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挿絵(By みてみん)


バルシュミーデ人使用人達の視線から

「トゲが取れた」

手応えは感じるものの…


それでも護衛らしき人が入浴や着替えの時以外

「交代しながら常時張り付いてくる」

のは流石に鬱陶しい…。


(無視し続けるのも不自然だし…)

と思いながら

「自己紹介してもらっても良いかしら」

と声をかけた。


護衛らしき人が少し目を見開いてから

「スミマセン。後をついて回るからには自己紹介しておくべきでしたね」

と謝罪したので


「あ、いえ。本来なら、そういうのは家令か当主付きの筆頭執事が紹介するべきです。

こうした王都の屋敷の場合だと当主代理の管理人がその代行をする筈ですが…未だ姿を見せませんね。

貴族家当主とその家族に自分から話しかける資格があるのは上級使用人だけですから、そうした人達が顔繋ぎをしなければなりません」

と護衛自身の非ではないことを教えた。


「そうなのですね?」


「私もこの屋敷は久しぶりなので使用人達の顔もうろ覚えですが…お父様の再従兄弟に当たる者が当主代理だったと思います。

まさかと思いますが、ブルクハルト様に無礼な対応をして粛正されているとかでしょうか?」


「いえ、ブルクハルト様はこの屋敷に我々と来て以来、誰も処していません。初めからそういった人物は居なかったと記憶してます」


「そう、なのね」

(逃げたな…)

「なら、屋敷内から金目の物が失くなっていないか早目に確認が必要でしょうね」


「金目の物、ですか?」


「退職金代わりに勝手に金目の物を持って行方をくらます使用人もいる、という事です」


「…犯罪ですよね?」


「今はこういう時期で警備兵も治安維持に身を入れるのも難しいと思います。盗難届を出しても犯人を捕まえる確率はかなり低いでしょうね。それを見越しての略奪が敗戦後は身内からも起こる訳です」


「…なんか、申し訳ないです」


「バルシュミーデ皇国による侵略は貴方達庶民の責任ではないと思いますよ?因みに貴方は貴族じゃないんですよね?」


「ええ。平民です」


「平民で騎士になられたのですか?」


「いえ、俺は従騎士です」


「?」

(従騎士って何?)


「…そう言えば、ランドル王国は他とは騎士制度が異なるんでしたね」


「そうなのですか?」


「ええ」


従騎士ですと名乗った護衛の人が言うにはーー

ランドル王国では、たとえ平民でも

「魔力を持っていて正騎士資格試験に合格すれば騎士になれる」

のだが…

バルシュミーデ皇国では平民は騎士になれない。


ランドル王国では正騎士資格試験なるものがあるが

バルシュミーデ皇国にはそれはない。

近隣国でもない国の方が多い。


それというのもバルシュミーデ皇国は

「戦闘職で身を立てたいと思う成人男性の比率が高い」

ので平民は騎士になれないという制限があっても

「戦闘用人員不足に陥る事はない」

のだという。


民族性の違いか、好戦的な気質の男性が多いらしい。


平民が騎士団に入ってなれるのは従士という身分。

従士が騎士の正式な部下として契約関係になると従騎士を名乗る事ができる。


要はバルシュミーデ皇国では騎士とは

「王族・公爵家に忠誠を誓う事が許された貴族出自の戦闘員を指す」

のだ。

つまり

「その人を『我が騎士に任命する』と指名してくれる王族・公爵あってこその身分だ」

という事。


「随分と狭き門なんですね」

説明を聞いて思わず感想がもれた。


「…そうですね。平民なので今後も従騎士止まりで、それ以上は出世できないのが分かってます。野心とか野望を持ちようがないんで実質的には従士は傭兵と変わりないかと」


「国や所属ヒエラルキーへの忠誠心は優遇されている者達は高くあるべきだし、優遇されてない者達は低いのが普通かと思いますが…」


「ああ、その点では従士は傭兵と違って忠誠心の高い人種ですね。国から大して優遇されてもいないのに安い給金のために命をかける。

傭兵と違って得られる見返りもありますが、その見返りが『善き国民』という名誉だけ。

なので仕えるべき騎士がクズだと従騎士は従騎士である事に嫌気がさして傭兵職へ鞍替えすることが多いです」


「ここのバルシュミーデ人使用人の人達は皆ブルクハルト様の従騎士なのでしょうか?」


「いえ、俺を含めリリアン様の護衛役を任ぜられている者達は従騎士ですが、それ以外はブルクハルト様とのご縁に縋って職を得た元歩兵に過ぎません」


「ああ。こっちで仕事に就こうにもコネが無いと難しいという事ですね?」


「ええ。ですがバルシュミーデ皇国に家族の居る者達は戦後すぐに祖国へ帰還しています。

侵攻地にそのまま住み着くのは孤児や貧民、或いは家族と不仲な成り上がり希望者達が多いです。

その例に漏れず、その屋敷で働くバルシュミーデ人は全員が孤児か貧民だった者達です」


「…孤児や貧民が戦争に投入されるのですね?」


「普通の国は『孤児や貧民は社会からの見返りを受けていないから戦争に徴兵しない』とか言って裏切りを警戒して徴兵義務を免除するのでしょうが、バルシュミーデ皇国の場合は違います。

初めから侵攻地を平定した後のことを考慮して『現地に住み着かせて現地人らの動向を監視させる人員』として孤児や貧民、家族と不仲の成り上がり希望者らを投入しています。

戦力としては全く期待されていなくて武器もナマクラしか与えられていませんでした。

ですが『戦後はランドル王国内でバルシュミーデ人の特権が適用されて楽に暮らせる』と言われていたので、誰も反抗したり裏切る事もなく、上官の言いなりになってちゃんと生き残れました」


「なるほど…。『侵略した後、現地での優遇を楽しめ』という公約が有って、バルシュミーデ皇国内で冷遇されていたバルシュミーデ人は従軍してランドル王国に留まっているのですね?」


「そうなります」


「そちらでの事情を聞くと政治というものの残酷さをしみじみ感じますね」


「ランドル王国の貴族さん方にすれば、俺達は迷惑な存在でしょうが、俺達にすればこの国は国自体が褒賞であり約束の地のようなものです」


「でしょうね。ですが節度をもって『バルシュミーデ人特権』を活用するように気をつけて頂きたいものです」


「その辺は自覚してます」


「ありがとう…。それで、お名前をまだ聞いてませんでしたね」


「…失礼しました。俺は、いえ、私はギードと申します。孤児でしたが、幸い魔力持ちだったため、騎士団に入団して身体強化の訓練を受ける事ができました。

ブルクハルト様に仕える従騎士の一人です。戦時は斥候役をしてましたし、不意打ちに気付く索敵能力はそれなりに高いと自負しております。

リリアン様の外出時には必ず付き添うように仰せつかっておりますので、宜しくお願いします」


私の監視兼護衛につけられた従騎士は3名。

このギードとカスパー、オットーが交代でつくのだそうだ。


外出時にはギードを伴って出かけなければならないので

「予め教えて頂けるとシフト調整できます」

と言われた…。

(要は勝手に出かけるな、ということ…)


*明日から1日2話の更新となります。

*2025年12月13日完結予定となっております。

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