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挿絵(By みてみん)


私がグラインディー侯爵邸へ着くと

早速侍女長が出迎えてくれたのだけど…


この侍女長こそが母レベッカを崇拝する一味の第一人者でもある。


以前私がグラインディー侯爵邸を訪れたその日のうちから

「レベッカ様だったなら…」

と何かにつけてダメ出ししていた人達の筆頭。


悪人だとは思わないものの…

才女とは程遠い私にとっては

「関わり合いになりたくない人物だ」

と言える。


母を崇拝する使用人達は

「レベッカ様が自害なされた」

という訃報を聞いて

「信じられない」

と思う反面

「仕方ない」

とも思っている。


敵兵が乗り込んで来た場合ーー

敵兵のモラル次第では非戦闘員の女性達が陵辱され虐殺される可能性がある。

美貌の辺境伯夫人など、どんな目に遭わされるか判ったものではない。


「せめて人間らしく死にたい」

と思うなら自害する他なかっただろうと理解できる。


母レベッカの死を悼んで御通夜状態になっている使用人達だったが

その悲しみが

「リリアン様にはレベッカ様にように素晴らしい令嬢に育って頂きたい」

という押し付けがましさへと転化していく様子をジワジワ感じる。


「ご夕食の準備が整いました」

と言われて食堂へ行ってみても、家人は誰もおらず、私独りだけ。


「伯父様達は?」

と尋ねたところ


「旦那様からの指示で、リリアン様とアシュリー様との接触を極力避けるようにとの事です」

と執事から返答された。


「…レディング伯爵家でも侍女達の噂話として耳にしたのだけど、貴族家の後継はバルシュミーデ皇国貴族を伴侶に迎えなければならないのよね?」


「左様です」


「アシュリーの婚約者は決まったの?」


「まだでございますが、複数打診が来ておられるようですので、間もなく決まります」


「アシュリーの婚約者が決まったなら、その令嬢もこの屋敷で暮らすのかしら?」


「おそらくは」


「要するに私は『姿を見せない』ように暮らせば良いのね?」


「申し訳ありませんが、その通りです」


「裏庭の向こうに離れがあった筈だけど、そこはどうなってるの?」


「長年放置されていて、今は人が住める状態へと改装工事中です」


「私は、そこに追いやられるのね?」


「…左様でございます」


「…まぁ、いいわ。衣食住を提供してもらえるだけありがたいと思わなければね」


(そのうち、金持ち老人の後妻として叩き売りされるのかもね…)

と不安に思わなくもないが…

生きてはいける。


私は溜息が漏れそうになるのをこらえて苦笑を浮かべた…。


**********************


一度だけグラインディー侯爵である伯父からの呼び出しで私は執務室へと赴いた。


(無視されてる訳ではないのよね?)

と思いたいものの、それ以降は物の見事に侯爵家の家人とは会わない状況が続いた。


独りで摂る食事を数度重ねた頃

「離れにある別館の支度が整いましたので、そちらへお移りください」

と言われ、大人しく離れへと居を移した。


「古いけど美しい場所ね…」

私の言葉には


侍女が

「此処は先代侯爵夫人がお過ごしになられていた場所です」

と答えてくれた。


「先代侯爵夫人というと、私のお祖母様が?」


「いいえ。レベッカ様の御生母のマリオン様はレベッカ様を産み落とし間もなく亡くなられています。

先代侯爵は喪が明けるのも待たずに直ぐ当時の愛人を夫人として屋敷にお引き入れになられていたのです」


そう聞かされて、先代侯爵がーー祖父がーー如何に酷い男だったかが判明した…。


(…普通に考えて、マスグレイヴ侯爵家の次男だった伯父様がグラインディー侯爵家を継げたのがオカシイと思う所だけど、要するに祖父がクズだったので、マスグレイヴ侯爵家による乗っ取りを周囲が批判もせず容認してたって事よね?)

と納得。


「そう言えば、お母様がまだ学生だった頃に継母がご病気でお亡くなりになったと聞いた事があったわ」


「もう二十年以上前の事です」


「お母様には異母弟がいた筈よね?廃嫡されて家を追い出されたという事だったけれど、今はどうなさってるの?」


「ウォルター様なら廃嫡後しばらくして犯罪に関わったとかで、鉱山送りとなり一年と保たずにお亡くなりになったという話です」


「…それで、マスグレイヴ侯爵家から伯父様が養子に入って後を継いだ、と」


「ええ」


「エイプリル伯母様はグラインディー侯爵家の分家の方よね?エイプリル伯母様のご兄弟はどうなさってるの?」


「ルース商会はグラインディー侯爵領を本拠地にして手広くご商売をされています。平民でしたが準男爵位を得て準貴族になられている筈です」


「そう」

何となくグラインディー侯爵家周辺の事情は掴めたので

私は侍女への質問は打ち切り

新しく私室となった部屋に私物を配置していく事にした。


そうして私物の配置が済んだ後は

別館内を見て回って間取りを覚えた。


別館には厨房もあったが

料理人を配置する予算まではかけてもらえないらしく無人だった。

(自分で料理したい時は気兼ねなく使えそうではある)


私用には本館の厨房で作られた料理がただ運ばれるだけ。


そんな事もありーー

別館へ移った日から料理は冷え切ったものとなった。

しかも使用人用の賄い食…。


(居候ともなると、こういう扱いが普通なんだろうなぁ)

と私自身も納得してはいたが…


私は食事中、急に気持ちが悪くなった。


「ーーうっ…ぐぅっ…」

(…まさか、毒?…を、もられたの?…)

と気付いた時には、もう為す術が無かった…。


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