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挿絵(By みてみん)


(あれ?)


どうやら私は気を失っていたらしい。

さっきまで街中に居た筈なのに何故か今は地下牢らしき場所に居る…。


(それにしても臭いな…)


地下は換気が充分ではないからだろうが、悪臭が凄まじい。

排泄物の匂いの他、血の匂い、消化液の匂い、肉の腐った匂いが混じって、便所と屠殺場とが合わさったような強烈な匂いになっている。


(人身売買…?のために連れて来られたんなら、ここで血を流すような怪我をさせられるとは思えないんだけど…)


子供を攫って奴隷商人へ売る調達人が

「攫った子供を殺して楽しむ」

ような事はないと思いたい所だが…

地下牢の匂いがその予想を裏切る。


同じ牢の中には他にも子供がいる。

いずれも12歳くらいから15歳くらいまでの子達。

新人冒険者っぽく帯剣が板についてない様子からも戦災孤児だと判る。


「目が覚めたんだね…」

と私より少し歳上くらいの女の子が話しかけてきた。


前髪を長く伸ばしていて、ゴツくてデカい瓶底眼鏡をかけているので、人相と表情が分かりにくい子だ。


「ちょっと状況が分からないんだけど、どうなってるか分かる?」

私が訊くと女の子は首を振った。


「…状況とかは分からない。多分、奴隷商人に売られて奴隷にされるんだろうって思うけど、このまま殺されるのかも知れない。

アタシは三日前から此処に居るんだけど、そっちの子達は昨日連れて来られてる。あっちの子達は一昨日」


「食事とかはもらえてるの?」


「一日一回パンと水がもらえるだけ」


(…災難だな…)


食事を与えているのなら

「殺す用途ではない」

と思いたいところだが…


生贄用の人間も

「死なない程度の餌を与えられて衰弱させられる」

のだという、そんな話を聞いた事がある。

普通に奴隷落ちさせる人身売買とは違うのかも知れない。


アザール王国の貴族の中には

「子供の血を搾り取って浴びる事で肉体の若さが保てる」

と信じている鬼畜も居るのだという噂は、それなりに有名だ。


よくもまぁ、そんな事ができるものだとゾッとする話だが

「子供を水と少量の穀物で飼育して血肉の匂いを家畜のそれに近付ける事で罪悪感や禁忌感を薄れさせる」

というセオリーまで確立しているらしいので…

アザール人の狂人ぶりは突き抜けている。


「…スープとかは出ないんだね?」

私が尋ねると

「今のところ一度も」

とのこと。


どうしても水と穀物だけでの飼育から不吉な連想をしてしまう。


(この牢以外の場所の様子が分からないから断定はできないけど…ここの地下の何処かに血を搾り取る拷問器具でもあって、処理済みの血を出荷してるとかじゃないだろうね…)


人が人を家畜感覚で見る観点にはどんな抗議も響かないものだ。


ふと冷静に

(他人を苦しめ殺す行為自体を楽しむ人間って実はいないんじゃないかな)

と感じる。


それこそ殺戮者は

「若さを保てる」

「憎い相手に報復した気分になれる(八つ当たりで)」

「生贄を恐怖で蹂躙して殺すと万能感が得られる」

など

「自分が得る利益や快感」

をこそ重視していて

「生贄を苦しめ殺す行為自体が楽しい訳ではない」

のだと思う。


自分が得る利益や快感。

それが人間を目の前に人参をぶら下げられた馬のような状態にして突っ走らせてしまう。

そういう事なのだろう、と思うのだ。


殺しても欲しいものが得られなかった場合に

殺戮者当人もその事実に気付く事だろう。


こんな事を考えてしまうのも

「恐怖に呑まれたくない」

という抵抗ゆえなのかも知れない。


前世では世間の皆様から蔑まれて生きる悔しさを紛らわすために、社会心理的なモノに興味を持ち、人々がどんな気持ちで底辺の人間を蔑み疎外するのか、やたら分析していた。


分析的思考活動。

それによって盲目的感情に呑まれそうになる自分自身を律していたのだ。


「盲目的感情に呑まれて行動する」

と、自分自身の社会的位置付けに応じた運命が露骨に展開される事になる。


つまり

「嫌われていれば、他人から嫌がらせされて腹を立てただけで責められ、より不利になる」

「好かれていれば、他人に嫌がらせして相手を怒らせても庇ってもらえて、より有利になる」

という格差が広がる。


弱い者をイジメ苦しめて、批判もされずにそれで通用する人達も

弱い者を殺して、社会的制裁を受けずにそれで通用する人達も

「影響者・上位者に媚びて好かれている」

からこそ、外道な人間性のまま社会的に通用するのだ。


多くの人々が

「弱者が犠牲にされているのを見捨てて、何も見なかったフリで無為に卑怯に生きる」

のは

「イジメられている者を庇うと、社会的影響者・上位者の不興を買って自分がイジメられるようになる」

のを潜在的に予想して恐れているからだ。


自分が暮らす社会の影響者・上位者に対して

「公平ではないかも知れない」

「寧ろ彼らがやらせているのかも知れない」

という不信があればあるほど

人は不正や弱い者イジメに対して見て見ぬフリをする。



(…こういう環境では「他の子達が殺されようとも自分には関係ない」とでも思って必死に殺戮者に媚びて好意を持っているフリをするのが正解なんだろうな。それこそストックホルム症候群みたいに…)


誰かが助けに来てくれるかも知れないし、誰も来ないのかも知れない。


私は

「自分が生き残るためにストックホルム症候群に自ら罹患してしまえるだろうか?」

と過去の自分の傾向を振り返って考えてみたが…

「難しいかもな…」

と思ってしまう。


悪を嫌う自由を自分で手放して

悪に媚びて好意を向けるような


そんな病んだ嘘吐きに自分自身がなれるとは

どうしても思えないのだった…。


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