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挿絵(By みてみん)


保健室の養護教諭には

「アラーナ王女に水をかけられました」

と加害者を名指しで伝えている。


なので

「アラーナ王女が入部している部をご存知ですか?」

と訊けば


(あっ、一緒の部になりたくないんだな)

と察してくれたらしく


「魔道具研究部よ」

と快く教えてくれた。


アラーナ王女は校内の有名人。

教員さえも彼女の部を知っていたという事か。

有り難い。


(それにしても、よりにもよって魔道具研究部か…)


母レベッカが学生時代に所属していた部だ。

私も第一候補に考えていた。

なのに初っ端から選択肢から消えた…。


(なら中等部の時と同じように彫刻部に入部するべきかな?)


ただ、自分に悪意を向ける人と同じ部に入りたくないと思うなら

エルフリーデ・ボルネフェルト伯爵令嬢に関しても避けるべきなので

入部を決める事自体が時期尚早かも知れない。


ボルネフェルト嬢が何処かの部に入った後で、そこが彫刻部じゃなければ彫刻部に入れば良い。


ボルネフェルト嬢が彫刻部に入った場合には、中等部の時に入りたかった馬術部か弓術部に入る、という事で良いだろう。


(令嬢生活から逃げ出して冒険者になるなら馬術と弓術を伸ばすべきだよね…)

と思うのだ。


両親の方針のお陰で小さい頃から

「走り込み」

をさせられて

「護身術」

(体術と短剣術)

を習っていた。

近接戦闘は不意打ちされなければある程度戦える。


逃走用に馬術を

遠距離攻撃用に弓術を

習っておきたかったけど

「リリアンが嫁ぐ先は(レディング伯爵家は)安全だから」

と言われて教わる機会がなかった。


今後独りで生きていくのに必要なのは

気配察知能力だろうと思うけど

そういうのは習ってどうなるものでも無さそう。


(もしもボルネフェルト嬢が彫刻部に入るなら、私はより「平民として冒険者稼業で生きていく」道へ近づく事になるな…)

と覚悟した…。


******************


制服が完全に乾いたとは言えないまでも水が滴る事はなくなったので

「それでは、これから予定通り部活動の見学に行って来ます」

と養護教諭に声をかけ、保健室を出ることにすると


養護教諭は

「良い部が見つかると良いわね」

と苦笑して送り出してくれた…。


保健室を出た後は真っ先に彫刻部を探したが…

悪い予感は当たるもので

彫刻部で行われていた「入部希望者対象の入部体験」をしている新入生の中にボルネフェルト嬢がいた。


(…彼女が元々彫刻に興味を持っていたとは考えにくいな…。どう見てもヘタクソだもの…)


誰かから

「リリアンは中等部で彫刻部に入っていた」

と聞いて、嫌がらせのために同じ部に入部するつもりでいるのかも知れない…。


(だとするなら、馬術部や弓術部に見学に行くのは良くないかも知れない。私がどの部に見学に行ったのかまで調べて、それで彼女がギリギリまで「どの部に入ればリリアンと同じ部に入れるのか?」で迷えば、私もギリギリまで何処にも入部できない…)


イジメるために粘着になる人間の気持ちなど分からない。

だけどイジメるために粘着になる人間の行動パターンは分かる。

前世で散々絡まれたのだから…。


考えてみれば彫刻は前世でも馴染み深い。

消しゴムを彫ったミニ版画・はんこ

消しゴムを削って作った小動物オブジェ

そういう創作を楽しんでいた。


あの世界にはアニメのフィギュアを作る人達もいたが、私はそういう二次創作ものには興味がなくて、消しゴムでリスやネズミを作っていた…。


潜在的に前世の記憶を覚えてたから中等部で彫刻部に入ったのかな?と思わなくもない。


ともかくーー


ボルネフェルト嬢の前では

「彫刻部一択」

のフリをしておくに限る。


「今からでも体験に加われますか?」

と先輩に訊くと

「どうぞ」

と彫刻キットを差し出してくれた。


「彫刻技術は魔道具作りでの魔法陣の刻印に役立つから、中等部で彫刻部だった人が高等部から魔道具研究部に入るというパターンが多くて、高等部だと急に部員が少なくなるんだ」

と先輩が新入生に説明していたが、事実だ。


「「「「「へぇ〜…」」」」」

と感心しているのは全員バルシュミーデ人。


魔道具の素材に魔法陣の紋様を彫り

魔力伝導率の高いインクを流し込む事で

魔力供給した時に魔力が魔法陣の形で流れる事になる。

その現象こそが特定の作用を引き起こす元となる。


そういう点で私は魔道具作りの技術面での基礎は踏まえてしまっている。

彫刻技術は充分に足りている。

足りないのは純粋に経験。


(本気で魔道具製作したいなら、魔道具研究部には入らずに独学した方が実は効率が良いのかも知れない…)


「どの素材にどんな魔法陣を刻むのか」という情報自体が魔道具製作の肝と言われているのだが…

それは「魔道具が魔物のスキルを再現したものである」という事を理解して漸く意味を為す。


ランドル王国は魔道王国時代の遺産として、素材と魔法陣の情報を多々有しているが、そうした情報を記した書物に記された素材は大抵、稀少性の高い高ランク魔物の素材だ。

入手困難な素材ばかりなので、学生がそれらの知識を活用することは難しい。


その点、母レベッカは奮闘した。

入手難易度の低い素材で代用できないかと考えたのだ。


その際「同じような事を過去の魔道具製作者達も考えた筈」と考慮。

「代用素材だと失敗する原因が魔法陣に組み込まれているのかも知れない」とも考え、それが功を奏した。


「代用品を拒む代わりに術式の効果を高める」という指示をもたらしている記号。

その存在を推理し割り出す事で、それを削除した魔法陣へと書き換えて、安価な代用素材での魔道具製作を可能にしたのである。


手に入りやすい素材で作る魔道具用の魔法陣の数々は、伯父に入手してもらったものがある。


魔道具研究部にも彫刻部にも入らず

魔道具製作を独学で行うのには

材料は勿論、作業部屋が必要になる。


(屋敷内では「護衛」という名の監視が四六時中ついて回るし…今になって全寮制が恋しくなるなんて…)

と、少し現状に不満を覚えた。



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