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挿絵(By みてみん)


ランドル王国辺境ーー。

広大な樹海に面した土地。


樹海には野生の生き物が棲まい、凶悪な最上級魔物を頂点としたヒエラルキーが展開されている。


樹海の中には何度となくスタンピードを起こしてきたダンジョンがあるのだという。

誰かがダンジョンを攻略してダンジョンを消滅させてしまえたら樹海も少しは安全になるのだろうけど…

ダンジョンから排出された魔物自体が危険なため、攻略どころか、ダンジョンまで辿り着く事自体が難しいのだそうだ。


そんな物騒極まる樹海ーー。


そこを人が横断することなど滅多にない。

それでも樹海の向こうには軍事大国のバルシュミーデ皇国が有るため

「万が一」

の事態を危惧して、ブライトウェル辺境伯領は

魔物の脅威に対してだけでなく皇国の侵攻にも備えて戦力を蓄えていた。


誰も平和ボケなどしておらず

日々鍛錬を積んでいた辺境伯軍は強かった。


普通に考えてーー

「辺境の平和もランドル王国の平和も磐石だ」

と思われたものだが…


その辺境にある城砦。

ブライトウェル城。

(私、リリアン・ベニントンが生まれ育った住まい…)


そのブライトウェル城と城下町に

樹海横断してきたバルシュミーデ皇国軍の強襲が降りかかったというのだ。


ブライトウェル辺境伯エリアル・ベニントンと嫡男ナイジェル。

私の父と兄。


彼らの討死が城内に伝わると共に

辺境伯夫人がーー母レベッカがーー自害…。


既に他家へ嫁いでいた姉エリアナは無事だけど…

今後どうなるのかは判らない。

勿論、私の未来も…。


********************



「そんな話、嘘よ…。信じない。信じられない…。お父様が亡くなる筈がない。お父様に勝てる人間なんていないわ…」


私は

「ブライトウェル城が敵の手に陥ちた」

という情報を初めは真っ向から否定した。


王立魔法学院高等部への進学を控えている今の時期ーー

私は婚約者イーノック・トレントの家に(レディング伯爵家に)身を寄せていたのだ。


何の前兆も無い出来事だったので

報せを受けても全く実感はなく

俄には信じがたかった。


イーノックの父、レディング伯爵であるゴドフリー・トレントが

「…偵察隊を送り、辺境伯領の様子を探らせよう」

と言ってくれたので、私はその案にしがみ付く事にした…。


私の母レベッカは元グラインディー侯爵令嬢。

母は子供の頃からレディング伯爵家と親交があったので、現伯爵ゴドフリー他、その弟妹からも好意を持たれていた。


私がレディング伯爵家に来る度に皆が親切にしてくれた。

それに甘えて第二の実家感覚で入り浸ってきたーー


のだが

(…辺境伯家自体が失くなったのだとしたら、私はもう「後ろ盾のない平民」と変わりがない。イーノックとの婚約も無効になってしまう…)

という事は流石に判る。


(…お母様の実家のグラインディー侯爵家にお世話になるか、お姉様を頼ってプレスコット伯爵家に居候させてもらうしかなさそう…)

そう思うと気が滅入った。


何せ私は、グラインディー侯爵家とも姉エリアナとも折り合いが良くない。


グラインディー侯爵家の現当主ジャレット・ルースは、母の母マリオン(私から見て祖母)の実家であるマスグレイヴ侯爵家の人。

グラインディー侯爵家へ養子に入って後、グラインディー侯爵になっている。

母とは従兄弟に当たる人物。


その伯父ジャレットは勿論、親戚や使用人に至るまで皆、グラインディー侯爵家は母を神秘化して半ば崇拝している人達の集団…。


私は母にそっくりな容姿。

髪の色や瞳の色までも同じ。

少女時代の母に生き写し。

それでいて、性格も性質も全く違う。


なので私のような

「顔だけそっくりで能力も性格も劣る子供」

に対しては

「レベッカ様の偽物」

扱いが降りかかり、肩身が狭かった…。


母は私から見ても貴族夫人のお手本のような優雅で美しい女性だったので崇拝したい気持ちは判る。


子供時代から相当優秀だったらしく、学生時代の偉業は今では半ば伝説と化している。

学生時代から複数の魔道具を開発して国に貢献していたという話。

(因みに王立学院の魔道具部は特許取得権が認められていないため、学生時代の魔道具開発は特許資格を国に取り上げられてしまい収入に結び付かない)


要は国にとって都合が良かった人材を

「優秀だった」

と呼ぶのがこの国の伝統のようだ。


(いつもお母様と比較されて自分を否定されるのって疲れる…)


兄と姉は双子。

二人とも父親似。

妹を可愛く思ってくれる人達なら良かったのに

兄は私と距離を置いていたし

姉は何故か意地悪だった。


(今後の人生、どうなってしまうのだろう…)

と不安だ。


両親と兄が亡くなったと聞いても現実味がない。

「意味が判らない」

のだ。


ただただ自分の社会的な足場が崩れて、これまで無条件に自分を支えてくれていた両親という存在の不在に強烈な不安を感じた。


(本当に居なくなってしまった、のかな…。無条件に私を愛してくれる人達が…。お父様とお母様が…)

悲しくて仕方ないのだけど…

それ以上に恐怖を感じて混乱しそうになる。


未来が怖くて

生きるのが怖くて

不安と恐怖で涙が溢れてしまう…。


私には自分の先行きに暗雲が垂れ込めているように感じられたのだ…。



全100話完結です。

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