表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/100

54:ブルクハルト・クンツ視点18

挿絵(By みてみん)


結果的にリリアン嬢を待ち構えた形になってしまった。

(…まるで家庭内ストーカーだな)

と自分でも少し自嘲した。


「無事だったか?!水をかけられた以外では何をされた?!」

と尋ねる態度は余裕が無かったと思う。


俺は恋愛には疎いほうだが…

流石に自分がこの少女に惹かれている事に気付かない訳にもいかない。


「大丈夫です。ただコップの水をかけられただけです。3年前にもやられた事なので、そこまで気にしてません」

リリアン嬢が宥めるように言うと


「全く、学院長の阿呆め!素行の悪い餓鬼などさっさと退学にすれば良いものを!」

と学院長を罵る言葉が口を突いて出た。


学院長に新しく就任したベルリヒンゲンは皇子の元家庭教師で恩師に当たる。

悪く言う筋合いは無い筈なのだが…

リリアン嬢が危害を加えられるのを見過ごす時点で許しがたく感じる。


「熱いスープをかけられてたら流石に傷害事件なので加害者を退学にしてもらわなければならないでしょうが…あくまでも水ですから」


「傷害事件が成立しないように『手が滑った』と水をかけて嫌がらせする手口はバルシュミーデでも頻繁に悪用されている。

ランドル人の女は美人が多いが、性根の汚さは見た目にそぐわず、他の国と変わらないものだな」


「どんな人種にも枠内での多様性はありますから、バルシュミーデ人にもランドル人にも良い人も居れば悪い人も居るという事でしょうね」


「アラーナ王女。見た目だけは美人なんだがな。性根は性悪猿だったな」

(性格までフローレンスに似たのだろう)


「あら。それだとお猿さんが可哀想です」


「おっ、リリアン嬢も言うな」


「私は、私に対して悪意をぶつけてくる相手に対して執念深いのかも知れません…」


そう言われると俺自身にも当てはまる気がしてくる。

彼女の中で親を殺される事は悪意をぶつけられた、という受け止め方になるのかも知れず…


俺は咄嗟に

「そうか…。俺はくれぐれもリリアン嬢に対して悪意を向けないよう気をつけるとしよう」

と言った。

自分は悪意を向けていないと弁明するために。


なのでリリアン嬢が

「ええ、そう願います」

と返事をしてくれてホッとする…。


「それはそうと、元婚約者の今の婚約者がクラスメイトにいるのだろう?ソイツはどんな様子だ?退学に追い込めてやらなければならないような嫌がらせをしてきそうなやつか?」


「…今のところ睨んでくるだけで、罵倒されたり荷物が荒らされたり、直接暴力を振るわれたりの被害はありません」


「…校内で危害を加えられる可能性のある者には護衛の随伴を許可するって風に校則を変えてくれれば良いのにな」


「学院長や教頭は既にバルシュミーデ人に変わってるんですよね?式で見た感じではランドル人っぽくなかったし…」


「そうだ。あと、幾人か教職員の入れ替えもあった。アザール系を残しておくとどんな工作が仕掛けられるか分からないからな」


「そうなんですね…」


「いっその事俺が剣術担当の臨時職員にでもなって潜り込んでやりたいところだ。そうすればお前に危害を加えるヤツをその場で返り討ちにできる」

本心だ。


書類上の夫婦関係とは言え、この少女は俺の妻だ。

つまり俺のものだ。


学院の職員にせよ学生達にせよ

俺のものを傷つければただでは済まないのだと思い知らせてやりたい。


「…いえ、そこまでしてくださらなくても大丈夫ですよ」


「俺は、不自由なく暮らさせてやりたいんだ、お前に…」


「………」


「父親が生きてたら娘に対してこうしてやっただろうって事はちゃんと配慮したい。それが厚かましくもお前の夫の座に収まった俺ができる唯一の罪滅ぼしだと思うんだ」


「………」


「…迷惑なのか?」

恐る恐る意思確認せずにはいられなかった。


するとリリアン嬢が

「…いえ、迷惑じゃないです。ただ、戸惑ってます。…普通は親の仇とかは『憎みたければ憎め!』って感じで悪者キャラに徹すると思うんですよ。

『謝っても許してもらえないんだから謝らないし、悪かったとも思わないようにする』って心理で。

なのにブルクハルト様はそういう『許されざる者の自暴自棄』みたいな悪びれた所が無いな、と思って、不思議なんです」

と、本当に不思議なものを見るような目で俺を見た…。


「…『許されざる者の自暴自棄』か…。確かにそんな心理が世の中にはあるな。俺もそんな心理で生きてた頃がある。

だけど、その手の心理は味わい過ぎるとお腹いっぱいになるんだよ。俺はもう、そんな欺瞞に耽りたくはないんだ。もう二度と…」

前世での自分の後悔を思い出しながら今の自分の覚悟を述べると


「そうなんですね…」

とリリアン嬢が俯いた。


俯いた彼女が不憫で、俺は思わず顔を覗き込んだ。


不意に透明な澄んだ視線が返ってきて目があったので

(…嫌われてるわけではないんだよな?)

と虚しい期待に縋りたくなった…。


******************


リリアン嬢が自室へ引っ込むとーー


俺の方も自室へと戻り、皇子からの注文に従ってランドル語の古語を学ぶべく机の上のテキストを開いた。


皇子からは

「レベッカ夫人の残した〈日本語〉の文書の翻訳が終わり次第、お前にはランドル語の古語を習得してもらう」

と言われている。


どうやら皇子は

「レヴァイン城の地下にはランドル王国がまだ魔道王国だった頃の遺産が眠っている」

という伝説を信じているらしいのだ。


というか…

(正確には)

「信じなきゃやってられない」

のが本音だろう。


バルシュミーデ皇国の皇位を第二皇子に(血縁的には叔父に)盗られたようなもの。


代わりにランドル王国の支配を任されたは良いが、婚約者の王女は母親似の性悪でアバズレ…。

ランドル王国の実質的君主として君臨するにしても、何か旨みがなければヤル気が起きない感じか…。


それで伝説を信じる事にして地下遺産に希望を持つ事にしたのだと思う。

(気の毒と言えば気の毒なので逆らう気にもなれないが…)

振り回されるこちらとしては面倒ではある。


勿論、俺もリリアン嬢との結婚生活が破綻したらやっぱり

「地下遺産に賭ける!」

と一転して、古代遺物に興味が向くのかも知れない。


人間関係は本当に分からないものだ。

何せ自分1人で構築できるものじゃない。


こちらが仲良くしたくても

相手にその気がなければコミュニケーションは成立しない。


王族・貴族は特に

「欺瞞に耽る」

者が多い。


利害関係が対立していると

一方的に相手を陥れ

一方的に相手から全てを奪う事もある。


それでいて自分の行った誣告加害を悟られぬように

「利害関係など存在していないし、自分には相手を陥れる理由がない」

というフリをする。


そんな悪の泥沼の中で生きてる連中と関わるなら

「より悪質な悪となって、悪党どもを破滅させるなり傘下に組み込む」

のでない限り、やはり一方的に罠を仕掛けられ続ける。


ヴィクトール皇子がああいう性格なのは

「ああならなければ生き延びて来られなかった」

という事情があるのが判る。


俺は溜息を漏らしながら

(地下遺産とやらが皇子の無聊を慰める役に立ってくれれば良いが…)

と心から願うのだった…。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ