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挿絵(By みてみん)


ブルクハルトが私を受け入れているのを目の当たりにしたからなのだろうが…

バルシュミーデ人使用人達の視線が随分と柔らかいものへと変わった。


人間という生き物は

「大事に扱われているものを大事に扱う」

「粗末に扱われているものを粗末に扱う」

といった

「前に倣え」

的な模倣をする傾向がある。


屋敷の主人が疎み蔑む相手を使用人皆で疎み蔑むのは

ある意味で

「主人への過剰な忖度」

であることが多い。


内心で嗜虐心を燻らせていて

それでいて世間的評価を下げたくない貴族や金持ちもいる。


その手の人達は自分で直接誰かをイジメるような言動は滅多にとらないが…

潜在的に使用人達が自分の真意を察してくれるのを期待していたりする。


「使用人達が行う弱い者イジメを見て見ぬフリをして容認する」

事で

「弱い者イジメをして楽しみたい」

と思う嗜虐心を

「間接的に満たす」

のである。

そんな貴族や金持ちも実は少なくないのだという…。


ともかく使用人というものは主人に忖度して

「満たされない主人の真の欲」

を満たしてあげようとする行動をとる事がある。


それに関してはベニントン家でも苦々しい出来事がかつて起こっていた…。




「…使用人が主人を慕っていればいるほど、使用人は主人の潜在的欲求に応える事で忖度の意を示す事があるのよ。

それでいて自分自身の欲が混じった主観のせいで主人の潜在的欲求を完全に見誤っていたりすることもあるし」

と、母レベッカがしんみりと語っていた事がある。


4年ほど前にその言葉を聞いて

私は妙な違和感を感じたものだった。


(何かあったのかな?)

と思い、尋ねてみても両親は固く口を閉ざして何も語らなかった。


そこで古参使用人達にしつこくねだって

やっと事情を聞き出したところによるとーー


「両親は学生結婚していて新婚当初の夫婦関係にはヒビが入っていた」

「私には父親母親共に同じ兄と姉の他、どうやら母親の違う姉がいる」

という話を聞き出せた。


そうした事態の具体的な内容は

「エリアル様が女性騎士に媚薬をもられて関係を持ち、その後、子を孕んだ女性騎士が『子供はエリアル様の胤だ』と言い張ったのです」

という、ありがちな醜聞だった。


それにしても

「女性騎士に媚薬をもられる」

という状況の方がよく分からなかった。


なにせこの国では半世紀ほど前から

「男性王族・男性貴族の護衛には男性騎士を、女性王族・女性貴族の護衛には女性騎士を付けるべきだ」

という

「同性主従の推奨」

が進められてきていた。


そんな事もあり、王族・貴族に仕える使用人は基本的に同性だらけ。


荷物持ちなどの重労働用に従僕が令嬢や夫人に仕える事はあるが…

当然ながら侍女が常に側にいるので

「異性の使用人と二人きりになる」

ような状況自体がほぼない。


それと同じ事は貴族家当主にも令息にも言える。

貴族男性の周りに侍女は寄り付いてはならず、身の回りの世話は主に侍従が行う。


幼い頃ならいざ知らず、ある程度以上の年齢になると

「異性の使用人と二人きりになる」

ような状況がないので

「たとえ媚薬をもられても間違いなど起きようがない」

のが貴族の生活環境。


なのに間違いが起きたのだという…。

ならば相手の女性騎士は余程性悪の確信犯だったのだろう。


貴族夫人の護衛も貴族令嬢の護衛も女性騎士があてがわれるので、女性騎士は需要があるのだが女性騎士は数が少ない。

職場は圧倒的に男性多数。

一緒に働く男性騎士から必然的にモテる。

なので妙に自分に自信を持ってしまう女性騎士も出てくるのだそうだ。


両親の結婚後、母レベッカに付けられた護衛の女性騎士はそういった手合いの女だったらしい。


その女は

「親の決めた相手と早々に学生結婚させられたエリアル様がお可哀想」

「面白味のない妻を必死に愛しているフリをなさるお姿がお気の毒」

「魅力ある大人の女との恋愛をエリアル様は本当はお望みの筈」

などと思い込んで、父エリアルに媚薬をもったとの事。


何故、出会って間もない女が

「貴族家令息の真の願望」

とやらを看破しただなどと思い込めるのかが謎だが…


とにかくその女は

「良かれ」

と思って、新婚の貴族令息だった当時の父と閨を共にしたのだ。

満たされない主人の真の欲を満たしてあげたつもりで。


しかしーー

そもそもそんな女と父エリアルが

「二人きりになる時間があった」

事自体が問題だとも言える。


父からしてみれば

「レベッカの侍女は皆、グラインディー侯爵家からついて来た者達ばかり」

「レベッカの普段の様子や真意について情報を漏らしてくれる者はいない」

という状況の中

「ブライトウェル辺境伯家の采配で雇った女性騎士なら、護衛対象のレベッカの様子を逐一教えてくれる筈だ」

と思いついて、時折呼び出して話を聞き出していたらしい。


ただ、女というものを甘く見すぎていたのだろう。

貴族令嬢や侍女などのオンナオンナした女達の言葉に対しては

「嘘が含まれているのかも知れない」

と疑える程度には女性を冷静に見ていたようだが…


「騎士なのだから」という点で信頼してしまえば、相手の言葉を鵜呑みにしてしまうくらいには当時は世間知らずだった。


「レベッカ様はエリアル様以外の殿方に懸想なさっています」

「私達使用人が見張っているから懸想相手と逢引きできないだけです」

「エリアル様ばかりが政略結婚の相手に誠実である必要はありません」

「エリアル様の良さを理解していない女性が妻でエリアル様がお可哀想」

etc.


父は相当不安になるような嘘話を自ら進んで吹き込まれていた訳である。


そして吹き込まれれば吹き込まれる程に

「他の使用人達が遠慮してこちらの耳に入れようとしない情報まで知らせてくれる彼女は誠実だ。信頼できる」

と勘違いを深めていったのだとか。


そうして二人きりになる状況が出来上がり…

父は既成事実を作られる羽目に陥ったのだと。


(若かりし頃のお父様がバカだったと分かって、その話を聞いてしばらくはお父様を無視したんだった…)

と、そうした昔の出来事を知った4年前の自分を思い出す…。


若かりし頃の父エリアルの粗相のせいで「出来た」とされる異母姉とやらが「本当に異母姉なのか?」は判明していない。


母レベッカは

「血縁関係を割り出す魔道具を製作して真偽の程を確かめようとした」

らしいのだが…

丁度その頃に女騎士もその娘も行方をくらませたとの事。


そもそもが

「仕えるべき貴族に薬をもった」

のだから、当時辺境伯だった祖父が激昂して

「処刑すべきだ」

と厳罰を望んでいた。


なのにその女と関係を持った事のある騎士達が

「処刑は可哀想だ。何卒減刑を」

と言い出して、嘆願書がわんさか集まったとか何とか。


そんなアバズレ女から

「妊娠しました。エリアル様の子です」

と言われて一体何を根拠に信じろというのか…。


そのアバズレ女の名前はザラ・アシュトン。

姉かどうか不明のままの娘の名はワンダ。


2人が何処に居るのか分からないけど…

キッチリ不幸になっていて欲しい。

でないと私としては納得できない気がする。


初めから終わりまで終始一貫して胸糞の悪い昔話なのだが…

「両親の過去にそんな女が喰らい込んでいた」

ということを知った事で

「満たされない主人の真の欲を看破したつもりになって暴走する使用人もいるのだ」

という教訓は充分に得られた。


(この屋敷にも、その手の使用人がいるのかも知れない…)

そう思うと、当然、気は休まらないものの


(油断大敵、油断大敵)

と気を引き締めるのには役に立つのだった…。


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