25:ブルクハルト・クンツ視点7
冒険者ギルド、ランドル王国本部ギルマス。デール・フレッカー。
元近衛騎士。
近衛騎士時代は元王子ドミニク・レヴァインに仕えていた。
そのドミニクは国王サディアス・レヴァインの異母兄。
王位継承権を破棄させられておらず未だ生きていたなら
「王兄」という立場だった筈の人物だ。
デールはドミニクが子爵令嬢と結婚し王位継承権を放棄させられ王族籍を抜ける時に、近衛騎士を辞職し、ドミニクと共に王城を去っている。
その後直ぐに冒険者ギルドの職員として再就職。
デールはドミニクを筆頭とするランドル王国の愛国派なのである。
(「ドミニク派」とも呼ばれる)
ランドル王国は
「元から王族・貴族がバカだらけだった、という訳ではなかった」
のだ。
3年前に暗殺された元王子ドミニク・レヴァインこと、ハルフォード子爵ドミニク・ケンジットは幼少期から神童と名高い秀才だった。
ドミニクは母親の側妃が元平民だったお陰で、王族でありながらランドル王国貴族達から王位継承を否定され続け、貧乏子爵家へ婿入りさせられてしまっている。
アザール系貴族が執拗にドミニクを潰しに掛かっていた事は、バルシュミーデ側が行った調査でもうかがえた。
(余程優秀で余程目障りだったのだろう)
バルシュミーデ皇国が本格的にランドル王国への侵攻を検討し出したのが、丁度そのドミニクが暗殺されてからだ。
ドミニクの支持者達は少数派ながら気合いの入った者が多く、報復を恐れたアザール系貴族達が「バルシュミーデの後ろ盾」を欲して本格的に「バルシュミーデ勢力をランドル王国へ引き入れる事にした」のがキッカケだ。
そういった経緯を経てーー
バルシュミーデ皇国軍はランドル王国へ侵攻し
圧倒的な軍事力でランドル王国を占拠するに至った。
しかし、この世はアザール系貴族の御都合主義が通用する程
アザール系貴族にとって甘くはない。
バルシュミーデ皇国は
「ランドル王国へ侵略するからには、先ずランドル王国へ潜入して社会実情を調査するべきだ」
と考えて独自に情報収集を行なった。
「如何にもバルシュミーデ人」と一目で分かる調査員を囮に使い、「一見してバルシュミーデ人だと分からない」調査員に一般人を装わせて調査させれば…
バルシュミーデ人の知性を低く見積もっているアザール人達を欺いて、アザール人達の悪辣さの実態を看破する事も造作なかった。
そして判明した実態ーー。
ランドル王国の裏社会を仕切り、ランドル王国の奴隷商界隈を掌握していたアザール人達の所業は酷いものだった。
実情を知ったヴィクトール皇子は
「…これ程の事をしてきてるのだから、ランドル王国内のアザール系から何もかも根こそぎ奪ってやっても、全く罪悪感を感じなくて済むな」
と苦笑したものだった…。
しかし上面しか見えない庶民は
アザール系の外道ぶりを知る事はない。
多くのランドル人は、先程の受付嬢達のようにアザール系の情報操作によって「バルシュミーデ=悪」と本気で思い込んでいる。
だが、旗頭のドミニクを失った愛国派と言えど
ギルマスレベルの人間ともなると
社会の事情に関して詳しい筈…。
(ガッカリさせてくれるなよ?デール・フレッカー…)
俺は自分の口元に不敵な笑みが浮かぶのを自分でも自覚した。
****************
デール・フレッカーの年齢は40代半ばの筈だが、見た目は30代前半。
筋肉質で隙のない男。
イケメンが多いランドル人の典型といった顔立ちだ。
(確かランドル王国の近衛騎士は容姿重視の選考基準だったな…)
と思い当たる。
背筋の伸びたキリリとした威厳ある姿ながら
「お待たせしました。このギルドのマスターを務めていますデール・フレッカーと申します」
と意外に低姿勢で挨拶してくれたので
(…愛想が良いな、実は穏健な性格なのか?いい奴なのか?)
と思わず好感を持ちそうになったが
「バルシュミーデ皇国近衛騎士のブルクハルト・クンツ騎士爵でいらっしゃいますね?」
と身分を指摘され
(こっちの正体がバレてるんだな…)
と直ぐに状況を理解した。
デールは俺を冒険者ハルトとしてではなく、ブルクハルト・クンツ騎士爵として見ている。
(ギルマスが一介の冒険者如きに敬語を使う筈ないもんな…)
デールの所属する愛国派はハルフォード子爵ドミニク・ケンジットが暗殺されて以降、統率を失って、捨て身の攻撃でアザール系を脅かしてきた。
情報網は未だ健在という事なのだろう。
「…登録は『ハルト』として行った筈だが」
俺が身元詮索の件を暗に指摘すると
「…冒険者ギルドは『元犯罪者に仕事を与えよう』という思惑で発足した世界的民間組織です。
冒険者の身元を詮索するのが御法度だというのは冒険者同士や依頼人には当てはまりますが、冒険者ギルドのギルマス及び幹部には当てはまりません。
管理職は『元犯罪者の再犯を防ぐ』責任も負うので、冒険者の身元を確認しないという事は有り得ませんし、寧ろその辺の情報屋以上に冒険者の身元を調査しなければならないのが実情です」
とデールはすまして答えた。
(まぁ、正論だよな)
と納得。
「どうやら、うちの職員がクンツ様に対して随分と礼を失する対応をしてしまったようで、誠に遺憾に思います」
「その言葉は、彼女達の失礼な対応があなたの指示ではなかった、という表明か?」
「そうです」
「なら、今後は職員教育をちゃんとやって頂けるものと思っても差し支えないんだな?」
「クンツ様が希望なさる基準に達する教育ができるかどうかは今後の世情次第ですので確約は致しかねますが、可能な限りの努力はするつもりです」
「なら、それで頼む」
俺がそう言って、その件への言及を打ち切ると
「それはそうと、何故、今の時期にあなたは王都にいらっしゃるのでしょう?ブライトウェル城は放棄なさったのですか?」
とデールが俺の動きに関して探ろうとしてきた。
(…俺の動きはこの男から見て不自然なんだろうな)
と冷静に相手の観点を推測しながら
「宮仕えだと遠征後のしばしの休息さえ儘ならぬもの。フレッカー殿もよくご存知の筈では?」
(近衛騎士の不自由さはアンタもよく知ってる筈だ)
と言ってみた。
デールが鋭い視線で
「…噂では『当人不在の18歳未満の結婚』が成立するとか?」
と話題を振ってきた事で、その件を不服と捉えているのが判った。
まぁ、普通に考えて25歳の男が15歳の少女との婚姻を推し進めるのは犯罪臭い。
俺はロリコンではないし、性癖的にはどノーマルなので、15歳と性的にどうこうなりたい欲求はない。
(…この男は辺境伯一家と仲が良かったのか?)
と少しデール・フレッカーと辺境伯一家との関係に興味を感じながら
「ああ。バルシュミーデ皇国では政略結婚は全年齢対象だし、バルシュミーデ人が他国の貴族家を乗っ取るのも合法だからな。法に則って、ブライトウェル辺境伯令嬢との婚姻が書類上成立したな」
と教えてやると
「リリアン・ベニントン嬢とは面識がお有りで?」
と直球で尋ねられた。
「いや、会った事はない。ブライトウェル城に肖像画が数枚あるので、髪の色と瞳の色が夫人と同じくアザール王家を連想させる色目だという事は分かっている」
「そうなのですね…」
「フレッカー殿はブライトウェル辺境伯家と懇意の仲だったのか?」
「いえ。ですが、ブライトウェル辺境伯夫妻がまだ学生だった頃に王族の護衛で学院に出入りしていましたので、当時の有名人として夫妻の事は記憶に残っています」
「なるほど。美男美女の高位貴族同士の婚約者カップルはさぞ学生間でも目立っていたのだろう」
「…あのお二人の子には、幸せになって欲しいところです」
そう言うデールの視線は、俺への不信感に満ちたものだった…。




