花塵を踏む(3)
「聖女ダグマルよ。執行を許可する」
明確な敵の出現にハウスマンはダグマルへ指示を出した。
聖女隊は処刑隊と同質の執行部隊であるため、その武力を行使するには建前として命令を下す上位系統と正当な理由が必要になる。ダグマルは経験が浅いため、聖女隊の聖女は命令がなければ自衛すらできないと思い込んでいた。
歯痒い思いで状況を眺めていたが、交戦の許しに俄かに気持ちが浮ついてしまう。ようやく力を出せる、しかも仇討ちゆえに一定の正当性も保障される。
ダグマルはハウスマンを見て頷いた。
「拘束術式を解除します」
「承認する」
「――聖遺物起動」
頭の花飾りが燐光にも似た光を発している。
すでに怪物たちはダグマルを取り囲みつつあるが、ダグマルは動かず構えを崩さない。
押し寄せる波の一波が飲み込まんとする、
「……創造――ッ」
瞬間、閃光が走った。腕を振り上げたダグマルの目前で怪物の内の一体が縦に六分割され、周囲の怪物もその身に裂傷を受けて散り散りになった。
ダグマルの身体には花飾りから伸びた光の蔦が巻きつき、指は鉤爪に変化していた。髪で隠れた左目から魔力の放射が漏れ揺らいでいる。玲瓏たる気が灯火のように存在感を放つ。
変化はそれだけでなく、彼女の傍らで切り裂かれた怪物の死体に「何か」が喰らいついていた。その異形はかろうじて人型を成す毛のない獣で、ダグマルとは花飾りの蔦の一本で繋がっている。見た目こそ、堂内に湧いた怪物たちと近しいものがあるが、その悍ましい外見に反し、気配は清廉で荘厳さすら覚えさせる。
(へぇ、あれが彼女の能力ですか。面白い……)
サリクスはダグマルの能力に興味を抱いたが、目の前の脅威を無視して彼女を観察することが許される状況ではなかった。
壇上という地の利はあったが、殺到する怪物の群れには気休めでしかなかった。サリクスが銃撃し術符で焼くよりも早く、次々とマモノが押し寄せてくる。ハウスマンがカバーしてくれてはいるものの、それもサリクスが銃の再装填を行ったり、新たな術符を用意する隙を埋める程度の助けだった。
「どうにかして教会の外へ出たいですが……」
「ああ、外が安全かどうかはわからないが、このままでは儘ならない」
いかなる実力者であれど、物量の前には苦しい戦いを強いられる。サリクスとハウスマンの両者は互いに敵を一掃する手段を持っているが、この状況下では味方を巻き込むことは避けられず、安易に切れるカードではなかった。高い火力を投射できる術師、閉所での共同作戦――その両方がよくない方向へ干渉してしまっていた。
「あの二人をなんとかしないと――」
自分たちは壁を背にしているため、最悪は壁を破壊して脱出すればいいが、怪物たちの只中にいるエルラとダグマルはそうにもいかない。
――
エルラの前で、斬り倒した人型のマモノたちが再び立ち上がった。破壊された部位はそのままに、歪な形で活動を続けている。その様子にエルラは、むせそうになるほどの嫌悪感が込み上げてくる。
「ホント、気持ち悪い」
エルラは悪態を吐き、怪物の頭を力任せに叩き潰す。
〈リリ〉の攻撃では確殺には至っていない。なんらかの術式を斬っている手応えはあるが、再起能力は術に依存していないようで〈リリ〉の能力でも完全に無力化できずにいた。それとも単に出力を絞り過ぎて効いていないのか、あるいは初めから効いていないのか。どうにせよ、このままでは埒が明かない。焦りに駆られているわけではないが、状況が動かずにいるのは、どうにももどかしく心地もよくない。
「……親玉を潰さないとダメか」
『だね』
「なら、ちょっと本気を出すよ、リリ。遠慮しないでもっと吸い上げて」
『わかった』
「Setzen――」
エルラは術式の接頭宣言句を告げると、節をつけながら呼吸を始めた。エルラの習得した身体強化の術。呼吸や動作を呪文の代替とする、儀式術の派生形。
姉の術に合わせて、リリも言葉を紡ぐ。
『《荒れ狂う潮汐が大地を喰らおうとしても、幾百幾千万の民はその噛み痕を塞いでみせるだろう。そうして楽土は為されるのだ。さあ石を積め。波は然るべきところで堰き止められるべきなのだから》』
短い演説を受けて、剣身に纏う黒い耀きが強くなる。
エルラは強化された脚で床を蹴った。足が離れた一拍ののち、床板が砕けた。
目にも止まらぬ速さで「蕾」へ跳ぶ。
一息に肉塊へ突っ込んでいく。さながら隕石のようでもあった。全体重を乗せ、切先を突き立てる。夥しい量の体液がエルラに振りかかる。それでも怯まずに、柄や自分の手まで捻じ込まんとする勢いで、殺意と使命感を集中させる。
一〇を数えるほどの時ののち、血の濁流は治まり、エルラの手に伝わる拍動も消えていった。
やったか、とエルラとリリが無力化に喜ぼうとしたとき、
沈黙したばかりの「蕾」は一際大きく脈打ち、衝撃を放った。
エルラと〈リリ〉は弾き飛ばされた。その余波で、近くにいたダグマルと怪物も吹き飛んだ。
衝撃波によって、「蕾」の周囲は床板までもが切り取ったかのように消散した。怪物たちは、はたと動きを止め、「蕾」の方を向いて頭を垂れた。交戦中だったサリクスとハウスマンも視線をそちらへ流した。
静まり返った教会堂の中、悠々とソレは開いていく。
「なんなの……面倒くさいヤツ」言い捨てる。「大人しく死に絶えなさいよ」
咲いた肉塊の中から姿を現したのはさらなる異形だった。「干からびた巨大な胎児」というのが、その存在について言い表すのに最も近い言葉だろう。
胎児の怪物は空中に浮遊し、その足下には一人分の人骨が黒い粘液に埋もれている。その骨がノーラマリーのものであろうことは、その場にいる全員の想像に難くなかった。
巨大な胎児が骨に触れると、骨は崩れ消えた。そして、目と口を開き、建物が揺れるほどの叫びをあげた。
人型のマモノたちも共鳴するように甲高く絶叫した。頭が裂け、青白い肉の花弁を形作る。膨らんだ腹は弾け、中からヒルやナメクジに似た四肢のない生物が這い出でる。とめどなく溢れ出す大ヒルたちの量は、明らかにその母体の体積や質量を大きく上回っていた。やがて、大ヒルの群れは集合し、人型の新たな怪異へと形態を変化させた。骨のような硬質組織が露出しているが、それらが骨格として機能している様子はなく、人型実体はゆらゆらと不気味で不自然な動きをしている。
まるで、躍る波のようでもあった。
「バカな……あれは海の……」
ハウスマンがポツリと零した。
目の前のマモノたちは〝海〟の怪物だった。「海の魔物」がこのような場所に現れることは珍しい。特にあの胎児のような〝真〟に近い高位の存在は、内陸に出現する「迷い海」程度の浅瀬には上がってはこない。海辺でさえも数十年に一度目撃されるくらいで、交戦ともなれば百年単位に一度の歴史的な非常事態だ。それが、いまここで起こっている。
脅威の程度を見誤っていたことに、いま、気付いた。
四人で対処できるような相手ではない。それも互いの力量も戦術も知らない即席未満のチームではなおのこと。突破口があるとすれば、この場に現れた枯れた胎児の怪物は〝不完全〟な存在である点だ。それは一帯が異界化していないことから推測できた。強力な海の怪異は、領域を自身に適した〝海〟へと上塗りしてしまう。現時点でそれがない、ということは、少なくとも地の利は自分たちにある。
しかし「いまはまだ」にすぎない。多少無理をしてでもこの地に定着する前に排する必要がある。
ハウスマンは、ハンドカノンの使用を内心では決心しようとしていた。
新たな怪物たちを目にし、リリが嫌悪と敵意を膨れあげさせる。
『汚らわしい海の血族め』低く唸るように。『次は殺しきる』
この数年で好戦的になった妹に思うところがないわけではないが、戦いを拒否されるよりはよいことだ。
しかし、リリの殺気と闘志に反して、エルラは半ば気持ちが冷めつつあった。初の実戦で思うように敵を倒せずにいたのと、干からびた胎児の化け物にはいまの自分は敵わないかもしれないと予感してしまったからだ。未知の相手に己の自信が揺らぎ、妹への信頼もぼやけてしまいそうになっている。実力がついたことで、相手の強さを測るものさしが自分の中に出来上がった。それがいまは、あまりよくない方向へエルラの思考を誘っている。
だとしても、自分は狩人なのだ。狩人の仕事は害為す存在を狩ることだ。自分は狩人なのだから、敵を、脅威を無力化しなくてはならないのだ。
自分は不死で、多少の無茶ができる。
切り替わりかけたスイッチを元に戻す。
息を止め、狩人エルラは海のマモノの群れに突っ込んでいった。
◆ ◆ ◆
渦を巻くかのような乱戦だった。打ち寄せる波が白く砕け、飛沫と散る。荒れた水辺のようだった。
エルラとダグマルが異形たちの只中で暴れ回り、外周からサリクスが削り、ハウスマンはダグマルの支援をしながらサリクスを援護している。
ヒル状の個体が集まった人型群体には、教会の術式も効果が薄く、構成する個体すべてを屠ることは難しかった。いくら群れを潰そうが別の群れと集合し、新たな群体になってしまう。さらには「花」から、次々と個体が生まれ続けていた。敵をいくら倒しても、中央の胎児の怪物に辿り着けず、動きの大きさに反し状況は膠着していた。
怪異側も、たった四人をいつまでも蹂躙できずにいることに業を煮やしたのか、より大きな攻勢に出た。
触手化した群体と人型群体が波となって押し寄せる。一波目が前衛のエルラとダグマルと接すれば、二波、三波は二人には目もくれず後方のサリクスとハウスマンへ跳びかかる。
異形たちは、単調な動きながらエルラとダグマルの身体操作の癖を弁え、彼女たちの行動を制限する攻め方をした。これにより、二人は後ろへ流れた敵への反応が遅れた。瞬きの間ほどの隙とはいえ、混戦状態では致命的な影響を及ぼしかねない間だ。
雪崩のようにサリクスへ触手の柱が迫る。ハウスマンも敵に囲まれつつあり、お互いにカバーする余裕もない。
ホイールロックのピストルを懐から引き抜き、撃った。撃ち落とすつもりで発砲したが、炸裂術式の水銀弾が触手を穿つことはなかった。
放たれた弾丸を避けるかのように触手は空中で分裂した。より細い形状となり、サリクスへ殺到する。触手がサリクスへ纏わりつく。動きの鈍った一瞬の間に、人型群体がサリクスに触れる。触手と腕の群れがたちまちのうちにサリクスを拘束した。
「ああ、もう!」
サリクスが脈打つ肉塊の不快感に堪らず叫んだ。死には至らない加減で触手はサリクスの身体を締め上げ続けている。足が地を離れる。
間を置かず触手が装束の下へ潜り始めた。彼らの目的はサリクスの肉体だった。この期に及んで、当初の目的を果たそうとしている。
「――ッ!」
肌を這い、弄る触手たちへの嫌悪を露わにする。
身を震わせ、小さく何かを呟いた。その瞬間、
「サリュ!!」
エルラが急襲し、サリクスに群がる異形たちを斬り払った。エルラは血相を変え、激しく息を切らしている。サリクスを助けるために過剰な力を注いだことが見て取れる。
こんな場面で死力を尽くす必要などない。サリクスは舌打ちしそうになるのを抑え 半ば独り言のように言った。
「わたしを守る必要はないです」
身体に巻きついたままの触手を引き剥がし、無造作に投げ捨てる。ボロボロと崩れるほど脆くなったそれら断片は黒く変色し、萎びていた。
サリクスは、エルラの助けに頼らずとも、束縛を逃れることができた。エルラもそのことを知っているはずだが、〝もしも〟を心配しての行動だったのだろうと、サリクスは考えた。責めるのは筋違いであるし、自分が危機的状況に陥ったのは事実だ。彼女の行動に対し「助けられたことを覚えておくから、ちゃんとしたお礼は後で返す」ことを伝えるため、礼を言う。
「でも、助かりました」
サリクスがエルラを流し見て、照れくさそうに微笑んだ。
一瞬、エルラはドキリとした。惨憺たる現場には似つかわしくない表情に怯んでしまう。
平静を装い、口を開いた。
「どうすれば、アレを狩れる?」
「ここは教会の方たちに任せましょう」
サリクスはそう言い、ハウスマンとダグマルを見やった。
エルラも彼らを一瞥し、「ふーん」と小さく首を傾けた。現状の自分の力では確実性がないことは理解しているが、だとしても首切り人から外されるのは不満に思う部分もある。
サリクスがハウスマンへ呼びかける。
「それでいいでしょう?」
「痛み入る」
「いえ、助かるのはこちらです。いまのわたしたちであの怪物の相手をするには〝奥の手〟を使わなくてはならないところでしたので」
術師というものは可能な限り、その人にしか扱えない切り札を隠したがる。サリクスも狩人で戦闘員である以前に術師なのだ。自身の成果を誇示したい人物ならば話は別だが、サリクスは自分にしか使えないようなものは秘匿しておきたいタイプの術師だった。それを抜きにしても、術師にとって大抵の場合「奥の手」は自分の研究の極致で、秘術中の秘術だ。使うからには必殺でなければならない、目撃者が存在しなかったことにすれば隠し通したことと見做す、そういうものだった。
ハウスマンは術師の奇妙な流儀について、一定の知識は持ち合わせていた。サリクスは、サリクスたちの事情という建前でハウスマンたちに〝狩り〟を譲った。彼女たちは、調査隊を全損し、ノーラマリーが術の基盤に据えられてしまった教会陣営に雪辱と救済の機会を与えた形になる。ハウスマンは、そのように受け止めた。
しかし、実際のところはサリクスには言外の意図はほとんどなく、せいぜい武装聖職者の上級戦闘の観察をしたい興味を潜めるくらいだった。
ただ一つ補足するならば、サリクスが「奥の手」を秘する理由は、術師の文化というだけでなかった。彼女の「奥の手」は、教会勢力からすれば排斥や封印対象となりうるもので、この場では貢献者として見逃されても要注意人物の名簿入りは免れない。だから、術師の慣習ということにしておいて不用意な露出を避けた。もちろん、教会組が失敗するようであれば、彼らはおろか町ごと処理する心づもりをしている。
「彼らの援護を」
サリクスがエルラへ伝えた。エルラは頷く。
「でも、別にさ――」静かに、自分に言い聞かせるように言う。「わたしが殺しちゃってもいいのよね?」
「ええ、キミならできます。けれど、今回は彼らを立ててあげましょう」
サリクスは、エルラの気持ちを汲んで、言った。
リリは、エルラの言葉に「ふふふ」と笑いを零している。どこか笑いのツボを捉えたようだった。
『じゃあ、倒さないようにしなくっちゃねえ?』
「手を抜け、というわけではありませんが、もしものために余力は残しておいてください」
サリクスはリボルバーのシリンダーを交換しながら言った。
エルラは〈リリ〉を肩に担ぎ、踏み込む構えをとった。
「わかったわ」
エルラは肉の波に斬りかかった。
――
「聞き届け給え――」「傾聴せよ――」
ハウスマンとダグマルが告げた。
ハンドカノンの準備を始めた。より厳密にはハンドカノンの空間爆撃に必要な諸元の入力と魔力の調整を行っている。
《日に陽光あり、夜に月明あり。主の輝きは満ちている。その翳りに備えよ。天の火が見えぬときは炉の灯りを絶やすことなかれ。胸に火を抱き、絶やすことなかれ》
二人はランタンの扉を開け、掲げた。灯火が耀う。教会の聖火を分けたランタンは、簡易的な聖域を展開する術装で、武装聖職者にとって不利な条件を減じ、場を整える。
海の気配が中和され、二人の周囲に魔力が集まっていく。
《私たちが塵にすぎないことを忘れるなかれ。私たちの営みは草と変わらず、野の花のように咲き朽ちる。私たちは軽く、風が吹けば消え失せ、知る者は残らず。彼らも同じと知らしめ給え》
マモノたちの攻撃の優先度はサリクスとエルラに寄っている。それを利用して、二人、とりわけサリクスを囮にすることで教会組の準備時間を稼ぐ作戦だ。
しかし、ハウスマンとダグマルが何かを仕掛けようとしていることを敵も察知しつつあった。
もっとも、ここまで魔力が一点に圧縮される状況になれば、心得のない者でもその異様な空気に気付く。怪物たちの脅威への感度は一般人と同程度の鈍さだった。
それもそのはずで、この場にいるマモノは、「干からびた巨大な胎児」の外貌と違わず生まれたばかりの存在で、その〝不完全さ〟も相まって、知というものに疎かった。召喚術式に委託された「母」への執着を、本能に近い衝動を以って自動的に実行しようとしている。群れの中枢である胎児の怪物がそう動くからには、手足である群体たちもそれに倣う。彼らの知識の上では、目的達成を阻む障害は存在しないもの、考えの及ばない存在だった。
他方で、うまく事が運ばない状況への対応ができぬほどに知性が欠如しているわけでもない。
ようやく己たちを滅する術式が準備中であることに気付いた群れは、攻勢のパターンを変えた。自分たちの悲願を完成させるには、害意から身を守る必要性を学んだ。時間にしてみれば時計の針が一周もしないほどの経過で、そこまで対応できているのだから、適応速度としては上々といえる。しかし、電撃的な局地戦闘においては、予め用意ができていなければ、結果を残すことは難しい。
胎児の怪物が吼えた。
ダグマルとハウスマンへ触手を先鋒にして怪物たちが襲いかかる。
篠突く雨の如く無数の触手が殺到する。
それらを横からエルラが斬りつけた。獣のように縦横無尽に駆け回り、肉の波を砕き、触手の林を薙いでいく。
喧騒の渦中で、ダグマルとハウスマンは朗々と言葉を紡ぎ続ける。
《私は私の前で罪を犯すことをさせず、無垢を騙る者を許しはしない。悪を為す者は断たれ、尽く滅ぼされるだろう。焼かれ煙となるように、水が乾くように。何人も為したことから逃れうる者はいない》
突如としてマモノの動きが鈍った。〝線〟でその身を射止められている。ハウスマンとダグマルの手によるものだ。杭や釘に似たそれは攻撃対象を識別する印であり、対象の動きを止めることで誘導を必中にするための捕縛術式だった。
ハウスマンらの準備が最終段階に入ったことを意味している。
捕らえられた異形たちは縛めから逃れようと震えた。自分たちが磔にされた、あるいは断頭台に首を据えられた状態にあることはマモノの群れにも理解できた。迫る〝終わり〟に人外の彼らも恐慌している。
巨大な胎児たちが目的を果たすには、逃走し潜伏することが戦略としては適切だっただろう。だが、彼らはその選択肢を用意できなかった。初めからこの大地に根を張ることを行動原理に生まれたからだった。訪れたのがサリクスやハウスマンたちでなければ、生存のチャンスはいくらかは残されていたかもしれない。
《主はお前の罪を尽く赦す。その罪穢と病苦を癒し、救う。永久に責めることはなく、追われることはない》
ハウスマンとダグマルは詠唱を終えると、ハンドカノンの引き金を引いた。
次の瞬間――
光の奔流が怪物たちを喰い千切った。




