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別館の至る所、至る物に魔力を注いで
「自分のテリトリー」
を形成するのは楽しいのだが…私もバカではない。
ただ闇雲に
「いつも居る場所だけをテリトリーにする」
だけでは人生行き詰まるものだと理解できている。
「持ち歩ける物にも魔力を注いで『御守り』代わりにした方が良さそう」
だと、ちゃんと気が付いた。
何しろ
「グラインディー侯爵家の別館だけに永遠に引きこもって生きられる訳ではない」
のだから。
「…『御守り』を持って、町に出掛けたりしたいなぁ…」
と思ったりもする。
コネが無いと、ろくに仕事にも就けない世の中だが…
例外はある。
冒険者ギルドの登録にはコネは要らない。
冒険者ギルドの登録条件は
「12歳以上で、文字の読み書きができて、簡単な計算ができる者」
だ。
その登録条件を思い出した私は
「ふっふっふ。私は冒険者登録できるじゃないの」
と急に自信満々になった。
この世界ーー。
国民は教会で無償教育を受けられる。
基本的な読み書きと簡単な計算。
所謂初等教育。
それを10歳から14歳までの子達が教会で学ぶ。
貴族の場合は10歳から12歳までに家庭教師から初等教育を学び、12歳から王立学院中等部へ入学。
私は中等部を卒業してるので平民と比較するなら高学歴。
知性面ではその辺の大人にヒケを取らない筈。
冒険者になっても身に余る危険な依頼を受ける気はない。
それこそ街中での雑用、有れば魔道具に魔力を充填する仕事を請けたい。
居候として息を潜めて暮らすのは性に合わないので仕事をしたいが、できれば安全に稼ぎたい。
「…伯父様としては私がアシュリーとその婚約者の目に触れなければ良いんだから、要するに髪の毛隠して使用人のような格好でうろつく分には構わない筈よね」
グラインディー侯爵邸の別館は裏門に近い。
元々ここに住んでた人達も外出時には裏門を使ってた筈。
本館の人間も裏門を「お忍び」の時に使うことはあるだろうから、それには警戒が必要だが…
だからこその変装だ。
「今の時期は暑いし、フード付きのマントみたいな防寒具で髪や目元を隠すのは不自然だもんね。やっぱり、カツラとメガネが必要かな?」
と現実的な課題を考える。
「この別館の物置きにでもカツラとメガネがあれば良いんだけど…」
(まぁ、期待はせずに、それでも一応探してみるか)
私は侍女に
「物置きは何処?」
と訊いて、自ら物置きを漁る事にした。
別館にはレベッカの継母エリザベスと異母弟のウォルターが暮らしていたので、その頃の名残りなのか、女性用と男子用の衣類が残っているが、約20年ほど前のものなのでデザイン的に今着ると悪目立ちする。
だがカツラと伊達メガネは男子用の衣類と共に見つかった。
ウォルターは(私にとっての叔父は)裏門からお忍びで出かけていたのかも知れない。
茶色のカツラの長さはセミロング。緩く後ろで結べるくらいの長さだ。
地毛を覆い隠すには地毛を結って纏めておく必要があるが充分使える。
「男子用の服もフォーマルなものは流石に当時のデザインだから着れないけど、室内着っぽいシャツとかズボンは特徴もないし、黄ばんでるものの、貧乏平民設定ならおかしくないよね。
ウォルター叔父様の『おさがり』、有り難く利用させてもらいましょう」
私は上機嫌になった。
(前世でも「おさがり」ばっかり着てたし、そういうのに抵抗感を感じないのは根っからの貧乏性って事なんだろうね)
外出禁止なども言い渡されていないので、疾しい気持ちは何一つない。
アシュリーの婚約者を探している今も、アシュリーの婚約者が決まってからも、アシュリーとその婚約者と遭遇しないようにさえ気を付けていれば良いのだから、随分と自由はきく。
私は令嬢用の服を脱いで、古くてダサい男子用の服へと着替えてから自毛をコンパクトに纏めると、カツラをかぶり、メガネもかけた。
「うわぁ〜…。スゴイ。カッコ悪い。何、このみっともない子は…」
と鏡を見ながら、思わず自分で自分を貶してしまった。
人間の見た目はどうやら髪型や服装で大きく印象が変化するものらしい。
可愛らしい顔も台無しの野暮ったさである。
「…でも、これで私だと気付く人って居ないよね?赤目ってランドル王国じゃ珍しいけど、アザール王国じゃ王家は勿論、高位貴族やその庶子の多くが赤目だって言うし、『アザール人の血が混じった平民』って事で普通に平民暮らしできそう」
と本気で思ってしまう。
色替えの魔道具なら確か実家のブライトウェル城に有った筈だが…
普通の家にはそんな魔道具は無い。
そもそも庶民はそんな魔道具がこの世に存在する事さえ知らない。
(色替え魔道具があれば更に目立たなくできるんだろうけど…)
外をウロウロして目立たずに済ます為には
自分の見た目レベルを数段落とすのが
一番簡単で無難な手段なのである。
「外出禁止って言われてないし、侍女には説明して堂々と冒険者ギルドに行っても問題ないよね?」
ソッと小声で鏡の自分に話しかけた…。
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冒険者ギルド、ランドル王国本部。
流石にこの国での本部なだけあって建物が大きい。
職員数も国内最多。
冒険者登録の申し込みも壁に貼られた案内チラシには
「身元保証が必要ない」
と書かれていて少し心配になったくらいだ。
「どんな人間でも手軽に登録できる」
という意味で便利だが、犯罪者が大量に入り込んでしまう。
特に外国人の。
(こうやって裏社会って外国人に乗っ取られていくんだね…)
と、政治に疎い私でさえしみじみ思ってしまった。
ギルド会館内で外国人冒険者を何人も見かけた。
冒険者ギルドに限らず各種ギルドでは
「職員も冒険者も現地の言葉でやり取りするのが原則」
なのだが…
冒険者同士の会話にはそうした制約はない。
外国人冒険者達が各々自分達の母国語で会話している。
外国語は王立魔法学院では必須科目。
中等部でも習ったので私も簡単な日常会話程度なら近隣諸国の言葉は判るが…流石に方言やスラングまでは判らない。
「なんで職員が全員ランドル人なんだ」
「おかしいだろ」
「ランドル王国内では公的な場ではランドル語を話さなければならない、とか外国人差別じゃないか」
「調子に乗ってられるのも今のうちだ」
などと言ってるアザール人達が憎々し気にギルド職員を見ているのが判る。
(「言葉が通じないのが困るから」という言い訳で「公的機関の職員に外国人を雇用しろ」とか言い張る連中は「言葉も分からない国に来るな」という物の道理さえ無視して乗っ取り侵略兵としての役目を果たしているんだろうね…)
と思い、一気に気が滅入った。
「言葉が通じないのが困るから、公的機関の職員に外国人を雇用しろ」
という屁理屈は馬鹿らしくなるくらい
「露骨な侵略正当化理論」
なのだが…
言ってる外国人達は自分達のそうした思考や言動が
「まるっきり乗っ取り侵略兵だ」
という自覚も無かったりする。
本気で「出て行け」と言いたくなる。
今が占領下ではない平時なら
私がそう思うよりも前に
そうした意図で誰かしら行動を起こしていた筈だが
現在の現状ではランドル人は思った事さえ言いづらい状況。
だからこそ彼らは
「ランドル人は何も文句を言ってこない」
という事に味をしめて調子に乗り口が軽くなるのだろう。
「ランドル人てバカなんだろうな」
「バルシュミーデ軍の樹海越えにはランドル産魔道具が使われてたんだろ?」
「自国の魔道具技術が利用されて侵略される可能性を考えてなかったのかも知れないが…軍事利用できる魔道具を敵国で安価で流通できるようにしてた時点で頭オカシイだろ」
「ランドル人全員がバカって事でもないんだろうが、ランドル人政治家も王家も凄まじくバカだったってのは間違いない」
アザール人達の「ランドル人分析」が聞こえてきた事で、バルシュミーデ軍の樹海越えがこの国の魔道具を利用してのものだと分かった。
(…「情報規制」されてるのかな?そう言えば、誰も「バルシュミーデ軍が樹海越えした方法」を教えてくれなかったし、多分誰も教えられてないんだ。私達ランドル人には…)




