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「う〜ん。泣きボクロか…。なるほど、なるほど」
とブルクハルトが私の手元を覗き込んで妙に納得した様子を見せた。
(知ってる人なのかな?)
と少し違和感を感じたけど、今はまだ余所見せずに大量にある手紙と手記を時系列に従って翻訳していくに限る。
裏ルートも攻略済みの私は多分、母レベッカよりも文通相手よりも詳しくゲーム内の情報を知っている。
なのでゲーム内の情報に関しての追加が得られるとは期待していない。
ただ
「他の転生者達が何を考えていたのか」
が今は気になっている…。
(シナリオと大きく異なる現実は、もしかしたらシナリオ破綻させようと努力した人達が頑張って作った現実だったのかも知れない…)
と感じたのだ。
ゲームでの裏ルートを攻略済みなので、私はバルシュミーデ皇国が侵略を仕掛けてきた理由を知っている。
国民の側からすれば
「国土に対して人口が増え過ぎた」
がゆえの侵略。
手狭になったので、他に住む場所を求めるといった理由。
だが権力者の側は違う。
ランドル王国とバルシュミーデ皇国との間には樹海が横たわっていて危険な魔物が跳梁跋扈している。
それよりは樹海もなく、川を隔てて隣接しているアザール王国の方がバルシュミーデ皇国にとって侵略しやすい。
ランドル王国への進軍は樹海を横断するかアザール王国内を通過するかしなければならなくなる。
本来ならランドル王国への侵略よりアザール王国への侵略の方が面倒は少ない。
なのに当時の皇王ジギスヴァルトはアザール王国にではなくランドル王国への侵略を進めた。
裏ルートを攻略すると
「皇王ジギスヴァルトは旧魔道王国時代の禁忌魔道具を欲してランドル王国へと侵略した」
という事情が判明する。
侵略を進める前の皇王ジギスヴァルトは体調の陰りを感じて
「人間はいつか死ぬ」
という当たり前の事を痛感していた。
そこでランドル王国の前身である魔道王国に関する
「とある言い伝え」
を思い出したのだった…。
魔道王国が破綻した真の理由として
それは国王も宰相も各省庁の長官も大臣も
「異様に長生きだった」
という話が知られている。
不老長寿なのかと言えば、そうではない。
若かった状態からちゃんと年老いていく。
それでいて、ある程度老いると若返る。
そういった事情から
「魔道王国の首脳陣は不死鳥のように蘇り続けているのか?」
という噂が近隣各国で囁かれていたらしい。
だが一流の魔道具師達は異なる見解を示していた。
「あの国には生き物の複製を作る魔道具がある。そして記憶を引き継ぐ魔道具もある。それらを使ってあの国では同じ人間が延々と生き続けているように見えるだけだ」
と。
そこには神秘はなく
技術があり
延々と支配者たらんと欲する強欲があった。
クローンに記憶を移し替えて延々と記憶と意思を持続させても、決して不老不死ではない。殺されれば普通に死ぬ。
勿論、王国を長年仕切ってきた首脳陣の魔力は高く身体強化率も高い。
彼らを殺すにはそれを上回る魔力と身体強化率が必要だった。
長年にわたって誰も彼らを殺せず返り討ちに遭った。
誰にも革命は起こせないものと思われた。
だが、それを為したのがーー
ランドル王国の初代国王バーナード・レヴァイン。
魔力の質も量も旧権力を上回る逸材だった。
そうした能力の高さがあって革命を成し遂げランドル王国を建国できたのだ。
ランドル王国建国以来、魔道王国時代の禁忌魔道具は王城の地下迷宮に封印されている。
ランドル王家の血を引く者しかその封印は解けない。
逆に言うなら
「ランドル王家の血を引く者は封印を解いて禁忌魔道具が納められた宝物庫へと立ち入る事ができるし、禁忌魔道具を使用する事もできる」。
皇王ジギスヴァルトは
「庶民に知られる事なく禁忌魔道具を得て、自分の肉体情報を引き継ぐ人間を作り、自分の記憶を引き継がせたい」
と思った。
自分の記憶を引き継がせた所で、それが自分自身になるのかどうかは分からない。
記憶そのものに自我が付随するとは限らないからだ。
それでも若い頃の自分の容姿には自信があった。
「私の肉体は永遠に生き続ける価値がある」
と自分自身で信じる事ができた。
それに
「ランドル王家は既に禁忌魔道具を使って人間を複製している」
という確信もあった。
初代ランドル国王バーナード一世の娘ララ・ローラ王女を当時のバルシュミーデ皇王が妃に迎えているのだが…
そのララ・ローラの肖像画の姿が、弟ローデリヒの妃であるリリー・リサと瓜二つなのだ。
バルシュミーデ皇国の宮廷画家は代々実力主義の成り上がりだ。
コネが通用しない。
だからこそ皇族の肖像画は精巧で実物の姿そのままを再現している。
ランドル国王バーナード四世の「バーナード」は、ランドル王国初代国王の名前でもある。
バーナード四世の父であるオーガスタス国王は長らく子ができず
「胤無し」との噂があった筈だが…
晩年になって急に子が二人できた。
それがバーナード四世とリリー・リサだ。
バルシュミーデ皇国にはランドル王国初代国王の肖像画はない。
そしてランドル王国の歴代王家の肖像画は、時代時代に応じて画家の技量が一定しておらず、建国直後の絵に至っては子供の落書きかと思うレベルのもの。
なので
「ランドル王国初代国王バーナード一世がどんな姿だったのか」
本当の所は分からない。
だがジギスヴァルトは確信していた。
「ランドル王国では国王が胤無しだった場合に禁忌魔道具を使い、偉大なる先祖の複製を生み出して王家の血を繋いできたのだろう」
と。
つまり
「バーナード四世は四人目のバーナード、という意味なのだろう」
と。
そうした確信に基づいてジギスヴァルトは
「ランドル王国への侵略」
を決定していたのだ。
自分も複製を生み出して、自分の記憶を複製に引き継がせるためにーー。
というのは、ゲーム内での事情。
ジギスヴァルトが禁忌魔道具を手に入れるに際して
「300年前の過去の記憶」
をリリー・リサが夢に見る。
リリー・リサはララ・ローラの肉体の遺伝子を受け継いだものの
記憶までは受け継いでいないのに、だ。
「禁忌魔道具を使い、延々と同じ者が国を支配し続ける」
という行為が繰り返された先にある国の荒廃…。
バーナード・レヴァインは革命前は辺境伯であり
幼いララ・ローラは辺境伯令嬢だった。
その幼いララ・ローラが目にしていた
「革命が起こる直前の国の状態」。
それを何故かリリー・リサは夢に見た。
そして目が覚めてから疑問系で呟いた。
「ーー国を病ませるモノに、この国の誰かが手を出したという事?」
と。
(乙女ゲームのタイトルに登場する「革命前夜」は禁忌魔道具によってもたらされた魔道王国の荒廃をリリー・リサが夢に見た事に由来する)
しかし実際のこの世界ではーー
ジギスヴァルトはゲームとは違う選択をしたようだ。
ゲームと違い、ジギスヴァルトは現役時代にランドル王国へ派兵していない。
バルシュミーデ皇国のランドル王国への侵略はジギスヴァルトが死んで3年経った今頃となっている。
ゲームと現実は違う、という事なのか
誰かがゲーム内のフラグを折った、という事なのか
真実は分からない。
ただ、その手掛かりではあるのだろう。
転生者達が
「シナリオを変えよう」
と足掻いて情報交換していた痕跡は…。




