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挿絵(By みてみん)


「ランドル王国の王都レンジリーも間もなく陥落した」

という報せが次いで入った。


既にクレーバーン公爵家へ降嫁していたフローレンス元王女と

その娘アラーナ公女が王家へと引き戻されたらしい。


フローレンス元王女が女王に就任。

バルシュミーデの皇子を摂政に指名。


アラーナ公女はアラーナ王女となり、摂政指名されたバルシュミーデの皇子との婚姻が決定。


そしてフローレンス女王、アラーナ王女以外の王族は

「全員処刑」

される運びとなり、捕縛されて王城の地下牢に囚われているとの事。


国王サディアスの正妃レナエルはアザール王国の元王女だが…

容姿に恵まれていないため

「娶る事で実家を(アザール王家を)乗っ取る」

という利用は検討されず処刑が決定しているのが何とも痛ましい…。


尤も、アザール王家が既にバルシュミーデ皇国に喰われていて

「これ以上の駒は必要ない」

という考えなのかも知れない。


バルシュミーデ皇国とランドル王国との間には樹海が横たわっている。

ブライトウェル領を強襲した強行軍は樹海越えしたが、王都を襲撃したバルシュミーデ本軍はアザール王国内を通過したという話だ。

(ランドル王国とアザール王国は「友好国」だというのに)


アザール王国が友好国であるランドル王国を裏切り

バルシュミーデ軍を通過させてこその

ランドル王国王都陥落…。


国際的に周知されていないだけで

「アザール王国は既にバルシュミーデ皇国の属国となっている」

という可能性もある。


ともかくランドル王国は

「王国軍の壊滅と辺境伯領・王都の陥落」

をもって

「名実共にバルシュミーデ皇国の麾下へと下る事となった」

のであった。


つまりは属国化・植民地化の推進が大手を振って行われる事となった。

それによって真っ先に

「ランドル王国内の上流層は急激に様相変化する」

事が強いられた。


フローレンス王女の婚姻無効は元より

「全ての貴族家の令息・令嬢の婚約が一旦白紙状態とされた」

のである。


「ランドル王国の貴族家の後継の配偶者はバルシュミーデ皇国の王家・貴族家から迎えるべし」

という通告がなされた。


それは

「殺さずにおいてやるが合法的に既得権益層を乗っ取ってやる」

という搾取宣告の婉曲表現。


私とイーノックとの婚約も

その瞬間、無かった事になった。

(家の都合による婚約破棄ではなく法的強制による婚約無効)


これまでは

「貴族家の令息・令嬢は義務として王立魔法学院に就学しなければならない」

とされていたが…

これからは違う。


「王立魔法学院の入学義務はバルシュミーデ皇国の貴族との婚約が決まった令息・令嬢のみにかかる」

ものとされ


そうした縁談のまとまっていない令息・令嬢は

寧ろ退学させられたり入学を拒否されたりと

「学習権利無し」

の分類に篩い分けされて排除される事となった。



既に結婚している後継や当主には

「離婚してからバルシュミーデ皇国の貴族と婚姻を結び直すように」

と推奨されてはいるが…


離婚歴がつけば、当然再婚相手も離婚歴のあるワケ有りの相手にしか恵まれない。そもそも再婚相手が見つかる保証もない。


苦肉の策として

「再婚相手が見つかれば既存配偶者と別れる」

という方向で貴族家の方でも動き出している。


こうした事態に関して

使用人達は耳聡く方々から情報を仕入れ

楽しそうに噂話に興じているので

私も呆気に取られた…。


レディング伯爵の調査では

「間違いなくブライトウェル城が陥ちた」

と判明。


バルシュミーデ皇国軍に占拠されているので

ブライトウェル城へはランドル人は近づけない状況との事。


レディング伯爵はその報せを受けて

「迅速に私の現状をグラインディー侯爵へ宛てた手紙に書いて送ってくれた」

のだが…


それは要するに

「早めにそちらで引き取ってくれ」

という私に関する厄介払い…。


今や息子の婚約者だった私はレディング伯爵家にとって

「余計な厄介者だ」

と判る。


イーノックは

「親同士が決めた婚約を快く受け入れてくれていた」

と思うのだが…

元々親の言う事には従順な性格。

親の言う事に逆らって私との婚約を続けたいと思う筈もない。


「これからどうなるんだろう…」

と私は心配事をイーノックに相談したかったが…


同じ屋敷内で寝泊まりしているにも関わらず、ブライトウェル城陥落の報せが入って以降、何故か顔を合わせる事すらなくなっていた。


グラインディー侯爵家から迎えの馬車が来ても、最後まで、イーノックとは会えずじまい。


レディング伯爵だけ見送りしてくれて

「お互い良縁に恵まれますよう」

とだけ言ってくれた…。


********************


王都レンジリー。

既にチラホラとバルシュミーデ皇国軍の兵や軍旗が至る所で見られる状態になっている。


庶民はおっかなびっくりしながらも

「上流層がバルシュミーデ人に入れ替わるだけで自分達の暮らしは変わるまい」

と、何処か自国の危機を他人事のように捉えているようだ。

普通に店々が営業を開始してバルシュミーデ兵相手に商売をしている。


「ジャレット伯父様が私を快く受け入れてくれるとは思えないんだけど…」

私は溜息を漏らした。


ジャレット・ルース。グラインディー侯爵。

グラインディー侯爵家に養子に入って後を継いだので、私から見て彼は母の義理の兄にあたるが、元々は母の従兄弟。マスグレイヴ侯爵家の者だ。


グラインディー侯爵家の親戚を妻に迎えることでグラインディー侯爵家を継いでいる。

もしも離婚した場合、妻のエイプリルの方に継承権が残り、彼女の夫が新しいグラインディー侯爵となるので、離婚は決してしない事だろう。


それよりは早々に息子のアシュリーの婚約者をバルシュミーデ人貴族の中から探してバルシュミーデ皇国に恭順の意を示すと思われる。


バルシュミーデ皇国の貴族枠もランドル王国の貴族枠同様に、爵位には限りがあり、既得権益にも限りがある。

貴族家当主とその妻子以外は家を出てしまえば平民となる。


貴族家の庶子や三男以降は騎士団に入団して士爵位を狙う者も多いし、下位貴族家の令嬢は役人や商家に嫁いで夫に準男爵位を狙わせる者も多い。


そういった

「貴族枠から外れる筈のバルシュミーデ人貴族令息・令嬢達」

が今後この国の貴族枠へと喰らい込んで来る。


元々貴族枠から外れる予定のランドル人貴族令息・令嬢は

「ただ市井へくだるのみ」の

(準貴族へ這い上がる道が絶たれた)

未来が待っている。


そんな社会環境へと国全体で激変したものだから、私の方では

(王立魔法学院高等部への進学…。もう無理なんだろうな)

と泣く泣く諦めた…。


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