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挿絵(By みてみん)


弁当のような持参の食べ物を持たされていないので、独りトボトボと学生食堂へ出向いた。

勿論、教科書や筆記用具の入った鞄は持ち歩いている。

教室に荷物を置いたまま教室を離れるなどとんでもない。


食堂のメニューは日替わりランチ、野菜ランチ、肉ランチの三種類しかない。


大抵の人間が日替わりランチの内容を先に見せてもらってから決めるので見本が飾られている。


余程日替わりランチがハズレじゃない限り大抵の人間が日替わりランチを頼む。

結局は日替わりランチは野菜ランチと肉ランチとを合わせたようなもので、栄養のバランスが良いからだ。


(…リリアンの記憶だけで生きてた頃は食べ物の好き嫌いも多くて無邪気だったな)

と改めて思う。


霧島葉月だった頃の記憶があるお陰で食べ物は何でも食べられるし、他人の観察も冷静にできる。


食堂では人がまばらだ。

一旦、バルシュミーデ人の学生が入っては来るが、日替わりランチの見本を見てから、すぐに立ち去るパターンが多い。


昼食を学院の敷地内から出て買いに行く自由も外で食べる自由もあるので

「外で食べたい」

と思ったのだろう。


学院近郊の食べ物屋の店舗もいつの間にかバルシュミーデ料理の店が立ち並んでいる。

ランドル人の経営者がバルシュミーデ皇国に忖度してバルシュミーデ料理の店へと鞍替えしたのか、或いは元の店が潰れてバルシュミーデ人に店舗ごと買い取られてそうなっているのか、背後の事情は不明。


私は

「日替わりランチ一つ」

を注文してからセルフで水をコップへ注いでトレイに乗せて

「どれか一つ選んでください」

と言われて差し出されたパン籠からパンを一つ選んだ。


食堂のオバチャン達がその間にスープを注ぎ

オカズを皿によそってくれたので

それらを受け取って空いている席へと向かった。


(美味しい…)


屋敷で食べる料理はジワジワとメニューがバルシュミーデ料理にすり替わりつつある日々なので、昔ながらの学食の料理は安心する。

だけど、ここでもそのうち料理人達は

「バルシュミーデ風料理を覚えなければ先がない」

状態に追い込まれて味付けを変えていくのだと予想がつく。


(今はまだ、美味しい…)

食べ慣れた味をゆっくり噛み締めて味わった。


食堂の中はほぼランドル人だけで、バルシュミーデ人がいない。

なので油断していたのだと思う。


もう少しで食べ終わる頃合いに、背後で人の気配がした。


(あ、そう言えば、以前にもこういう事があったような…)

と既視感を感じた


途端にーー

頭の上から水が降ってきた…。


(そう…。3年前にも食堂とかで嫌がらせしてくる人が居たんだった…)

振り返ると、案の定の人物が立っていた。


「アラーナ様…」

私はその人の名前を呆然と呟いた…。


元クレーバーン公爵令嬢、現王女。

アラーナ・レヴァイン。


二学年歳上の彼女は中等部の時も、私が一年生の時は三年生で、同じ校内で学んでいた。

私とは面識もなく、話した事もなかったので嫌われるような要素はないと思うのだけど…

彼女は何故か食堂などの学年を分けずに使う共用空間で私に嫌がらせをしてきた。


中等部の時には母が

「クレーバーン公爵とは面識もあるから、娘さんの素行に関してお手紙を出すようにするわ」

と言って、アラーナ嬢の父親に苦情の手紙を送ってくれた。


公爵から叱られるなりして懲りたのか、それ以降は大人しくなってくれていた筈だったのに…

アラーナ嬢は今はクレーバーン公爵令嬢ではない。


(…この人は今、王女で…あの皇子の婚約者だったね…)

とアラーナ嬢の社会的ポジションを思い出して現実を世知辛く思う。


考えてみたら、あの皇子のあの悪意も、もしかしたら婚約者のアラーナに何か吹き込まれてのものなのかも知れない…。


アラーナ嬢は

「…手が滑ったわ」

と独り言のように呟いてから


私のほうを見もせず

謝りもせず

そのまま立ち去った…。


(なんで彼女は、私に対して悪意的なんだろう?…頭が、オカシイとか?…)


不思議だ。

前世でも時折おかしな人達はいた。

原因がない所に原因を求めて一方的に弱者を嫌う人達…。

何故そんな人達が湧くのか理解できない。


前世では私も私の家族も地域内でちょっとした有名人だったらしい。

勿論悪い意味で。


妙なものだ。

こちらはただ生きて暮らしてるだけで犯罪者でもなんでもない。

関わってもいない人達から嫌悪感を持たれる謂れもない。


なのに勝手におかしな噂話をして嘘や大袈裟で捏造した人物像を根拠にして、関わってもいないのに、こっちがただ生きてるというだけで嫌悪感剥き出しにして嫌がらせをしてきていた人達…。


こちらとは無関係の事情で苛ついてたりする人達が何故か

「弱者を巨悪に見立ててイジメながら、悪を懲らしめてやってる正義のように自分達を誇る」

のだから、そんな倒錯した因縁付けで一方的に絡まれる側は救われない。


狂ってるように見えるし

あんな奴らを社会内で野放しにしてるようじゃいけないと

本気でそう思っていた。


ボロ団地の集合ポストなど監視カメラも付いてないし

誰が悪戯しても犯人が特定できない。

(何故うちの郵便受けにだけゴミが突っ込まれてるんだろう…)

と不満に思った事は数知れず。


ベランダに虫の死骸が投げ入れられていた時期も

(タバコの吸い殻とかなら唾液から犯人特定できるだろうに…)

と思っていた。


尤も、警察がちゃんと加害者を捕まえてくれる気が有ればの話だ。

全国の警察官の皆様がああだったとは思わないが…

前世の地元警察は

「民事不介入」

を盾にして嫌がらせを受けた被害者に対して門前払いをする人達だった。


勿論、世の中には虚偽の申告をする人達もいるので

「被害に遭った!」

と自称する人達の相手をマトモにしてたら身が保たない筈。


軽度の被害に関しては

「刑事事件の範囲外」

と見做す事にして切り捨てるようになってしまう。

それこそ罪悪感すら持たずに。


そんな社会だと

「刑事事件として立件できない範囲でネチネチ嫌がらせする」

ような連中は野放しだ。

目を付けられて嫌がらせされ続ける側は

誰も助けてくれないし

誰も庇ってくれないし

誰も守ってくれないのだと

社会正義の欠如を如実に実感させられる事となる。


(弱者は「目を付けられる」事自体が「罪だ」と思われるものなのだろうか?)

と思うと、人間という種そのものが心底から嫌いになる…。


私は保健室へ向かい、養護教諭にタオルを借りて濡れた髪を拭いた。

制服は主に肩口が濡れている。

上着を脱いでみると、中に着ていたブラウスも肩から胸にかけて濡れていた。


着替えなど持ってきていなかった。

「卒業生が卒業時に忘れていった荷物に体操着があるから、それを借りて、濡れた服を干して乾かしなさい」

と言ってもらえたので、濡れた制服を保健室で干した。


「私みたいに水をかけられて保健室に来た生徒は今までにも居たんですか?」

と訊くと


「残念ながら、貴女みたいに嫌がらせされる子は毎年のように出てるわね」

との事。


バルシュミーデ人に既得権益層を乗っ取られる危機に瀕していても…

「ランドル人同士で憎み合い苦しめ合う道を選ぶ」

ような人が多いのは今に始まった事ではないという事か…。


ランドル王国一豊かな公爵家の令嬢だったアラーナ嬢。

今は王女様。

彼女はランドル人の中で女王の次に身分が高い。

そんな彼女がランドル人同士で憎み合い苦しめ合う道を選んでいるのだ。


(今後もランドル人は「国民同士の団結ができない先細り人種」として民族的自滅へ向かい、絶滅危惧種になりそうな勢いだ…)

と感じて、思わず溜息が漏れた…。


******************


生存競争も政争も戦争も団体戦・チーム戦だ。

内ゲバに走る者達が野放しになっていたり、その団体のトップ自体が内ゲバに走っていると、他との競合すら起きずに負ける事になる。


そんな当たり前の道理を公爵令嬢・王女が理解できていないのかと思うと情けなくなる。

そんな人間を育ててきた国なのかと情けなくなるのだ。


「何処の部活に入るのか?」

という問題を考えるにあたって

「アラーナ王女が入っている部を先に調べて、それだけは避ける」

必要がありそうだと判った…。



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