…
余程強欲なのだろうと思う。
(第二皇子派は俺達を一体なんだと思ってるんだろうな…)
第二皇子派の御代のために見返り無しで尽くすべき使い捨て踏み台とでも思って、利用しているつもりなのだろうか?
アイツらは
「何故、ランドル王国の前身である魔道王国が革命によって滅んだのか…。世界史の意味を理解できていないヤツらなのか?」
と疑問に思う。
魔道王国が滅んだ理由は明らかに
「同じ人間達が長々と権力を貪り過ぎた」
事が原因だ。
貪欲に利権を貪ろうとするとろくな事にならない。
何処かで「選手交代」が必要だ。
おそらく魂レベルで。
バルシュミーデで覇権を握って尚且つランドル王国にまで影響力を及ぼそうとする第二皇子派は明らかにやり過ぎている。
「同じ人間達が長々と権力を貪り過ぎる」
治世が正当化されるには
「ソイツらが本当に他の者達より抜きん出て優秀である必要がある」
のだ。
インチキ抜きで。
革命の火種というものは
「本当に優秀だとは言えない者達が、本当に優秀な者達の取り分を掠め取る」
所ではどうしても燻る。
どんなに
「出来レースを自由競争に見せかける虚構を徹底した」
欺瞞社会でも
「正気の人の心は出来レースを出来レースだと見抜いてしまう」
ものだ。
実力のない者達が実力者の座にあり続ける限り
本物の実力者はそれを納得しない。
正々堂々と挑んで敗れるまで納得しない。
第二皇子派は本国のコネも通用しない他国において
本国にいる時のような感覚で
「自分達の横暴が通用する」
と考えるのかも知れないが…
俺は連中が遠くない未来に
「切り捨てられる蜥蜴の尻尾」
のような運命に墜ちるように思える。
そして俺達はそれを残念がりも同情もせずに
「バカは振るい落とされるのが必然だ」
と捉える事だろう…。
俺は
「集合意識」
というものを
「農地」
のように見立てている。
既得権益層の集合意識は
「連作障害を起こす痩せた農地」
になりやすい。
「養分を蓄えた豊穣な農地」
に該当する集合意識があれば
とって代わられる事もある。
賢い既得権益層はそれこそ
「養分」に該当する人材を仲間に引き込む事が
自分達の安泰に繋がると理解できるが
愚かな既得権益層はそれを理解できない。
ランドル王国にまで進出してきて調子に乗っている第二皇子派の馬鹿貴族は本当に愚かだと思う。
ランドル王国に一歩足を踏み入れた時点で第一皇子に忠誠を誓い恭順の意を示すならまだしも、そういった謙虚さを持ち合わせてもいない。
(まぁ、数年のうちに第二皇子派には本国へ逃げ帰ってもらうなり、粛正理由ができれば粛正していって「圧倒的少数派」として肩身の狭い思いをしてもらうつもりではある…)
結局
「徹底して組織活動を阻害して、組織性を解体し、弱らせて生き残りを籠絡する」
というやり方でしか仲間に加えられない連中もいるという事だ…。




