33
「制服が届きました」
という知らせがなかなか来ないので
「もしかして物置きを漁ってお姉様のお古を着ていく羽目になるんじゃ…」
と心配になっていた。
ーーが
入学式の前日にようやく届いたので、一応ホッとする事ができた。
侍女の顔触れも一定してきて、生活自体少し落ち着いてきたところだ。
思えば、ブライトウェル城で暮らしていた頃には私専属の侍女や護衛はいなかった。
母レベッカの方針で家全体が
「貴族と使用人が馴れ合うのを良しとしない」
価値観だったのだ。
だが
「馴れ合うべからず」
という家訓は
「虐げて良いという事ではない」。
使用人へ八つ当たりしたり体罰を与える事は許されなかった。
「人を使うにあたっては、明確な分かりやすい指示を与えるべし」
「指示した労働の意味を理解できない使用人へは理由も説明すべし」
といった使用人への配慮がある馴れ合い禁止だったのだ。
馴れ合った方が使用人も主人へ忠実になる筈と考えそうにもなるが…
そうした使用人と主人の馴れ合い癒着は
「使用人が悪心を起こすキッカケになる」
というのが母の持論だった。
「貴族が使用人に精神的に依存するようでは貴族としての責務など果たせません」
そう断言していた母の持論が今頃になって理解できる気がする。
今はもう両親がおらず頼れる人がいない。
周り中敵だらけという程には敵意は無いように思えるけど…
気を抜く訳にはいかない。
微妙な孤立無援状態だと特に
「貴族が使用人に精神的に依存する事は貴族にとって致命的だ」
と判る。
常に値踏みされていて
「この子供は仕えるに値する人間か?」
「仕えて将来性はあるのか?」
秤にかけられているのだ。
そんなシビアな空気も読めずに
「孤児になってしまった。寂しい。悲しい」
だのと甘えた事を思って使用人に頼れば
「あ、コイツはダメだ」
と見切りをつけられる。
(そう言えば、前世で読んだ異世界転生モノの小説とかだと侍女やらメイドは癇癪持ちだった子が前世の記憶を思い出して親切になると、喜んで味方になるパターンが多かったような…)
御都合主義ファンタジーはストレスフリーで読めてしまうが
「御都合主義ファンタジーは所詮御都合主義ファンタジーだ」
と理解しておかないと後々の人生観を歪めてしまう気がする…。
現実の異世界転生だと、人の心理はかなりシビアだ。
御都合主義の「犯罪者以外は皆良い人」的な楽観妄想は通用しない。
現実社会だとーー
癇癪持ちだった貴族の子供が急に改心した場合
「あ、コイツひよりやがった。このままコイツの弱気が続くようなら今までの恨みを晴らしてやる」
と使用人が敵になる事態が目に見えて判るものだ。
忠犬キャラのメイドが悪役令嬢や悪役令息に懐いて忠実に仕えるなどという事は現実ではあり得ない。
父の再従兄弟だった当主代理と、その親しい執事達侍女達ともなると、分かりやすくシビアな人間性だった。
やはり金目の物を盗んで消えていたのだ。
今も残っている上級使用人は
「当主代理とその息子からのセクハラを拒絶して冷遇されていた少数の侍女達」
だけとなっている。
クレア
メラニー
ナタリー
の3人。
いずれも騎士爵家の娘。多少は武術の心得がある。
私の護衛役の3人の従騎士と、いつの間にか仲良くなっている…。
人間関係が良好の使用人は
「現状維持を望む」
傾向があるので変に犯罪に走る事はないだろう。
私はここでも
「室内のいたる物に自分の魔力を注いでテリトリーを作る」
ような魔力運用を続けている。
「入学前に早速一度冒険者活動をしておきたい」
と要望を出して活動した時に街を見て周り
「お守りにする物」
を購入している。
ガーターリング。
ガーターリングに装着できる鞘付き小型ナイフ。
どんな服装にも合うブレスレット。
どんな服装にも合うピアス。
といった品々だ。
それにも魔力を注いで身に付けるようにしたので
「コイツは孤児だ。蔑ろにして良い。リスク無しにイジメを楽しめるカモだ」
などと思われてイジメの標的にされる悲劇を少しは回避できるものと思いたい…。




