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冒険者ギルドに来たことでーー
(私達ランドル人には情報規制されて知らされていない話も外国人には知らされている場合があるんだな…)
という至極当たり前の事に改めて気がついた。
受付の前に数人並んで順番を待っているので、私も他の冒険者達に倣って大人しく順番待ちの列に並んだ。
順番が来た人と受付嬢とのやり取りが聞く気も無しに耳に入ってくる。
「ーー辺境で狩った魔物の素材なんだが、魔法鞄で運んだから劣化も抑えられてる筈だし、出来るだけ高値で買い取って欲しい」
と厚かましい希望を述べている男がいた。
格好は冒険者というより軍人のそれ。
「…ハルト様の持ち込まれた素材だけを特別扱いで高値で引き取るといった事は出来ませんが、当方では質の良い素材を適正な価格で買い取る方針です。
規定に沿った買い取り価格での取り引きになりますので、ご希望通りになるかどうかは分かりませんが、査定させて頂きます」
という返答を受付嬢が返しているのが聞こえて
素材買い取り希望者の男の名前がハルトという名だと判った…。
羽織られたマントに刺繍された紋章からも
バルシュミーデ皇国軍だと判る。
(バルシュミーデ人て、厚かましいな…。平時でこういうヤツが湧いたら、皆、聞こえよがしにイヤミを言って嘲笑するんだろうに…)
だが侵略者側はそういったお行儀の悪さが自分達に向くのを苛烈に取り締まって何かと見せしめにしたがるのかも知れない。
王都の至る所でバルシュミーデ皇国軍の兵士がウロウロしている。
油断できない。
イヤミ一つ言えない。
「占領地の民に対して侵略者同士仲良く因縁付ける事で団結を深める」
ような手口のネタ作りなのかもという疑いが起こる。
「不満表明するランドル人が出ればバルシュミーデ人及び在住異邦人らで団結し反抗的なランドル人を皆で見せしめに殺してやろう」
とか企んでる可能性もある以上、無反応でスルーするに限る。
(ホント、国防って大事だよね)
今現在のような事態になって、私のような子供はしみじみそう思ったが…
本来ならーー
今現在のような事態になる前から、大人達の方で国防に力を入れておくべきだったのだと思う。
(とにかく私は冒険者登録をしよう)
そう思い直し、私は複数ある受付の中でも人が少ない受付に並んだ。
受付は女性が係員の所もあれば男性が係員の所もある。
(受付嬢が美人だと、その列は混むのだろうか?)
と一瞬疑問に思ったが、どうやらそうではない。
手際が良くて、冒険者1人に掛ける時間が少ない受付係の所に人が集まっている。
並ぶ人が少ない受付は係員が手際が悪くてモタモタしている。
早く依頼の受注を済ませたい冒険者は仕事が出来ない人間を嫌う。
いつも混んでる店のレジで店員が美人だろうがブスだろうが関係なく、モタモタしてる店員に苛立つのに似ている。
(異世界ファンタジーで「美人の受付嬢が冒険者達にモテモテで口説かれる」的なテンプレって、やっぱり「ファンタジーだからこそ」だったんだな)
と、よく判る。
必死で依頼をこなして食べていくのに精一杯の人間達は
「美人を見ても変な色ボケをする余裕なんて無い」
訳である。
ウダウダ脳内で考え込んでいるうちにやっと順番が来た。
「冒険者登録したいんですが、どうしたら良いですか?」
と訊いたところ
「少々お待ちください」
と受付嬢が引っ込んだ。
どう手続きすれば良いのかすら頭に入っていないらしい。
先輩職員らしき人を連れて戻ってきてくれた。
「冒険者登録はね」
と先輩職員らしき人が小声で受付嬢に説明している。
(…うわぁ〜…。今日は完全に貧乏クジ引いた。…まさか働き始めたばかりのズブの素人の窓口に並んじゃったのか…)
私の後ろに並んでいた冒険者達がチッと舌打ちして別の列に並び直した。
皆がイライラしている嫌な空気だ。
私は
(ああ…。だから「御守り」が大事なんだな)
と理解できた。
受付の人達は私をどれだけ待たせても
「申し訳ない」
という気持ちすら持っていない様子。
目の前で新人研修っぽい様子が繰り広げられながら、私のほうでも
「お前如き見すぼらしい子供はどれだけ待たされても苦情を言う権利すらない」
とでも言わんばかりの空気に呑まれていて、文句を言う気にもなれない。
御守りがあって
味方がいる
そんな中でこういった事態が起きたなら
受付の人達も私に対して
「お待たせして申し訳ない」
などと思ってくれただろうし
「気にしませんから」
と鷹揚な対応をしてあげる事で恩に着せる事もできただろうに。
「文句も言わずに大人しく待たされるのが当たり前」
のような状況だと…
文句も言わずに大人しく待ってあげても全然恩を売る事に繋がらない。
それどころかちょっと不満を表情に出しただけで
「生意気な」
と悪意を持たれて手続きを後回しにされたりするのかも知れない。
(前世の私は間違いなく社会的弱者だったけど、もしかしたら今世でもそうなのかも…)
と思いそうになる。
(お母様が持ち歩ける物に魔力を注いで御守り代わりにしてた気持ちがよく判る…)
自分という存在を蔑ろにさせない空間をーーテリトリーをーー展開しなければ、他人は簡単に悪意を持って群れて攻撃的または疎外的に接触してくる。
要はナメられるとろくな事にならない、という事。
それを踏まえた上での対策として御守りが必要なのだと改めて気が付いた。
普通は冒険者登録にどの程度の時間が掛かるのか分からないが…
私は受付の前に立って30分以上、目の前で繰り広げられている新人研修を見せつけられて、やっと必要事項を記入する用紙を出してもらえた。
記入には5分も掛けてない筈だが…
パソコンに該当する魔道具に個人情報を打ち込むのにこれまた時間をかけられてしまい、冒険者登録終了後にもらえる筈のギルドカードをもらえたのは、受付で冒険者登録の希望を述べてから1時間以上過ぎた頃だった。
私の後ろに並んでいた人達もとっくに他の受付で用件を済ませてギルド会館のエントランスから姿を消している。
私が来た当初からエントランス内に居た人など買い取り品の査定待ちをしているバルシュミーデ人くらいのものだ。
(…こういう事があるから、手際の悪い受付嬢の受付は人気が無かったんだろうな…)
不満が表情に出そうになるが
そこは頑張って無表情を貫いた。
査定待ちのバルシュミーデ人が
「おい、余りにも仕事が遅くないか?あっちの子も冒険者登録一つに1時間も待たされてるみたいだし、ここの人事責任者は一体何をしてるんだ?」
と文句を言い出したのを見て
内心で
(うん。もっと言ってやれ)
と思ってしまった。
気の強そうな受付嬢が
「喪中欠勤者が多数出ておりまして、只今の営業は通常より非効率なものとなっております。ご了承くださいませ」
と返答をして
バルシュミーデ人は
「喪中欠勤者?」
と首を傾げた。
「バルシュミーデ軍の侵攻の際の犠牲になった民間人は現在判明しているだけで800人強です。
遺産の相続や借金の清算など故人の後始末のために必要な手続きが複数ございます。
法治国家は牧歌的で素朴な社会とは言い難いので、1日で数百人が死亡すると当然混乱も生じます。勿論、ご存知のこととは思いますが」
そう宣う受付嬢の目はよく見ると
バルシュミーデ人への恨みでギラギラしていた。
「なるほど。国内の混乱をおさめる措置が未だ上手く機能していないのか。やはりランドル人貴族は無能だな」
「………」
バルシュミーデ人の方も恨まれる事に対して逆ギレ気味なのか、露骨に表情を険しくさせた。
何気に手が剣の柄に掛かっているので受付嬢は顔色を青ざめさせて
「失礼します」
とだけ言い残してカウンター奥の扉の向こうへ逃げた…。




