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挿絵(By みてみん)


王都貴族街の屋敷。

15年間の人生で訪れたのは4回目だろうか(記憶にある限りでは)。


王都の屋敷は父の再従兄弟が当主代理を兼ねて管理していた筈。


王城で宮仕えしながら領地経営もする貴族の家族は頻繁に王都と領地を行き来するものなのかも知れないが…

ブライトウェル辺境伯家は王城に出仕してはいなかったので、欠席不可のイベントが王都である時以外は領地に引きこもっていたのだ。


ブライトウェル辺境伯領は魔物が跳梁跋扈する樹海に面している。

定期的に様々な種類の魔物素材を国内へ供給していたし、それには少なくない需要があった。


両親は「社交は領地の特産品に付加価値を生み出す営業」と言っていた。

要するに「営業して回らなくても経済的に問題が無かった」から、両親は特に営業はせず、自領の治安維持に力を入れていたのだろう。


(領主が変わる事でブライトウェル領はどう変わるんだろう…)

決して無責任ではいられない。


(余りにも酷い治世が為されるようなら、殺される覚悟で諫言しなきゃならないんだろうな…)

と思うと気が重い。


放置されて平民として生きる方が楽だったろうし、てっきりそうなるのだとばかり思っていたが…

(ブルクハルト・クンツという人は、「書類上の関係」を現実にしたいと考えるような人なのかな?)

と人物面での謎が微妙に不安を誘う。


使用人の顔触れを見ていくと

掃除している女中や庭で作業をしている庭師もランドル人。

下働きはランドル人使用人がそのまま勤めているようだ。


だけどバルシュミーデ人の使用人も見かける。

特に男性のバルシュミーデ人が多い。

元兵士が祖国に戻らずにランドル王国内で新たな人生を始める事にした、といったところか。


バルシュミーデ人使用人はランドル人使用人より威張っている気がする。

私に対してもジロジロ見て

「ガキだな…」

とボソッと呟くくらいには無礼だ。


「新ブライトウェル辺境伯閣下のお呼びに従い参上致しました」

とバルシュミーデ人執事らしき男に告げたが


「では、こちらへ」

と客間へ案内されただけで、新伯爵のブルクハルト・クンツとの対面がセッティングされる事は無かった。


(…そっちが「来い」って言うから来たのに、挨拶の一言も無いんだね…)

と微妙にムカついたが…

(ここのバルシュミーデ人使用人って、今まで使用人として働いた事が無かった人達なのかもな)

と手際の悪さ・段取りの悪さが背後にある可能性も考えた。


その場合、普通の貴族の常識から外れた対応をされても

「悪気はない」

という事になる。


(それだと最悪だよなぁ…)

どんな使用人を雇い

どんな権限を与えるのか

それは貴族家の家政において重要な案件である。


新伯爵のブルクハルト・クンツがそういった重要さを理解できていなければ、こちらは今後相当な我慢を強いられる可能性がある。

しかも全く

「悪気はない」

という形で。


******************


「ご当主様が夕食をご一緒に為されるとの事です。ご準備のお手伝いに参りました」

とランドル人侍女がやってきた。


(やっとランドル人使用人が来てくれた…)

と私はホッとした。

バルシュミーデ人らに監視されながら過ごすと息が詰まる事この上ないのだ。


幸い、バルシュミーデ人使用人は全員男なので

着替えなどの身支度の間は流石に部屋の外へ出てくれる。


(バルシュミーデ人の使用人に女が居たら身支度や湯浴みの間も監視され続ける事になってたんだろうな…。う〜ん、本気で嫌だ…)


外国人というのは言葉だけでなく価値観も習慣も違う。


こちらにとっての常識が相手にとって非常識であり、いちいち内心で激昂されているかも知れないし、そうした内心をいつ剥き出しにして暴言暴力をぶつけてくるか分からないのだ。


近くに居られるだけでストレスになる。


だが、そうしたストレスを態度に出してしまうと、これまた激昂されるかも知れないので…

「こちらは何も感じていない風を装う演技をしてあげなければならない」

のだから更に面倒くさい。


(なんか庶民が「貴族と関わりたくない」と思う気持ちが分かるなぁ)

と痛感。

関わっても良いことがない。


気を使わされてストレスを感じるし

そのストレスを感じさせないように演技まで必要になり

そうやって感情労働してやっても

努力虚しく不興を買うこともあり得る。


住み分けして活動領域がかぶらないように配慮してもらわないと

本気で嫌いになりそうになる。

そういう関係性…。


(でも、まぁ、こういうストレスを侵略者に感じるのも「ここが自分の国だから」と思っているからこその感情なのかもね…)

とも思う。


ランドル王国の場合

「目に見える侵略」

である分、分かりやすいと言えば分かりやすい。


侵略は常に分かりやすいものとは限らないのだ…。


そもそもが世界そのものも

国も社会も

「養える人員数」

は限られている。


ある種の外国人は自分の国があるのに

移住地にしがみついて居座り

そこで生まれ育つ筈だった在住国民の為の生存リソースを

奪い

盗み

啜り取る。


それでいて

「寄生侵略の罪」

を自覚しない。


寄生侵略をやめて

素直に祖国へ帰れば良いのに


そうした帰国の勧めでさえも

「差別だ!差別だ!」

と、やはり被害者ぶる。


だから

「そんな生き物を如何にして無難に追い返すか」

「如何にして上手く身も心も帰化させるか」

といった面での手腕も治世には必要になる。


不条理なものだ。

ダブルスタンダードな情緒主義を他所の国に入り込んで振り翳す侵略者は、どこまでも宿主側の現地人に不条理を強いる。

ストレスを強いる。


(いっそ貴族を名実共にやめて名実共に平民になって「国」というものからの恩恵を受けてない状態になれば、ストレスフリーで生きられるのかも知れないな…。「国」「国民」というところにアイデンティティを全く置かずに生きるなら…)


人間の心理はどこか普遍的だ。

この世界にある心理と同じようなものが

あの世界にもあったのだろう。


誘拐されて囚われた地下牢でも

「アザール人なのにランドル人のフリをして、アザール人の罪をバルシュミーデ人になすりつける嘘を吐く女が湧いていた」

ような事実からも


「業深く醜悪な組織化された集団に属する人間達は平気で吐いてはいけない嘘を吐く」

という現実を悟らされた。


そういう嘘が余りにも溢れた社会では

人は社会について深く考えれば考えるだけ絶望させられるのだと思う。


(この世界はまだ「嘘吐きが嘘吐きだと当たり前に看破される世界、という点で、あの世界よりマシなのかも知れないな…)

と救いのない事を考えて、やっぱり気が滅入った…。


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