34:ブルクハルト・クンツ視点10
リリアン嬢を無事に回収できてホッとした。
何処かで野垂れ死にでもされていたら寝覚めの悪い事この上なかった筈だ。
ギードに尾行させた赤目の新人冒険者が
「リリアン嬢だった(!)」
と知った時には驚いたものだが…
考えてみれば今時分のランドル王国は
「戦災孤児が冒険者登録して少年少女の冒険者が激増しているご時世」
なのだ。
リリアン嬢がその一人だとしても不思議はない。
母親の実家グラインディー侯爵家に居候させてもらっても、将来を楽観できる立場にはいない自覚はあったのだろう。
おそらく平民として生きていくつもりでいた筈だ。
俺が父親を殺した事で戦災孤児にしてしまった子供は沢山いるだろうが…
殺した相手が何処の誰か判明しているのはほんの一握り。
その点、リリアン・ベニントンに関しては
「俺があの子を親亡き子にした」
という事がハッキリしている。
(本当はエリアル・ベニントンは俺以外の誰かに討ち取ってもらいたかったんだがな…)
と気が重い。
勝利した場合のシミュレーションは予め聞かされていたのだ。
つまり
「樹海越えして辺境伯軍を撃破しブライトウェル城を陥した後は辺境伯家の令嬢を書類上の妻にして実質乗っ取る」
事は決定事項だった。
そんな事もあり
「辺境伯を俺が殺したら、その娘にとって俺は親の仇って事になるし、ずっと憎まれたままになって寝首をかかれる事になるんじゃないのか?」
という心配があった。
なので辺境伯軍の大将である辺境伯を殺すのは俺以外の誰かに任せたかった。
部下の誰かに手柄を譲る気だった。
なのに状況が許さなかった。
俺以外の者が辺境伯エリアル・ベニントンに対峙すると
次の瞬間には無駄に味方の命が刈り取られていた。
他の者に任せてやれないくらいに強かったので…仕方なく俺が出た。
俺自身も楽々勝てた訳じゃない。
微妙に足を引きずる程度だが負傷してしまっている。
いつまでもしつこく痛む。
怨念がこもってそうな傷…
今後も痛む度に侵略戦争の罪深さを思い知らされる事になりそうだ。
だが心の何処かで俺は
「そうした恨みや痛みを背負う事」
にホッとしてもいる。
「侵略者を恨み呪う」
という人間として当たり前の感情。
それが当たり前のものとして作用する所に
この世界の公平性を感じてホッとするのだ。
世界そのものが
空間そのものが
不自然に歪み
倒錯し
狂気に堕ちている事もある。
「侵略者を恨み呪う現地人」が
「無辜の移民を差別する差別加害者」に仕立て上げられる。
そんな狂った社会で
「侵略者のくせに被差別者を詐称して現地人を逆恨みする腐れ外道として生きる」
のも
「被侵略国の被害者なのに差別加害者の濡れ衣を着せられて逆恨みで虐待される」
のも御免である。
地獄しかない。
だからこそ侵略者として恨まれ呪われ、その呪いが降りかかる事が有り難い。
「この世界は正気だ」
と理解させてくれるのだから…。




