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挿絵(By みてみん)


王立魔法学院の学院内まで護衛は付いて来れない。

普通の貴族の場合は。


王族と一部の公爵家のみが護衛を引き連れての就学が許されている。

アラーナ王女には護衛騎士が付いていたが、見るからにバルシュミーデ人の騎士。

しかも男性。

アラーナ王女を護っているというより監視しているように見えた。


そして、その感想はどうやら間違っていなかった。

「アラーナ王女が食堂でリリアンに水をかけた」

という話はすぐさま皇子側に伝わったらしく

屋敷に帰るとブルクハルトが血相を変えて飛んできた。


「無事だったか?!水をかけられた以外では何をされた?!」

と心配してみせる姿は本当に心配してくれたように見える…。


(親の仇なのに…良い人ではあるんだよね…)

と複雑な心境になった。


「大丈夫です。ただコップの水をかけられただけです。3年前にもやられた事なので、そこまで気にしてません」

私が宥めるように言うと


「全く、学院長の阿呆め!素行の悪い餓鬼などさっさと退学にすれば良いものを!」

と学院長を罵るだけで済ませてくれた。


「熱いスープをかけられてたら流石に傷害事件なので加害者を退学にしてもらわなければならないでしょうが…あくまでも水ですから」


「傷害事件が成立しないように『手が滑った』と水をかけて嫌がらせする手口はバルシュミーデでも頻繁に悪用されている。

ランドル人の女は美人が多いが、性根の汚さは見た目にそぐわず、他の国と変わらないものだな」


「どんな人種にも枠内での多様性はありますから、バルシュミーデ人にもランドル人にも良い人も居れば悪い人も居るという事でしょうね」


「アラーナ王女。見た目だけは美人なんだがな。性根は性悪猿だったな」


「あら。それだとお猿さんが可哀想です」


「おっ、リリアン嬢も言うな」


「私は、私に対して悪意をぶつけてくる相手に対して執念深いのかも知れません…」


「そうか…。俺はくれぐれもリリアン嬢に対して悪意を向けないよう気をつけるとしよう」


「ええ、そう願います」


「それはそうと、元婚約者の今の婚約者がクラスメイトにいるのだろう?ソイツはどんな様子だ?退学に追い込めてやらなければならないような嫌がらせをしてきそうなやつか?」


「…今のところ睨んでくるだけで、罵倒されたり荷物が荒らされたり、直接暴力を振るわれたりの被害はありません」


「…校内で危害を加えられる可能性のある者には護衛の随伴を許可するって風に校則を変えてくれれば良いのにな」


「学院長や教頭は既にバルシュミーデ人に変わってるんですよね?式で見た感じではランドル人っぽくなかったし…」


「そうだ。あと、幾人か教職員の入れ替えもあった。アザール系を残しておくとどんな工作が仕掛けられるか分からないからな」


「そうなんですね…」


「いっその事俺が剣術担当の臨時職員にでもなって潜り込んでやりたいところだ。そうすればお前に危害を加えるヤツをその場で返り討ちにできる」

鼻息荒くそう言うブルクハルトを見ながら、父エリアルを思い出した。

私が蔑ろにされるとムキになって怒る人だった…。


「…いえ、そこまでしてくださらなくても大丈夫ですよ」


「俺は、不自由なく暮らさせてやりたいんだ、お前に…」


「………」

(本当に「保護者」みたいだ…)


「父親が生きてたら娘に対してこうしてやっただろうって事はちゃんと配慮したい。それが厚かましくもお前の夫の座に収まった俺ができる唯一の罪滅ぼしだと思うんだ」


「………」


「…迷惑なのか?」


「…いえ、迷惑じゃないです。ただ、戸惑ってます。…普通は親の仇とかは『憎みたければ憎め!』って感じで悪者キャラに徹すると思うんですよ。

『謝っても許してもらえないんだから謝らないし、悪かったとも思わないようにする』って心理で。

なのにブルクハルト様はそういう『許されざる者の自暴自棄』みたいな悪びれた所が無いな、と思って、不思議なんです」


「…『許されざる者の自暴自棄』か…。確かにそんな心理が世の中にはあるな。俺もそんな心理で生きてた頃がある。

だけど、その手の心理は味わい過ぎるとお腹いっぱいになるんだよ。俺はもう、そんな欺瞞に耽りたくはないんだ。もう二度と…」


「そうなんですね…」

私が頷くと


ブルクハルトは

(ちゃんと分かってくれてるのか?)

と確認するかのように私の顔を覗き込んだ…。


******************


またも食後に食堂で昨夜の続きの翻訳をしてほしいという事になったので、夕食前に入浴と学院用の予習を済ませておいた。


前世の記憶が戻ったお陰で算術に関しては問題がない。

(前世の記憶が戻る前は苦手な科目だったのに)

最大の弱点が克服済みなので学院の勉強は主に魔法関連に絞って重点的に学びたいところだ。


(それにしても…。護衛に見張られながらの勉強とか「集中できないに決まってる」と決めつけてたけど、案外存在自体を忘れて没頭してしまえるもんだね…)

と自分の環境適応力に少し呆れる。


元々貴族は侍従やら侍女に付き纏われて暮らしている。

侍従も侍女も非戦闘員で武器を所持していないが…

私が幼かった頃には細身の侍女でも簡単に組み伏せて殺せた筈だ。


考えてみれば怖いものだ。

「赤の他人と一緒に暮らす」

という行為は…。


相手の人間性

こちらへ向ける感情

それら次第で簡単に致命的痛手を受ける事になる。


使用人が仕える家の者達に危害を加える事が重罪にあたるのは

「そう法で定めておかないと、使用人達の短気や反意を鎮めてやれない」

という事情もあるのだと思う。


人間は案外簡単に怒るし

簡単に他人へ悪意を向ける。


好意の返報性を期待して誠実に真摯に関わるからといって

好意と誠実さが返ってくるとは限らない。

他人へ好意を向けて誠実さを注ぐ事自体が

「株を買う」

事に似ている。


特定の相手に好意を持って

その好意を支援や友情として表明する

それ自体が

「株主になる」

行為と似ている。


出会う人間全てに好意を向けようというのは

「元手を回収できない投資で無駄に散財する」

ようなもの。


相手が自分に対して好意的なら

その相手へ自分も好意を向け返したとして

元手を回収できる確率も高い。


私達の心は

「他人から向けられる好意が栄養剤のように作用する」

心的世界に在る。


そして栄養剤としての作用も当人の主観によって

効果が低くなったり高くなったりもする。


前世の記憶を思い出す前は

「親が子を愛するのは当たり前」

と思っていた。

前世を思い出した事で

「親が子を愛するのは当たり前じゃない」

「子を愛さない親もいる」

という事実をも思い出した。


だから

「親に愛されて育った」

リリアンとしての生まれ育ちに対する有り難みも増した。


一方でブルクハルトに対しては戸惑う。

親を殺された。

仇討ちをしようとすれば返り討ちで確実に殺される。

そんな環境で、当の仇が好意的なのだ。

憎みたいのに、好意を返したくなる。

それでいて

「仇に好意を持つのは父への不義理だ」

という事が分かっている。


(悪い人じゃないのは判る。…「戦争だったから」だと判る。お父様も沢山敵兵を殺してる。今までも盗賊討伐で大勢の悪人を殺してきてる。皆、自分の所属する勢力のルールに従って生きてるだけ。利害関係が対立するだけ…)


割り切る事ができなくても

理屈で物の道理を理解する事はできる。

納得してないだけで…。



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