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挿絵(By みてみん)


近隣国では「反ランドル」思想を掲げる反社会勢力が活性化していて…

「ランドル人が国外を出ると結構な確率で犯罪の被害者になっている」

という話は何年も前から噂されている。


ランドル王国は外交姿勢も特に横暴ではないし

ランドル王国内に出稼ぎ労働や留学に来る外国人らは

特に不便を感じずに済むように優遇されている。


それなのに…

ランドル王国・ランドル人は近隣国から激しく憎悪されているらしい。


(前々から詰んでる国だったんだな…)

と今更ながらしみじみ思う。


そこでふと、誘拐されて地下牢に居た時の瓶底眼鏡女子の事を思い出した。

(あの女…。アザール人なのにランドル人を騙って自分も被害者ぶって黒幕はバルシュミーデだと言い張ってた…)


国際的濡れ衣捏造。

そういうものがあって、身に覚えの無い恨みを向けられる事態に繋がるのだろうか…と思った時にストンと腑に落ちた。


「…あの、ブルクハルト様。つかぬ事を伺いますが…あの時の地下牢の嘘吐き女、結局どうなったんでしょう?あの女、やっぱり確信犯の嘘吐きだったんでしょうか?」

私はついついブルクハルトの方を向いて気になった事を尋ねた。


「…どうして急に気になったんだ?」


「…あ〜…。近隣国のランドル人へのヘイトがかなり不自然なんで、やっぱりああいう感じの国際的誣告犯罪が繰り返されて各々の国の評価が捏造されてる可能性に今気付いたんです」


「今更か?…近隣国のランドル人へのヘイトがアザール系帰化人及びアザール系移民によって人為的に誘引されていた事に関しては先日の公開処刑の際に告知されている。

お前は侍女達からその辺の噂を全く聞いていなかったのか?」


「そうだったんですか?…残念ながら侍女は私と世間話的な情報交換をするような人達じゃないですよ。

他の貴族家はどうか知りませんが、ブライトウェル辺境伯家でもグラインディー侯爵家でも『貴族は使用人と馴れ合わない』方針です。

基本的に私の両親は隠し通路から使用人達のプライベートエリアを覗き見、盗み聞きして使用人間で広まってる噂を自発的に仕入れていました」


「…ブライトウェル城の隠し通路に鏡硝子が付いてて外が覗き見できたのは、そういう用途だったのか…」


「…今現在は四六時中ブルクハルト様の従騎士に見張られてるので、その手の情報収集が出来ていない状態です」


「それはすまなかったな…」


「それで?…あの女も処刑されたんでしょうか?」


「公開処刑ではなく毒杯による死刑だ」


「やっぱり確信犯の嘘吐きだったんですね?」


「そうだな。ランドル人に成りすましてランドル人被害者に間違った犯人像を植え付ける役目を自らすすんで果たしていたヤツだったな」


「なんでそんな卑怯な事が出来るんでしょう?ああいう人は人間の心が無いんでしょうか?」


「いや、人間の心は有るんだろうが、人間の知性が無い連中だったのだろうな。

『ランドル王国においてアザール系移民は昔から虐げられてきた』という虚構の歴史認識を刷り込まれていた。

何処の国でも移民に国民と同等の権利など与えず、事あるごとに乗っ取り侵略を疑い警戒するのは当たり前の事であり、それをいちいち『差別だ!』と捉える見方自体が言い掛かりなんだがな。

敢えてそうした相互主義的国際常識を身に付けさせず、在住国の国民よりも権利が制限されているのを『差別だ』と認識させる手口をとっているのだからアザール王国は本気で悪質な有害民族だな。

お陰でランドル王国内のアザール系は『ランドル人に対しては何をしても罪悪感を感じる必要はない』『我々は先祖代々可哀想であって、我々を見捨ててきた他民族の連中には貸しがある』といった被差別者免罪思想を持っていた。

アザール人の多くは『反社会的行動のパトロンである祖国』に対して『特殊軍事工作へ誘導している可能性を疑う』という知性が働きにくい人種なんだろう。

典型的な操り人形の国際犯罪実行犯だったな。公開処刑は忍びないが、当人達の頭の弱さゆえの罪を無かった事にはできないので、毒杯が妥当だという事になった」


ブルクハルトの話を聞くと余計に気が滅入った。


(…あの瓶底眼鏡女子のやってた事はまるっきり諜報工作だと思うんだけど、多分、諜報工作員の自覚がない諜報工作員なんだな…)

と予想がついたのだ。


無自覚軍族らの軍事行動の目指す所が

「自国防衛」のような自衛ならともかく

「他国侵蝕の推進」である以上…

ああいう女の行動には全く情状酌量の余地はない。


これまでどれだけの人々を騙して

悲劇を生み出して犠牲者を出してきているのか…

簡単にはその悪影響の全貌は見えない。


人間が益々嫌いになりそうだ…。


(ああ、それでも…。マシではあるのか)


地球世界と違って、この世界では嘘を見抜く人達もいて

「嘘吐きは有害人種として粛正される」

という顛末がある


因果応報とも思えなくない破滅が

「侵略者のくせに被害者を詐称し、息を吐くように誣告を行う悪党達」

の身の上にキッチリ降りかかったのだから…。


******************


私が日本語で書かれた文章をせっせとランドル語に翻訳する傍らで…

ブルクハルトは日本語で書かれた文章と私がランドル語に訳した文章とを見ながらバルシュミーデ語に翻訳している。


ブルクハルト曰く

「日本語は判るが、日本の文化には詳しくなかった」

とかで翻訳不能の箇所が多々あったらしい。


私がゲーム知識を踏まえて翻訳する事で、ブルクハルトの方でも意味を把握しやすくなったようだ。


要はブルクハルトは日本のサブカルチャーに詳しくないのだろう。

(前世、日本人じゃなかったのかな…?)

と疑問に思う。


(日本も…随分と外人さんが増えてたし…。日本語が分かるのに日本のサブカルチャー絡みの翻訳は困難ってことは、要するに、そういう事だよな…)


(…にしても、乙女ゲームを全く知らない人が乙女ゲームの世界へ転生って、そもそもどうなんだろう?)

謎が多い。


母レベッカは

「この世界」

に関しても日本語で推論を述べていた。


〈この世界の設定は『アカオト3』の世界そのものなのだけど…所謂「シナリオ再生力」のような力がそこまで強くないことはもう分かっている。そのお陰でレベッカのシナリオにはない幸せな人生を送れている。この世界は魔法も存在して融通が利きすぎる。地球世界のような「本当に存在する世界」とは、根本的に違うものなのかも知れない…〉


そう書かれた日本語を読んで真っ先に思い浮かべたのは

昔テレビの洋画番組で観た、とある海外映画…。


バーチャルリアリティの世界へ脳がアクセスしていて、本当にバーチャルリアリティの世界が存在しているかのように錯覚していた主人公の物語。


(…現実としか思えない程のクオリティーの高い臨場感。五感も完璧に現実のそれなのに「ここは本当はバーチャルリアリティの世界だ」なんて事、有り得るの?…)


いや。無いだろう。

攫われて先進技術の人体実験にされてるとかじゃない限り、ここまでの本物そっくりのバーチャルリアリティはあり得ない。


それなら、「この世界」の正体は何?


母は私の問いに答えるかのように

〈…「この世界」は死後に成仏できなかった人達の意識が迷い込む集合意識の夢の領域なのかも知れない…〉

と推測を続けていた。


成仏ーー


(…できなかっただろうな、私は。…うん。あの世界には絶望しか無かったし、未練は無かった筈なのに…。それでも「別の世界になら希望は有るのかも知れない」と気持ちの何処かに心残りがあった気はする…)


そうか。

「成仏できなかったから、此処に居る」

のだと思えば、それはそれで納得がいく。


〈誰からも愛されなかった人生が本当はずっと寂しかった。だからこの人生では愛し愛される経験を重ねてゆきたい。それが自分自身を成仏させる唯一の方法なのだと、私は自分の中に不思議な確信を持っている…〉

そう日本語で綴られた母の言葉を読んだ時に


(ああ…きっとそうなんだ。私もそうだ。…自分自身を成仏させるために、この人生の中にいるんだ…)

と、私の中にも不思議な確信が目覚めた…。


ふと顔を上げるとーー


「…リリアン嬢?…何か辛くなるような事が書かれていたのか?」

とコルネリウス公子が私の顔を覗き込んでいた。


「………」

悲しい訳でもないのに、何故か泣いていたらしい…。


「ヴィクトール様。続きは当人の気持ちが落ち着いてから翻訳してもらう、という訳にはいきませんか?」

と公子が皇子に提案してくれたが


「いつ逃げ出すかも分からない女に猶予を与えていては、この件は永遠に片がつかないんじゃないか?」

と皇子は聞く耳を持たないようだ。


私は黙々と翻訳を続けた。

日本語で書かれた文書の類はそこまで多くない。


翻訳は

(この文章はランドル語に直したらどう表現するべきか…)

という点で悩ましい。

つまりは自分自身のボキャブラリーが貧困だから時間がかかるだけで、自分自身のボキャブラリーが豊富な人なら一瞬で済んでしまうもの。


他人が読んでも意味が通じるように、と思うと更に難しくなる。


それでも内容が乙女ゲームのシナリオに関するものだと自分もよく理解してる内容なので訳しやすい。

逆に魔道具開発に関する内容だとよく分からない内容なので訳しにくい。


(まぁ、お金が出るんだし、やるしかない状況だし、時間がかかってもやるけどね…)


(この世界でも私は搾取される人生なのかな…)

と不安にはなる。


ヴィクトール皇子みたいな人達は

何を考えて自分よりも弱い者を搾取し虐げ

罪悪感も持たずに自信満々に生きてしまえるのだろうか…。


前世でも理解できなかったし

今世でも理解できないし

多分理解する必要もない。


(段々頭が疲れてきたな…。腕も怠くなってきたし…)


腕の疲れで字も乱れてきたところで、やっと皇子が

「どうやら集中できなくなってきたようだな。続きはまた明日、学院から帰宅後にやっておくように」

と指示を告げて立ち上がった。


ブルクハルトが私の翻訳した量を見て

「頑張ったな。後はよく休め」

と言って肩を軽く叩き、退室を促してくれた…。


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