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挿絵(By みてみん)


伯父から本館へと(執務室へと)呼び出された。


頭痛がしているのか、伯父はこめかみを揉みながら

「先程、王城から通知が届いた」

と告げた。


「通知ですか」


「お前が理解しているかは分からないが、ランドル王国の法律では18歳未満の婚姻は保護者の許可が要る事になっている」


「そうなんですね」


「一方でバルシュミーデ皇国の場合は政略結婚だと年齢は無関係。それこそ0歳児でもできるし、それこそ当人の意向など完全無視される」


「…そうなんですね」

(なんで、わざわざ呼び出してそれを今言うんだろう…)


「貴族院会議で我が国の法適用が大幅に改革されたとの事だ。基本的にバルシュミーデ人にはバルシュミーデ皇国法が適用され、ランドル人及びバルシュミーデ人以外の外国人にはランドル王国法が適用される。

しかしバルシュミーデ人とランドル人との間での対立・交渉の法適用はバルシュミーデ皇国法の適用となる」


「というと?」


「0歳児とでも婚姻可能となるし、当事者不在で意思確認が行われていなくても婚姻可能となる。勿論、各家門の実印の使用が許可されている者の決定あってのものとなるから誰でも勝手に乗っ取り目的の婚姻を好き放題に行える訳ではないがな」


「…ブライトウェル辺境伯家の実印は誰が管理してるのでしょう?」


「今、それを気にする事ができるという事は、ちゃんと予想はできてるのだな。自分の身が書類上、どういう事になっているのかについて」


「まさか…」


「大抵の貴族家では実印管理は貴族家当主と家令が行なっている。ブライトウェル辺境伯家も同様だ。

その家令が実印を隠して在処を話さずに自決していれば、誰もブライトウェル辺境伯家の18歳未満の令嬢に関して勝手な決定をできなかった筈だが、そこまでの忠義を家令は持っていなかった、という事らしい」


「そんな…」


「書類上、お前は既にバルシュミーデ人と結婚していて、ブライトウェル辺境伯の爵位は書類上の夫のものとなっている」


「…私がその場に居ないのに、本当にそんな結婚が有効なんですか?」


「バルシュミーデ皇国法は露骨にバルシュミーデ人と外国人とで権利に格差をつけている。

こういった貴族家乗っ取りは、バルシュミーデ人がバルシュミーデ人に行なった場合には犯罪と見做されるが、バルシュミーデ人が外国人に行なった場合には合法とされる。

お前が一度もブライトウェル城に帰らず、夫の顔も知らず、当然夫婦の間に子供ができなくても全く問題にならない。バルシュミーデ皇国は一夫多妻制を認めている国だ。

お前の夫は合法的に第二夫人を娶り実質夫婦関係となり、そうして出来た子供を後継指名しても、これまた合法だ。

要は合法的にブライトウェル辺境伯家も領地も全て取り上げられた事になる」


「という事は、私、平民ですよね」


「実質的位置付けは平民だが、書類上は貴族で尚且つ既婚者だ。女はバルシュミーデ皇国でもランドル王国でも重婚できない。

お前は今後結婚もできないし、何か犯罪に巻き込まれた場合には『ノブレスオブリージュの義務を背負った貴族の一人』として裁かれる事になる」


「貴族だと罪が軽くなるとか、そういうのはないんですか?」


「貴族が犯した罪に対して軽い罰しか受けないのはコネありきのものだ。コネがないと、貴族はむしろ些細な罪でも厳罰にされる。それこそアンチが司法界隈を仕切っているなら特に」


「お先真っ暗ですね」


「事実を知ったからと言って、降りかかる火の粉を全て払える訳ではないが、何も知らないと、それこそ払える筈の火の粉さえ払えないかも知れないからな。一応今のうちに説明しておきたかった」


「今のうちに、ですか」


「アシュリーの婚約者が決まった。来週から此処に住む事になっている。なのでお前を本館に呼ぶ事はもうない。

どうしても知らせるべき話がある時には私の方から出向くだろうが、それすらも婚約者令嬢に不信を持たれるようなら、こうして話す事すらできなくなるかも知れない」


「…なら、今のうちに聞いておきたいことがあります」


「なんだ」


「安定して収入を得られるようになったら、この屋敷を出て平民冒険者として生きていけたらと思ってるんですが、そうしても大丈夫でしょうか」


「実はお前に関しては『ルース家の若者に嫁がせたらどうか』という意見が出ていた。

お前自身をよく知らないくせに『レベッカ様の血をルース家に再び戻すべきだ』という連中が結構いるからな。

だがそれもブライトウェル辺境伯家の乗っ取りのためにお前と書類上の結婚をしているバルシュミーデ人のせいで御破算だ。

好きに生きると良い。ただ書類上は既に夫持ちなので結婚はできない事を忘れるな」


「…世知辛いですね。世の中は」


「その歳で社会というものの真実を理解できたんだ。生き抜くための処世術を身につけられる可能性は高いだろう」


「そうですね。色々諦めます。…ですが、良かったと思います。私てっきり金持ち老人の後妻とかって形で売られると思ってましたから」


「金に困ったら、その可能性もあっただろうが…。その場合はちゃんと商品価値が高く付くように有能なマナー講師や家庭教師をつけた筈だ」


「解りました。好きに生きます」


「ああ。そうすると良い。…今後も住まい自体は近い筈だが、こうしてゆっくり話せるのは今日が最後かも知れないから教えておくが…レベッカには屋敷内の使用人に限らず崇拝者が多い。

王都の冒険者ギルドのギルマスもその一人だし、Sランク冒険者のバルフォア・ジョーンズもそうだ。困った時には彼らを頼るようにすれば良い」


「解りました…」


伯父は私の目をジッと見つめながら宝石箱をデスクの上に置いて

「…レベッカのものだ。形見にしても良いし、金策で売り払っても良い。中身は高価なものも含まれているので盗まれたり買い叩かれたりしないように気をつけろ」

と言ってくれた。


「大事にします」

と返事をしながら…

不意に涙がこぼれ落ちた。


遺品をもらう事で

本当に母親が居なくなったのだと実感してしまったからだ。


「…あと、最後に言わせてもらうなら、レベッカは何の後悔もなく自死した可能性があるという事を言っておく。

親同士が決めた婚約だったにも関わらずエリアルとレベッカは本当に夫婦仲が良かった。

子供の前でだけ取り繕うような偽物の家庭愛ではなく、本当に愛情に満ちた関係だったろうと外から見ても分かった。

レベッカは『エリアルが死ぬ時が私の死ぬ時だから』と言っていた事がある。

とり残された子供からすれば『自分のために生きて欲しい』と感じるかも知れないが、私はレベッカが自分の望み通りのタイミングで死を選んだのなら、その意思を尊重したいと思う。

その分、お前には幸せになって欲しいと思う。本心だ。

なので今、レベッカが開発した魔道具の設計図を取り寄せている最中だ。

知的財産権の認められなかった学生時代のものだが、今現在は王家が刷新され、学生から横取りしていた知的財産権は宙に浮いた状態になっている。

今は丁度、全てが混沌として曖昧な時期なので、こうした知的財産は『それを理解できるもの』が運用したとしても大した問題にはならない。

首尾よく入手できたなら別館まで届けさせる。本来ならレベッカのものだった筈のものだ。好きに利用してくれ。

…そして生きてお前を守る事より、夫と共に死ぬ事を選んだレベッカを許してやって欲しい。

お前が『レベッカ・ベニントンの娘だ』という事を最大限に有効利用して幸せになるのがレベッカへの供養にもなる筈なので、そうしてやって欲しい」


「解ってます…」

私は頷いて

「ありがとうございます」

とお礼を言ってから執務室を出た…。


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