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53:ブルクハルト・クンツ視点:17

挿絵(By みてみん)


ギルド会館を出た後は、そのまま王城へ向かう事にした。


ランドル王国の王城なのでランドル城と呼ぶべきなのだろうが…

この城は王族の姓をとって「レヴァイン城」と呼ばれていた。


その昔ーー

魔道王国時代にはちゃんと「ランドル城」だったらしく、地下迷宮の所々にある標識には古語で「ランドル城地下通路地図」と書かれているのだとか。

(俺はランドル語の古語は読めない)


この城の呼び名を「レヴァイン城」から「ランドル城」へ戻すべきだとの意見が出ている。


(呼び名を気にする必要性が俺にはよく分からないがな)

と思いながら俺は衛兵達を素通りして通路を通り抜けた。


そうしてヴィクトール皇子の元へ直行したところーー


既に俺の動向が報告されていたらしく

「どうだった?王都冒険者ギルドマスターと、そのお仲間達は。話の通じそうな相手だったか?」

と開口一番皇子が尋ねてきた。


「…全く。殿下は極度の人間不信なんでしょうね。未だに俺にさえ監視を付けてるし」

俺が呆れて言うと


「すまない。別に信用してない訳じゃないが、それでも自分で全て把握しておかないと落ち着かないんだ。そういう性質なんで、それが周りから見て人間不信が過ぎるように見えても改善は難しいな」

と皇子が苦笑した。


「了解してます。ちょっと愚痴っただけです。殿下はそのままで良い。信用してるフリして監視を付けずにおいて、敵と連絡を取ったというだけで裏切り者認定して処刑する、などといった疑心暗鬼の権力者よりは千倍くらい良いと思います」

本音だ。


「それで?どうだったんだ?連中の様子は」


「あ〜…。多分、殿下が思うより彼らはマトモですよ。基本的に『悪は許さない』というスタイルの思想を体現できるだけの物理戦闘力を持っていて、それを実行しているタイプです。

力無き夢想家という訳でもない。アザール系闇ギルドを駆逐した後にバルシュミーデ系闇ギルドを作って裏社会を仕切らせるにあたっては、味方にはなってくれないでしょうね。

今の現状として、彼らはアザール系闇ギルドへの憎しみが勝ってるので我々に対しても友好的ですが、共通の敵が居なくなった後は…本来あるべき姿通り敵に戻ると思います」


「期間限定の共闘のみ可能だと?」


「そうです」


「…なら問題ない。どの道、アザール系闇ギルドの情報は慎重に隠蔽されてきていて、こっちの情報収集網で判る事は頭打ちになっていた。

偽情報を掴まされて罠に嵌められる可能性にだけ注意して、彼らから情報を頂くしか進展は期待出来ない。

毒杯だろうとも、呑むしかないだろう?共闘のお誘いは」


「そう仰るとおり思ってましたが、返事はまだしてません。次に連絡があった時に了承の旨を伝えるようにします」


「それはそうと。さっき丁度、お前の幼妻の事で報せが入った。聞きたいか?」


「聞きたいです!」


「…本当に、お前、どうしたんだ?随分と幼妻に対して献身的過ぎるぞ?」


「夫が妻に献身しなくてどうしますか?」


「あ、うん…。お前の『理想の夫婦像に基づくこだわり』的な何か、が不随意発動してると割り切るしか無さそうだな…」


「それでリリアン嬢に何かあったんですか?」


「大した事じゃないんだが、我が婚約者のアラーナ王女が食堂でリリアン夫人の背後に立ち、コップの水をかけたという話だ」


「………?…はぁ?」


「不思議だろ?『女の敵は女』とはよく言ったもんだよ。別にこれまでに2人の間に何かあった訳でもない。

アラーナの母のフローレンス女王も、挨拶ぐらいでしか口をきいた事もないレベッカ夫人を嫌って暗殺者を差し向けていたのだし…

『ランドル王家の血を引く女は自分より美しい女を排除しなければ気が済まない』という性格なのかも知れないなぁ…」


「…先代皇弟妃殿下はランドル王家の血を引く女性ですよ」


「リサお祖母様の場合は『同世代で自分より美しい女がいない』という人生だったから、ランドル王家のドロドロした本性が表面化する暇もなく心穏やかでいられただけという可能性が高い」


「本性って…。言い方…」


「それに引き換え、お母様は側妃達に対して相当に苛烈だ。お母様の容貌は母親似ではなく父親似だ…」


「それなら気性もランドル王家ではなくバルシュミーデ皇家のものを引き継いでいらっしゃるのでは?」


「バルシュミーデ皇家の女性は代々皆穏やかというか…。少し生気に欠けていて体質的に虚弱で、更にはオツムも少し足りないという性質の女性が多いんだ…」


「それはそれでなんか大変そうですね」


「…高貴な血筋には色々厄介な気質も付随している事が多いって事さ…」


「そうだったんですね…」

俺は皇子を慰める言葉が見つからず、何となく皇子の肩を軽く叩いた…。


「…ともかく、アラーナ王女はお前の幼妻に因縁を付け出した訳だが。アレでも一応王女で私の婚約者だ。お前はアレの処遇をどうしたいと思っている?」


「『アレ』って…。一応、あの方、高貴なるランドル王家の王女様ですよね?」


「母親は間違いなくフローレンスだな。顔も雰囲気も共通点が多い。だがアレの父親の血が高貴かどうかまでは分からない」


「?…クレーバーン公爵って、これまでもランドル王家の王女は勿論、近隣国の王女や公爵令嬢やらを迎えた事もある高貴な家柄の直系ですよね?」


「そうだな。アラン・チャニングは文句の付けようがない高貴な血筋だな」


「それなら『父親の血が高貴かどうかは分からない』は当てはまらないのでは?」


「鈍いな。俺はアラーナの父親はアラン・チャニングじゃないと見ている」


「…それじゃ、誰が父親だと?」


「フローレンスは王女時代はとんでもないブラコンだったらしいんだ。つまりはドミニク王子が大大大好きだったって話だ。

『お兄様と結婚する!』が口癖の元王女様、ソイツが政略結婚で公爵夫人になったは良いが夫に愛情は持てず、夫の側も妻を愛する気は一切無かった。

そしてクレーバーン公爵アラン・チャニングと、ハルフォード子爵ドミニク・ケンジットに関連する共通の噂というのが『学生時代、同じ相手に懸想していた』というもの。

その懸想相手が辺境伯家に嫁いだレベッカ夫人だというのは言わずもがなだな。

…愛されない女が愛される女を逆恨みして殺そうとしたり、相手にしてくれない夫に縋るのをやめて美男の使用人を寝台へ引き込むのは、別にそう変わった行動という訳でもないだろう?」


「…この国では異性の使用人は基本的に側に寄らないものでは?」


「慣習的にそうなってるからこそ、慣習が破られれば『人の口に戸は立てられぬ』とばかりに噂が漏れる」


「…それじゃ、アラーナ王女は公爵の胤じゃないという噂があるんですね?」


「随分昔から知られていたらしいぞ?男の方もバカじゃない。懐妊した女が孕った時期を逆算して身に覚えがなければ自分の胤じゃないと直ぐに気付くさ。

クレーバーン公爵はアラーナが生まれた当初から無関心で、夫婦仲の冷え込みは言うに及ばずって状態だったらしいな」


「うわぁ〜…」


「それらの事実を踏まえるに、アラーナは自分が公爵の胤じゃない事実さえ『父が母を愛さなかったせいだ』と思っている節がある。

『父を誑かしていた女』としてレベッカ夫人を憎んでいて、リリアン嬢へはその娘として八つ当たりしているのかも知れない」


「いい迷惑ですね…」


「全くだ。王族・高位貴族は『愛し愛される幸せな結婚なんて出来なくて当たり前』なんだ。

それを納得できていれば、夫に相手にされない妻も不貞に走らずに済んだ筈。

ひたすら家政に精を出し、婚家を盛り立てる労働に楽しみを見いだせたかも知れない」


「あ〜…。愛してもくれない夫の家を盛り立てる労働に楽しみを見いだすのは難しいかも知れませんが。

愛のない夫婦関係でも妻には品位保持費というそれなりの額の小遣いが出る訳ですから、男遊び以外の娯楽を趣味に持って気楽な人生を歩んでも良かったんじゃないかという気はしますね」


「フローレンスはその点、色々ダメ過ぎるだろ?」


「未来の姑さんを呼び捨てですか…」


「書類上の妻となる女が、その母親同様によその男の胤で孕んだ子供をこちらに押し付けてくる可能性があるんだ。姑も本来の意味での姑にはならんよ」


「殿下はアラーナ王女には想い人がいると、そうお思いですか?」


「…高貴ならぬ使用人の胤で生まれた王女だぞ。ランドル王国の慣習を破って、これまたアラーナは侍女ではなく侍従を連れている。

護衛騎士に監視させて報告させているし、アラーナが侍従と閨を共にする頻度が週に二回ほどだという事も明らかになっている。

お前はアラーナが『想い人』でもない侍従に自ら股を開いている色気狂いに見えるのか?」


「…それはもう『想い人』で間違いないでしょうね。ええ。多分」


「いい加減、私は自分で『女運が悪い』と自覚できてるよ」


「………」

(気の毒過ぎて励ます言葉がやっぱり浮かばないなぁ…)


「私としては今はまだアラーナにはこのままで居てもらっても構わないと思っている。

そのうち侍従との間に子ができて、それを私との間の子として周知するように要求してくるだろうから、それ以降は容赦しない。

アラーナには『未熟児を産み落として産褥死した』というシナリオに従って退場してもらう事になるだろう。

『病弱な王子もしくは王女が産まれて王城の片隅で大事に育てられてる』と国民には思わせておいて、こっちはこっちで丈夫な子を産んでくれる女に我が子を孕んでもらう事にすれば良い。

アラーナの懐妊と共に私も他所で複数胤まきすれば流石に誰か孕んでくれるだろう。

それによってランドル王家の血を引かない私の子が婿養子みたいな瑕疵のある王権ではなく、本物の瑕疵のない未来のランドル国王になるのだから、そうした心労も報われる時が来れば安いものだ」


「俺は、殿下は良い男だと思うんですけどね。殿下の良さが分からないという女性も多いようですね」


「…人間不信が極まっていると、異性を惹きつける性的な魅力が欠如するのかも知れないな…」


「………」

(そう言われればそうかも知れないな…。前世の俺は全然モテなかった。顔は悪くなかった。貧乏でもなかった。なのに付き合った女はすぐに離れて行った…)


今の人生である程度女にモテるのは、今世の家族が良い人達だったお陰で前世のような重度の人間不信にならずに済んだからなのだと分かる。


「そういう訳なので、お前も幼妻が大事なら貞操を守らせるように気を使おうな?」


「肝に銘じておきます…」


色々な意味で不安になった俺は、屋敷に戻ると、執事に

「リリアン嬢が帰って来たら直ぐに知らせろ」

と命じ、リリアン嬢の帰宅を待ち構えたのであった…。



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