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17:ブルクハルト・クンツ視点5

挿絵(By みてみん)


ブライトウェル城陥落後ーー


そのまま城内の指揮を取り、後は新城主として居座っていられれば楽だったのだが…

戦後の事後処理は面倒くさいもの。


ただ戦争に参加していただけで戦功も何も立ててない連中が

「私の貢献」

と銘打ったこじ付けを書面や口頭でやたら広めて回ろうとする時期でもある。


「うるさい蝿を駆除するように」

とヴィクトール皇子から注文をいただいた事もありーー


ブライトウェル領内の事は、新しく家宰に任命したルドルフ・アーレントに任せて、俺自身は従騎士やその部下を引き連れて王都まで出向いた。


「新生ランドル王国での利権を得ようと画策してバルシュミーデ貴族に取り入り操ろうとするアザール系貴族を裏で粛正する」

陰湿な暗殺業をこなすために。


世の中には

「機会さえあれば他人を斬りつけ痛ぶり楽しんでやろう」

とする趣味の人間が案外多いのだ。


ヴィクトール皇子は俺の事も

「そういう趣味の一人だろう」

と思っているようで

「ヴィクトール皇子が気を使ってくれたからこそ」

のご注文らしい…。


ともかく俺の方でもヴィクトール皇子に相談すべき事柄がある。


ブライトウェル城に侵入した女がいたのだ。

その女が盗み出そうとしていた文書が地球の文字で書かれていた事もあり…

俺はその文書を早急にヴィクトール皇子へ届けておく必要があった。



「…なるほど。〈日本語〉ねぇ…。〈地球〉という世界の文字か。…ブルクハルトが以前言ってた『異世界で暮らしてた前世の記憶があります』って話、冗談じゃなかったって事か」


ヴィクトール皇子にそう言われて

俺は神妙に頷いた。


「全文翻訳はできないのか?」


「できません。日常会話レベルなら習得していた言語の一つですが、母国語ではありません。

何より通常の日常会話では使われないような用語が度々登場しているので〈日本文化〉に詳しくなかった俺では意味不明な翻訳になると思います」


「そうか…。〈日本語〉で書かれた文章の筆跡は二種類ある。一つはレベッカ夫人が書いたと思しき手記、もう一種類はレベッカ夫人と文通をしていたらしき手紙の差出人。

まさか不倫相手同士が異世界の言語を習得して恋文をやり取りするとは考えにくい。何か重大な秘密でもあった、という事か?…」


「分かりません…」


俺の手には余る謎だと思う。

今は俺にできる用事をさっさと済ませておくに限る。


「…それよりも、この標的を、事故に見せかけて殺しておけば良いんですよね?」

と、俺はある男の調査書を手にして、ヴィクトール皇子に確認をとった。


「…まぁ、ブライトウェル城に忍び込んだ女が『リリアン様からの指示です』と言ってるのなら、リリアン嬢を捕まえて事情聴取しない事には真実は分からない。今の時点で真実を推理しても仕方ないだろう。

どうにもできない事は一先ず棚上げにして、今は、計画通りに動きアザール系を粛正していくしかないな。…その男の件は頼む」


ヴィクトール皇子が頷いて承認の意を示したので

俺はすぐさま標的の居場所へ向かった。


この世界ーー。

魔法はあれど魔法の実用化が進んでいない。


風刃エアカッター

などという魔法も庶民には認知されない。


建物の側を通ってくれている時に、外壁の一部や看板、窓辺の鉢植えなどを魔法で攻撃し落下させれば、かなりの確率で死んでくれる。

誰の目にも「事故」として映る形で。


一応致死量の血が流れたのを確認する必要があるので、すぐに現場を離れられないのが面倒なところだが…

野次馬が多いお陰で誰も俺の事を気にもかけないのが有り難い。


殺しに関しては

「悪党以外の人間を殺すのは忍びない」

ものだ。


そんな事もありヴィクトール皇子の方でも

「俺が直々に下調べして『クズだ』と判明した相手」

のみを標的に選んでくれる。


今回も呆気なく「事故」で標的が倒れた。

俺は看板が頭に直撃して死んでくれた悪党を見下ろしながら

悪党に対しては罪悪感を全く感じずに


(コイツが今までしてきた事に比べるなら、こうもアッサリ殺すのは本当に親切過ぎるよなぁ…)

と悪党の悪事の犠牲者達に

(コイツを苦しませずに殺してゴメンナサイ)

と罪悪感を感じた。


仕事が仇討ちなら楽に死なせはしないものの…

俺達の仕事はそうじゃない。


「ランドル王国の既得権益に喰らい込んでランドル王国の金を啜っているアザール系勢力を去勢・粛正する」

のが役目だ。

割り切らなければ仕方ない。


だがそれでは納得できないくらいには、今回の標的はクズ過ぎた…。


アザール系のランドル王国貴族にはクズが多いが…

コイツは中でも相当酷かった。


バルシュミーデ皇国も他の国々もそうであるように、ランドル王国でも奴隷制度は合法である。


しかし奴隷とは法的にはそこまで悲惨な待遇ではなく

「賃金が衣食住の現物支給と借金返済にあてられる労働者」

というのが本義である。


悪党が奴隷商業界を仕切るから

「この世の地獄」

の様相を帯びた悲惨極まる空間が出来上がる。


ランドル王国の王族・貴族を俺やバルシュミーデ皇国皇族貴族らが

「無能だ(施政者の資格なし)」

と判断した理由こそが

「ランドル王国内での奴隷商業界の実情」

にある。

ランドル王国の奴隷商業界は

「実質アザール人に仕切られている」

のだ。


今し方息の根が止まった奴隷商ギルドのギルマスはアザール系貴族。

羽振りの良い大貴族。ワイアット侯爵。

妹を宰相家へ嫁がせた名家だというのだから悍ましい。

そして取り巻きの幹部も似たようなもの。


連中は明らかにランドル王国に害なす行動を取りながら「ランドル人」を自称してきた。

それがどういう結果を生んだのかは一目瞭然…。


ランドル人のフリをしているアザール系の奴隷商人が南方の連合国で身寄りのない者達を拉致して奴隷紋を押しランドル国に連れてきて奴隷労働をさせている。

そんな光景は度々見られる。

そして南方の民にはアザール人もランドル人も区別などつかない。


憎むべき奴隷商人が

「ランドル人のフリをしたアザール人」

であっても奴隷には区別がつかないのだ。


奴隷を虐待・虐殺している者達の大半が

「アザール系コネで繋がっているアザール系の貴族や金持ち」

なのに奴隷にはその事実が判らない。


だから奴隷達は

「ランドル人に拉致されて連れて来られ、ランドル人の貴族や金持ちに虐待・虐殺されている」

という

「事実と異なる認識」

をまんまと刷り込まれる。


そのせいでーー

彼ら自身を虐待・虐殺している「ランドル人のフリをしたアザール人」によって、恨みや怨念の矛先が「ランドル人へ」と操られてきた。


そして「ランドル王国」「ランドル人」を標的にしたヘイト誘引工作としての奴隷調達・奴隷使役は必ずしも南方の異文化の民を拐ってのものとも限らない。


ランドル王国内で「ランドル人奴隷商人のフリをしたアザール人」がランドル人の子供を奴隷にして、これまた「ランドル人のフリをしたアザール系貴族や金持ち」に売って好き放題に虐待させるだけで…

「ランドル人弱者はランドル人強者をクズの人でなしだと見做して勝手に内ゲバへ流れてくれる」

のである。


アザール王国内でアザール人の子供を拐って来る際にも「ランドル人のフリをしておく」事で、アザール人庶民も

「自分達と同じアザール人が自分達の子供を拐って奴隷にしている事実に気付かず、ランドル人への憎悪を掻き立てる」

のだ。


息をするように嘘を吐き、人々を苦しめ虐げ楽しんで、その結果生じる恨み憎しみを無関係な者達へとなすりつけ、周りの者達を争わせ憎しみ合わせる。

そうやって争いも憎しみも本来なら存在していなかった所に生み出していく。


そんな鬼畜人種が「ランドル人のフリをしながら悪行を行うアザール人達」なのである。


「看板が落ちてきて頭に直撃して出血多量で死ぬ」

という末路では甘過ぎる気がしてくるのも仕方ない。


(被害者、犠牲者達から「もっと苦しめてから殺せ!そうでないと我らが成仏できないじゃないか!」と恨まれそうな気がしてくる…)

と思い、何気に少し肩が重い…。


(ともかく、王都に来たついでだ。辺境で狩った魔物の素材を王都の冒険者ギルドで買い取ってもらうとするか。王都で買い取ってもらった方が高値がつくという話だしな)


自分で自分を奮い立たせて冒険者ギルドへ向かったのだった。


冒険者ギルドのギルド会館に入って真っ先に思ったのは

「アザール人冒険者達が随分と大きな顔をしてるものだな」

という事だ。


奴隷商ギルドのギルマスを処分してまだ数時間しか経っていない。

未だギルマスの訃報が伝わっておらず、アザール人達のほうでも通常モードでランドル人未成年者を攫う作業を進めているのかも知れない。


(にしてもギルド職員達の目つきが剣呑だ…)


「アザール人達がランドル人に対してどれだけの事をしてきたのか」

に関して何も知らないから…

(アザール人達が行なっていた仕打ちと比較するなら)

そこまで酷い事をしてないバルシュミーデ人を集中的に憎悪してしまえるのだろう。


(ランドル人は上面しか見えない単細胞人種だと改めて実感させられるな…)

と如実に判り、少し気が滅入る。


居心地が悪いまま受付前の列に並び

自分の順番になってから冒険者証を受付カウンターの上に出した。


「ーー辺境で狩った魔物の素材なんだが、魔法鞄で運んだから劣化も抑えられてる筈だし、出来るだけ高値で買い取って欲しい」

と用件を述べると


綺麗な顔をした受付嬢は一瞬顔をしかめて

「…ハルト様の持ち込まれた素材だけを特別扱いで高値で引き取るといった事は出来ませんが、当方では質の良い素材を適正な価格で買い取る方針です。

規定に沿った買い取り価格での取り引きになりますので、ご希望通りになるかどうかは分かりませんが、査定させて頂きますね」

と答えた。


内心で舌打ちしてるのが丸分かりの対応。


(…マジでランドル人て頭が悪くてバルシュミーデ人を嫌ってるんだな…)

こっちの方が舌打ちしたい気分になった…。


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